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DESTROY  作者: 氷室
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第二章

 翌朝、学校へ行くのに気が進むない洋介だったが、休むわけにもいかず重いため息をつきながら登校をしていた。気が乗らない理由は菜々美と瞳に会いたくないということであった。

 とりあえず隣の家の瞳といきなり遭遇という最悪なケースは避けることが出来た。だが学校が近付くにつれ遭遇の確率は増していく。それを思うと洋介の足取りは徐々に重くなっていった。

「行きたくねえな。今日が休みだったらよかったのに」

 誰にも聞こえない程度に小さく呟く洋介。しかし現状学校があるということが覆る連絡はない。伝染病も台風も地震も何もない普通に学校がある日である。自主休校という手段は母親が自宅に専業主婦としている以上使えない。

「保健室に篭ってもなあ。一日中いるわけにもいかないし」

 八方塞の洋介はますます気が滅入っていくが、もう校門は目の前である。覚悟を決めるしかなかった。

「瞳はともかく小山田は同じクラスっていうのが最悪だよなあ」

 覚悟が決まりはしたものの突き進むとなると同じクラスの菜々美とは必ず顔を合わせることになる。それを思うと決めた覚悟が途端に揺らぎそうになる。

「なんか頻繁にアタックしてくるんだよなあ。もしかしたらあいつのせいで瞳が俺を避けてるんじゃないのか?」

 そんな風に今までの失敗を責任転嫁しているともう昇降口である。とりあえず下駄箱付近には菜々美の姿はない。

「このままあいつが休みだと嬉しいんだけどなあ」

 そう洋介が呟いた時、洋介の肩に誰かの手がかかった。

「誰が休みだと嬉しいの?」

「うわっ!?」

 突然の接触と声に思わずオーバーリアクション気味に振り返った洋介の目の前には菜々美の姿があった。今ちょうどその当人のことを呟いただけに驚きは大きかった。

「そんなに驚かなくてもいいじゃない。とりあえずおはよう」

「あ、ああ。お、おはよう」

「それで誰が休みだと嬉しいの?」

「い、いや。それは……」

 困り果てる洋介の様子を見て菜々美は面白そうに微笑み始める。その表情は楽しいという以外に幸せという感情をも感じさせた。

「あはははっ。まあこのぐらいで勘弁してあげる。さっ、早く教室行こうよ」

「そうだな。行くか」

 早くこの話題を打ち切りたかった洋介は助かったとばかりに菜々美の言葉に頷く。そして二人は並んで廊下を歩いていく。

「今日数学があるんだよね。かったるいなあ、サボっちゃおうかなあ」

「サボるのか?」

 廊下を歩きながらいかにも面倒くさそうにサボりを仄めかす菜々美に洋介は素早く食いついた。そんな洋介の態度に不満を感じた菜々美はイジワルそうな表情を作りながら洋介の期待を砕きにかかる。

「それでも洋介も同じ教室にいるんだから受けないとね。残念でした〜」

「べ、別に俺は残念がってなんて」

「ホント? 嬉しい!」

 そう言って菜々美は洋介の腕に抱きつく。柔らかな感触を突如腕に感じた洋介は顔を真っ赤にして焦る。

「や、やめろって! お前、こらっ」

「やめな〜い。このまま教室まで行こう」

「皆見てるだろうが。離せって」

「私にとっては願ったり叶ったりだし」

「ぐっ……。もう好きにしろっ!」

 すっかり菜々美のペースに巻き込まれている洋介は諦めて菜々美のなすがままになった。こうして二人は好奇の目で見られながら廊下を練り歩き教室まで向かうのだった。


 昼休み、菜々美は洋介に近付かずに屋上で一人で昼ご飯を食べていた。あまり近付きすぎるとかえって洋介の不興を買うことは菜々美にも分かっていたし、今後の作戦を考えることもあっての行動であった。

「これからどうしていこうかなあ」

 誰に話すともなく菜々美はそう呟く。実際に声に出した方が考えがまとまるのだろうか。屋上に一人しかいないこともあって菜々美も特に周りを気にする様子はない。

「とりあえず今まで接触し続けて印象付けはもう大丈夫のはず。次は……」

 そう言うと菜々美は目を閉じ、考えを頭の中で巡らす。

 普段は明るく振舞っている彼女だが、こうして静かに穏やかにしているとまた違った魅力を生み出す。

 そして考えがまとまったのかゆっくりと目を開け、決意に満ちた表情を見せる。

「寂しいけど接触をしばらく避けて私の存在を思い知らしめる。これでいこう」

 菜々美の考えは今までの接触で印象付けた自分の存在を、今度は急に近くに寄らなくなることでより際立たせようというものだった。

 何事も押す一辺倒では上手くいかない。タイミングを見計らい引いてやることで上手くいけばそのまま自分の方へ転がりこむことさえある。

 そういうわけで菜々美は長い目で見てより関係を前進させるため、また上手くいけば一気に願いを成就させるためにあえて寂しくなる方向をとったのである。

「はあ、もし彼氏にすることが出来たら何をしようかなあ」

 もう既に作戦が上手くいくことを信じきっている菜々美は顔をだらしなく緩ませ、将来のことを考えてしまっている。

「初デートはどこにしよう。記念だから一緒に考えたいなあ」

「学校内でも一緒にご飯を食べたりしたいよねえ」

「学園祭も体育祭も一緒に過ごしたいし」

「夏休みやクリスマス、バレンタインデーも特別にしたいな」

 菜々美の脳裏に浮かぶ幸せな未来図は尽きることなく次々と浮かんでいく。まだ高校二年の春、これから楽しいイベントや時間はまだまだたくさんある。それを考えると菜々美はとろけてしまいそうな程幸せに浸ることが出来る。

 そしてそれと同時にそんな未来を実現可能なものにするために菜々美は作戦を確実に実行するよう決意もしている。こういった幸せな妄想はその作戦期間の寂しさを紛らわすためのものだったのかもしれない。

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