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第六章 ユウが遠くへ行っちゃう気がするよ!

 闘技場・剣術大会出場者控え室


「ユウがまだ来ないんだけど!」

 大会出場者に、ひと部屋ずつ与えられる控え室で、エリオ・ソフィーは苛立っていた。

 彼女のライトブラウンのくせ毛は、三つ編みにして、うしろにまとめている。

 桃色のフリルスカートつきの両肩が露わになったワンピース、アーガイル柄の黒タイツ。

 これが今回の彼女の戦いの衣装だ。

 まぶたに青のアイシャドウを引き、唇に桃色のリップを塗った。

 彼女は、この格好をまず先に、ユウ・ナギノに見て欲しかった。

 

「会場のどこにもユウ・ナギノの姿が見当たらないな」

 赤髪ショートヘアのシマデ・ミカが、ユウを探しに行って戻ってきた。

「あいつの試合時間はもうすぐよ。なにやってんの!」

 エリオ・ソフィーは、ますます苛立った。

 大会直前、ユウは天啓の剣の洞窟に篭もり、ぜんぜん稽古につきあってくれなかった。


「おっと、ここかよ」

 息を切らして、両手に剣とランスを持つユウ・ナギノが現れた。

「全く、おっそーい。試合時間に遅刻したら即失格なのよ! わかってんの?」

 エリオはすこし安堵しながら、彼を叱る。

「俺用の控え室が閉鎖になっていたんだよ!」

「ああ、それ、私が閉鎖を係に命じたから」

 さらりとエリオは言う。

「それ、早く教えてくれよ」

 ユウの額から大量の汗が流れている。

 彼は相当焦ったに違いない。

「あんた、私と控え室を一緒にするのに不満があるの? せっかく配慮してあげたのに。シマデの戦術指導とか受けたりできるでしょ」

 強引なエリオの説明を耳にして、シマデ・ミカは頭を掻く。


 要するに、大会でユウと一緒に居たい。それだけ。


「ああ、わかった。控え室は立派だな。ベッドもあるし、俺の部屋よりずっと広い。国はこんなものに金を使っているのか」

 ユウは控え室を眺め回す。

 確かに、控え室はホテルのように綺麗でリラックスできる空間になっている。

「あのさ。まず、その前に……」

 エリオはわなわなと声を震わせている。

「おお、そうだ。そうだ。お前から借りたドラゴンスレイヤー、すっかり扱えるようになったぞ」

 ユウは剣を、軽々と振りかぶった。

「そうじゃなくて……」

 エリオの眉がつり上がっている。


「おっ、エリオ。髪まとめて、さっぱりしていい感じだな。いままで、そんなまとめ方にしたことあったっけな? スタイリストにやってもらったの? なにその格好、フィギュア・スケートの選手みたいだ」

 ようやくユウは、エリオ・ソフィーの格好に言及した。


(そう。

 まず、わたしを見て欲しかった。

 でも、ほめ方としては五十点)

 

「あんた、フィギュア・スケート見たことあるの?」

「ねーよ。雪が降る北の国のスポーツだろ。お金持ちのお嬢さんが、俺を連れていってくれないもん」

「わたしがケチみたいな言い方やめなさい。ユウこそ、ふだんのシャツとズボンのままでしょ!」

「二人とも防御力ゼロだな」

 シマデ・ミカはあきれた。


「防御よりも、素早さを重視させるわ」

「どれ」

 シマデ・ミカは、屈んでエリオ・ソフィーの足、太ももをまさぐり、それから指先で胸をつついた。

「ちょっと、ミカ!」

「足に、網タイツ型のチェーンメイルと、胸にはプレートが仕込んであるな。ちゃんと準備してるじゃないか。合格だ」

 シマデ・ミカは装備を確認して、ひとまず安心する。

「どおりで、いつもより胸がでかめだと思った」

 ユウがつぶやいたとたん、エリオは彼の頭にげんこつをお見舞いした。


「ユウは盾を装備しないのか?」

「俺は剣の両手持ちだからいりません」


 シマデ・ミカは腕を組んで真剣な面持ちになる。

「あまりこの大会を舐めないほうがいい。予選を見てきたが、血みどろの戦いが繰り広げられていた。負傷者続出だ」

「シマデさん、驚かさないでくださいよ。この大会は騎士たちの剣術披露の場ですよ」

「いや、今回は様子が違う」

「やっぱりそうですか。教団と騎士団が本気で勝ちにきているようですね。まあ、俺が相手をすべて倒しますから。エリオにすこしでも怪我がないよう、アドバイスをしてあげて。ともかく無理をさせないでください」

