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不意を突かれたらしいヘリが、今更のように動き出した。この短い時間で広げた程度の距離では、スペックの差で簡単に埋められてしまう。フェンスの上を走ろうと、ビルからビルへ飛び移ろうと、ヘリで追われれば逃げ切れるわけがない。走る、という、人と同じ移動方法を使うなら。
だけども。しかし。忘れてはいけない。僕は、都市伝説として語られる存在だ。この名前を気に入っているわけではないけれど、むしろ大嫌いな名前で、愛着なんかこれっぽっちもないけれど。
僕はナイトダイバーだ。
スピーカーからの声は、もはや聞き取れない。リポーターが何かを叫んでいるらしいことは、なんとなくわかる。一枚の壁を間に挟んでいるかのような、ぼんやりとした、それでも本物の緊迫感に満ちた言葉。
それら全てを置き去りにして──ビルの狭間、漆黒の闇が横たわる、街の暗部へ。飛び込んでいく。頭から。
落ちる? いいや、違う。沈む。闇の中へ、影の中へ沈む。潜りこむ。周囲の黒と、自分が同化する感覚。世界へ溶けていってしまうような。
ナイトダイバー。夜に潜る者。
その名の通りに、僕は闇に潜り、溶け、そして次に浮上するときには──