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第七章 蝶のように舞い、蜂のように刺す!

 剣術大会・第三試合は、甘いマスクの銀髪ロンゲ男、レーゲン・キンスロットが、予選を勝ち抜いた騎士を下した。

 準決勝は、ユウ・ナギノと、キンスロット騎士団長の対決となる。


 ・・・・・・・・・・

 

 第四試合は、シード枠出場のエリオ・ソフィー・フォン・ソードスワード対、武闘家ディーノ・ガッティ。

 坊主頭で中肉のディーノ・ガッティは、裸足にブルーの稽古着一枚の軽装で、ウオーミングアップをしている。

 彼は東方の出身で、予選では、剣や槍を使う相手に素手で立ち回り、武器を蹴り弾き、タックルで態勢を崩し、関節技や寝技でフォール勝ちを重ねた。

 

『ガッティ選手の相手は、前回大会の優勝者、わがソードスワード市国長の娘エリオ・ソフィーお嬢さまです!』

 観席が沸く。

 コールされたエリオ・ソフィーは舞台の上に立った。


 数万の観衆から、両肩を露わにしたエリオの格好にどよめきが起こり、彼女はあらためて緊張より恥ずかしさを覚える。

(どうして……、はじめてじゃないのに。気持ちがうわついてる……)

 

 彼女はユウとシマデがいる観覧席のほうに顔を向けた。

 二人とも、普通に応援している。

(どうして……、どうして、そんな、普通のまなざしをしているの? わたしが勝てると思っているの?)

 

 エリオはライトブラウンの髪に手をやり、まとめた髪に、ほつれがないかを確認したあと、相手に向かって刺突剣レイピアを構えた。

「どうぞ、お手柔らかに」

 彼女の膝は震えていた。

 相手が素手なので戦い方がわからない。


「お手柔らかというわけにもいかないんだな。遊びじゃない」

 ディーノ・ガッティは、蛇のような細い鋭い目をした坊主だが、わりとさわやかな声だ。

「ふざけた服装だな。ひん剥いてやる。オレサマの芸術的武術を披露するために、オレサマは出場したのだ。じっくり料理してやるよ」

 

 エリオの全身にゾクッと悪寒が走った。

 彼女は気づいた。

 この戦いは、剣どうしでない。

 自分が負けるときは、身体的接触をもって相手に組み伏せられる!


「変態」

 エリオは鋭く口走った。

「言ってくれるね」

 ガッティはエリオに向かって突進した。

 彼女はレイピアで相手が繰り出す拳と足技を牽制する。

「おかしい。ド素人そうなただのお嬢ちゃんなのに、攻め込む隙がねえ」

「わたしは、お遊びで優勝してない」

 素早く剣先を繰り出せる軽い刺突剣のレイピアは、素手の相手に有利だ。

「なかなかの腕のようだ。ここからが、オレサマのショウの始まりだ。ふふん、子猫ちゃんよ。関節技は痛くてかわいそうだから寝技でフォールさせてやる」

「最高に気持ち悪いです。指一本たりとも、わたしに触れさせませんので、あしからず」

「いやな顔するなよ。お嬢さん。なんて細っこい、腕、脚、ウエストなんだろう。着ているモノを全部脱がしてやろうか。客も驚くだろうよ。これはショウだからな」

「全部聴こえています。これ以上、大会の品格を落とさないで」

「絞め技でオレサマの腕の中で落ちるといい。気持ちいいぞ」

「気持ち悪いから、これ以上のセリフは禁止します」

 エリオ・ソフィーは、軽蔑のまなざしで睨む。

 まぶたの青いアイシャドウがきりっと引き締まっている。

「気位の高い女だな。そういや、市国長の娘か。やりがいがあるぜ」

 ガッティがタックルを仕掛けると、エリオはレイピアを出さずに身体を回転させてかわした。


「エリオ! フィギュアスケートみたいだ」

 観覧席のユウは、目を丸くして叫ぶ。

「相手はレスリング系だ。足にタックルをうけて転がされたら終わりだ」

 シマデ・ミカは固く腕組みをして見守る。

「エリオ、刺していいんだぞ。本気の試合だからな」


「そいやー」

 じりじり間合いを詰めたガッティはついにエリオの脇腹を蹴りあげた。

「くっはあ」

 エリオは痛みで地面に手をつき、あわててレイピアを握りなおす。


 エリオを応援する観衆からため息がもれた。


 前回優勝者の、高貴な娘。


 手を伸ばしても届かない空を飛んでいる、美しい蝶が捉えられ、いま。ゆっくりとその羽がむしられようとしている。

 それは、憐情れんじょうとともに、加虐かぎゃく心を起こさせた。


「くっ、負けない。わたしは負けない。【天啓の剣】を預かる『ソードスワード家』の名にかけて!」


 エリオ・ソフィーは立ち上がりレイピアを構え直す。

「ちっ、連続攻撃で組み伏せればよかったな」

「わたしのこの衣装の意味が、頭からっぽそうなあんたに分かる? わたしはいろいろ習い事をやっていてね、いまのはバレエの経験から出たものよ。戦いは常に美しく!」

「そいやー」

 ガッティがタックルを仕掛ける。

「蝶の様に舞い!」

 エリオは回転ジャンプでそれをかわす。

「えっ、回る必要があるの!?」

 ガッティはあっけにとられて上空を眺める。

「蜂のように刺す!」

 エリオのレイピアの剣先が、武闘家ガッティの喉元を捉えた。

「油断した……。ショウの見せ方はお前のほうが上だったな……」


 エリオ・ソフィーは準決勝に進んだ。




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