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表通りの華々しさを、引き立たせるための場所のような、言ってしまえば掃き溜め。細すぎる路地が使われる可能性は極めて低いため、整備が後回しになるのは仕方のないことではあるが。
「そう、あの日の彼は、不本意だがこの道を使っていた。たぶん、用事か、待ち合わせか。彼を急がせる何かがあったのだろうね。でなければ、こんな道は通るまい」
半ば独白のように。楽しかった思い出を振り返っているかのように、スメラギは語る。演技がかった丁寧な口調こそそのままだが、声音の中にどこか楽しげな色が入っていることを、優菜はなんとなく感じていた。
同時、わずかな違和感が彼女の胸の中で湧きあがった。ナイトダイバー。都市伝説として語られるモノ。彼と話すことは多くあっても、その起源について優菜は知らない。元々、彼女の目は生物というカテゴリに属さない、少し特殊な存在も捉えることができる。もっと簡単に言えば、彼女には霊感がある。「幽霊」や「変わったいきもの」なら、幼い頃から見続けていた。その「変わったいきもの」が今は「ナイトハンター」と呼ばれ、ナイトダイバーはその中で唯一他の人にも見えて、かつコミュニケーションも取れるだけの存在だったのだ。
だから、その起源について、優菜は少しの疑問も持たなかった。持てなかった。ヒトの形をしているとはいえ、あまりにも人間くさいナイトダイバーの言動に気付いても、不思議に思うことはなかった。
「──おや、今更知ったのかい?」
スメラギの言葉が優菜に刺さる。じっとりと手が汗ばんでいるのを感じたのだろう。彼女が振り返ることすら許さず、スメラギは口の端を吊り上げる。
嘲笑。楽しげに。哀れむように。誰にも表情を見せることなく。
「彼は、キミたちの言うナイトダイバーは、人間だったのだよ」
優菜の耳元で、囁くように。紫の長い髪が紺の制服の肩に触れた。