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第九章 ユウVSキンスロット

(若き教皇騎士団長レーゲン・キンスロット対、ユウ・ナギノの準決勝戦)

 

 キンスロットは体を軽々と回転させながら、右手、左手と縦横無尽に斬りかかる。

 両手の刃は細身ながら、しなやかにキンスロットの動きに馴染んでいる。

 

「これはハヤテの剣だ。さあ、どう対処する?」

 

 ユウは、リーチが長いドラゴンスレイヤーで受け流す。


 キンスロットの華麗な剣さばきに、観客席から歓声が起こる。

「痛っ」

 ついにハヤテの剣先がユウの太ももをかすった。

 ユウを応援する者が、悲鳴をあげる。

 

「くっ」

 いくつものかすり傷が、ユウの体に刻まれていく。


「ユウ!」

 観覧席のエリオ・ソフィーは叫び、目を閉じて祈る。

「無事に決勝戦まであがってきなさい」


「どうだ、ユウ・ナギノ。この攻撃はお前の弱点を突いたものだよ」

 キンスロットは両手で振りかぶりながら言った。

「俺の弱点だと?」

「俺は、騎士団の中でもっとも強いものを選び、そいつから稽古を受けている。実力のある騎士数人と同時に実戦もできる。そして、夜は遊ぶっ。理想の剣士生活だろ。これに対してお前は、エリオちゃんとしか稽古の相手がいない」

「むむっ」

「お前のことなど、全部調査、分析済なのだよ。わはは」

 相手が毎日練習しているならば、にわかづくりの準備で大会に参加した自分が不利になるわけだ。

 

「キンスロットは、ハヤテの剣でしかも二刀流だ。ユウは剣士四人を相手にしているような感覚になるだろう。複数人と対決する経験はユウにないからな」

 観覧席のシマデ・ミカが解説する。

「ハヤテの剣は、霊験があるものなの?」

 エリオ・ソフィーがたずねる。

「いや、ない。ハヤテの剣はふつうに武器屋で売っているよ。かなり高価なものだ。だけど、ドラゴンシリーズの方が強いさ」


 ユウはふっと笑みをもらした。

「貴様がなかなか勤勉で意外だった」

「それ、笑うところか?」

 キンスロットは、ユウの余裕に顔をしかめる。

 ハヤテの剣を繰り出す手が一瞬止まった。

 

 ついに、ユウはドラゴンスレイヤーでおおきく振りかぶった。

 キンスロットは、ハヤテの剣をバツ印にして攻撃を受け止めようとする。

 その一撃は、大きな竜が爪を振りかざしたかのような圧力がかかり、二本の細身の剣は地面に音を鳴らして転がった。


 勝負ありと判断される絶妙のタイミングで、キンスロットは武器交換のタイムを取った。

「ドラゴンシリーズは伊達じゃないな……。お前の背後に火竜の姿が見えたぞ!」

「ドラゴンの瘴気を制御するのに手一杯だったのさ」

「お前は俺と対戦していないかのような言い草だな。ふざけやがって」

 キンスロットは学帽を脱ぎ捨てた。

 銀色の長髪があらわになる。


「何もふざけてなんかいない。ただ貴様が勝手に調子乗っているだけだろ」

 

「ならば、こちらも最強武器だ」


 キンスロットは、詰襟を第三ボタンまではずして、胸をはだけさせた。

 そして、指をパチンと鳴らす。


 彼は北方の島国の王から、トライアード教皇陛下へと献上された伝説の剣【カリバーン】を装備した。

 

 柄の先には血のようなワインレッドのルビーがはめられ、刃が青銅色の打撃系の剣・カリバーン。

「伝説の王によって叩き潰された、いくつもの民族の血と、憎しみを吸収してきた霊剣、いまや我が手中にあり! さあ、本気で来い!」


 赤色の剣と青銅色の剣がはげしい金属音を響かせる。


「寒気がする!」

 ユウはキンスロットの一撃、一撃から禍々しい瘴気を感じた。

 武器に霊験が証拠だ。


 ただでさえ、こちらがドラゴンスレイヤーを繰り出すときに、自分の血肉を火竜に喰いちぎられるがごとく精気を奪われる。

「カリバーンの威力はすさまじいだろう。騎士団の最強武器だ。お前を倒し、天啓の剣を我らの最強武器として更新する!」

「いいや、まだまだ。キンスロット。その剣。教皇騎士団の中で一番強い奴に持たせて試合に出せよ。シード枠で、貴様が出ているようでは、教皇騎士団もまだまだだ」

 騎士団長は眉をひそめた。


「挑発する気か。騎士団をまとめ、教皇陛下を守る。俺は最も敬虔な信者のひとりであり、このトライアード教圏に平和をもたらしている。俺が最も強い」

「どうも、貴様は名誉やメンツにこだわりすぎる。教団にいいように利用されているだけだ」

「若造が何をほざくか!」

 キンスロットはいきりたち、再びカリバーンを振りかざした。

 ユウはドラゴンスレイヤーを両手に持ち、攻撃を弾き返す。

 そして、間髪入れずに反撃の一撃を加える。

 

 呼吸ができなくなるほどの熱気を受け、キンスロットは引き下がった。

 赤々と燃え上がる色をした剣先をもつドラゴンスレイヤーの威力は、伝説の剣カリバーンを凌ぐのか。

 ユウは相手に攻撃させないように、さらに剣をふるう。


 ドラゴンスレイヤーの瘴気にさらされたユウはもはや理性を失い、狂戦士と化した。

 攻撃は最大の防御。


 焼けつく風の力で、キンスロットの身が知らぬ間に斬られた。

 キンスロットは、火竜を相手にし、腕を爪で引っ掻かれたような痛みを感じた。

 ドラゴンスレイヤーの打撃を何ども受けるカリバーンの刃がほころび始める。

 

「うおおおお」

「ぬおおおお」

 両手に剣を持つ者同士で、打ち合いが始まった。


 やがて……、地に剣が転がる金属音が響いた。

 

 落ちた剣はカリバーン。

 

「わはは。これほど遠慮なく俺に向かってくる者はいない。ユウ・ナギノ。実にすがすがしい。いい試合だった」

 キンスロットが負けを認めたと同時に、ユウは意識を失って倒れ込んだ。

 

 彼の持てる渾身の最後一撃が、キンスロットの剣を弾いたのだった。



次回、シスター・ソラナの旅立ちの話【過去編】をお送りします。

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