04
舞い上がった埃が落ち着き始めた頃、ナイトダイバーは腰を落とした。重心を低くした臨戦態勢。視線の先で棚の背が持ち上がる。包帯の下で眉をよせ、近くのデスクチェアに手を伸ばす。目を向けた先では棚の上昇が止まらない。下から覗くのは金の瞳、体を覆うウロコ、蛇の尾。
「やっぱりキミは、失敗作だったのかもしれない」
片手でアルミ製の棚を持ち上げ、スメラギはむしろ淡々と述べる。裂けた額から流れ出た赤が、吊り上がった唇を横切って顎に伝う。
「ナイト・ハンター。改良の余地がありそうだね。生み出した者に対してこんなに暴力的になるとは、いや、最初から分かっていたことではあったか。ナイト・ハンター。ナイト・ダイバーを狩るもの。その名を付けたのは他でもない、私だ。そう考えると、やはり──」
独り言のように。自らの考えを淡々と、坦々と、並べ、連ね、重ねていく。ただそれだけの言葉。そこに聞き手が介入する余地はない。たとえ当事者であったとしても。
ぐしゃり、と薄い棚板が握りつぶされた。実用性のみを追求した武骨な書棚が掲げられ、振りかざされ、
「その本質を変える必要が、ある」
軽々と、投げ飛ばされる。
防御の体勢をとる暇もない。包帯を使えば決定的な隙になる。
ナイトダイバーはやはり、影に潜りこむ。一旦距離を取り、相手を戦闘不能状態にするだけの策を考える必要がある。オフィスの角に浮上し、そこで金の瞳と目が合った。
「──ッ!?」
「分かりやすい動きだったよ、ナイト・ハンター」
状況を把握しきれないナイトダイバーの首を、スメラギの手が掴む。そのまま背後の壁に叩きつけられ、瞬間、視界が眩んだ。みしみしと音を立てて軋んでいるのは、不可をかけられた壁か、あるいはナイトダイバーの体か。