02
それを知っているのがナイトダイバーで。だから彼は、あの書き込みを食い入るように見つめていたのだ。
紫の髪を持つ、人と蛇を組み合わせたような異形。それが、ナイトダイバーにとって何を表すのか、優菜は知らない。
とにかく早く帰ろう、とローファーが速度を上げる。日が沈んでしまったから、きっとナイトダイバーはどこかへ出かけてしまっただろう。おそらく、あの掲示板に書いてあった場所に──
「あ……」
駆け足に近かった優菜の足が、漏れた声と共に止まる。追い越していった自転車通学の男子学生が、急に止まった優菜を訝しげに見つつ走り去る。
優菜の視線は、一軒の家屋の屋根へ向けられていた。これといった特徴もない瓦屋根の上に、不自然なシルエットが浮かびあがっている。一メートル近い体高。犬というよりは狼に近いだろう。東から昇っている途中の月が、その向こう側で光っている。満月には届かない、少し欠けた月。
学生鞄の持ち手を、優菜は無意識の内に握り締めていた。彼女が異形を見たのは、これが初めてではない。昔から──それこそ、ナイトハンターがネット上で話題になる前から見てきたし、だからこそ、それらを避けて歩くこともできた。自分の身を守るためのすべなら、心得ている。
しかし、今の状況は普段と少しばかり違っていた。優菜を抜いていった自転車が、屋根の上から道路を見下ろす巨大な狼の目の前を通ろうとしている。あの狼は、ナイトハンターと呼ばれる「人に危害を加えるモノ」かもしれない。優菜は「行方不明」の現場を目撃するかもしれない。
狼が鼻先を自転車へ向ける。
──男子学生は気づかない。
座った状態のまま、前肢で足踏み。
──自転車が狼へと近づいていく。
わずかに顔の角度が変わり、金の瞳が月光を跳ね返す。
──ナイトハンターの目と鼻の先を走り抜けた。




