05
「触れられればキミの負け。そうなれば、距離を取るのは当然だ。そう考えれば、むしろ触れるのはたやすい」
さて、と言葉を区切って、スメラギ。
「キミには、二つ目の本質と、四つ目の名前を与えなければならないね」
ナイトダイバーが歯を噛み締める。蛇が体内を這いまわるような感触。形容しがたいこの感覚は、しかし彼にとっては初めての経験ではない。
二年前。肉体という器から魂を解放させるための、『魂の変質』の際、似たような感覚は味わっている。実際の肉体を蝕むのではなく、他者の魂を自らの支配下に置くスメラギの異能。その副作用。
その異能を行使できるからか、スメラギは上機嫌に語り始める。
「キミのアイデンティティを否定するようで悪いが、やはりヒトであった頃の名前は捨てるべきだろう。キミが元人間であることは誰も知らないし、誰も気付かない。ヒトにとってキミは、非日常の存在なのだから」
魂を掌握された今、ナイトダイバーの体は彼の体であって、彼の体ではない。自由に動かすこともできず、ただスメラギの好きなように造りかえられることを受け入れるしかない。
「ナイト・ハンターであることを避けるために造りかえるのだから、この名前も駄目だ。ヒトが付けた名前、ナイトダイバーは……まぁ悪くはないが、少しばかり悪い冗談だね。ヒトがナイトハンターと呼ぶモノたちが、本来ナイト・ダイバーと呼ばれるモノなのだから、やはり別の名前がふさわしい」
──本当に?
スメラギの独白を聞き流しながら、ナイトダイバーは蛇の侵食に抵抗する。アイデンティティ。ヒトであった頃から変わっていないものならば、ある。自分を納得させるには曖昧すぎて、言葉にするには少しばかり抵抗を覚えるものが。