「ユウ……」

 エリオ・ソフィーのすこし瞳がうるんだ。彼の心遣いがうれしかった。


「ユウ、あのさ。あの綺麗な子はどうしてる?」

 エリオはふと、ユウの宿屋で出くわした少女のことをたずねた。

 あの、光景はいまでも目に焼きついている。

 藤色の長い髪に、豊かな乳房と滑らかそうな肌。


 田園のなかで、ひときわ輝き、香りを楽しむために思わず摘みたくなるも、あまりに可憐なために、それをためらわせる藤花のような少女。

 

「あの娘はシスター・ソラナだ。いずれ紹介するよ。彼女もいろいろと調べることがあって、出かけているよ」

「やっぱり、あの少女はただものでない感じがする」

 エリオ・ソフィーは、そのソラナという少女に会いたいと思った。


「剣術大会のチケットを渡しているから、応援に来てくれるかもしれない。でも、俺が彼女にしてやるのは、天啓の剣を持ち帰るという結果だけだな」

「えっ、その子、天啓の剣のことを知っているの?」

「まあな、天啓の剣を持ち帰ることを約束したんだ」

 エリオの顔色がにわかに青ざめていく。

「なにそれ……。天啓の剣を手にすること……、わたしとの約束じゃかったの?」

「ああ、そうだったけな」

 ユウは、天啓の剣を自らの意思で獲得するつもりになったので、エリオ・ソフィーとの約束の経緯を心に留めていなかった。

 それに加えて、ソラナが天啓のサークレットを身につけられる勇者だと告げるのは、まだ早いと彼は考えた。


「どうして、あの子との約束ってことになるのよ!」

「面倒くさいなあ。勝てばいいんだ。俺は俺のために勝つ。俺は勇者になる」

「バカ」

 エリオの瞳に涙の雫がすこし浮かんだ。

(ユウが勇者になったら、ユウはこの街から出ていかないといけなくなっちゃうよ。ソラナって子も、ユウと旅にでるだろうな……、きっと……。ユウには剣術大会に勝って、天啓の剣を手にして欲しい。それはわたしの願ったことだけど……、どうしてだろう、ユウが遠くへ行っちゃう気がするよ!)


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 第二試合は、シード枠出場のユウ・ナギノ対、予選を勝ち抜きの、登録名『ナンバー9』だ。


「よっし。出番だ。外に出て応援してくれよ」

「もちろんよ」

 ユウは頬を叩いて気合を入れ、ドラゴンスレイヤーを携えて闘技場へ出た。


 ユウの対戦相手のナンバー9は、背丈が二メートルほどある筋骨隆々の上半身裸の男で、顔は覆面で隠されている。

 棘の付いたとても重そうな鉄球を、ぶんぶん振り回している。

「でかいな。ナンバー9!」

 ナンバー9は挨拶代わりに鉄球を当てに投げてきた。

 鉄球の鎖のリーチが予想以上に伸びてくる。

 ユウは剣で受け流したが、ブレード越しにすさまじい衝撃を受けた。

「いってえ」

 鉄球から受けた鈍い打撲の痛みが彼の両腕を襲う。


「ぐふふ。俺は番号で呼ばれる囚人だ。お前を倒せば恩赦が得られる」

 覆面からくぐもる声が漏れた。

「お前の覆面の下のツラはきっと恐ろしいだろう。教団側は、俺の一試合目にこんな奴をぶつけてくるなら、こちらもガチで行かせてもらう」

 ナンバー9は遠心力を利用して重い鉄球を振り回す。

 ユウはドラゴンスレイヤーを振って鉄球に当たらないようにけん制して後退した。

 ユウは壁際に徐々に追い込まれると、くるっと翻して広場の中央へ逃げた。

 

「うまく逃げてる。あんなのが、わたしの対戦相手だったら、即刻棄権ね……」

 応援するエリオ・ソフィーは、ごくりと生唾をのみ込んだ。

「シマデ。相手のナンバー9って危険なの?」

「鉄球の使い手。予選でそいつと戦った全員が鉄球をぶつけられて重傷を負った」

「うそ」

 エリオの顔から血の気がすっと引いていった。

 あらくれ者と本気で戦う自信がない。

 自分は前回の優勝者だが、 父、ヘクターの後ろ盾があったからだと改めて気づかされた。

「ドラゴンスレイヤーでは相手の間合いに入れないぞ」

 シマデ・ミカは額に拳を当てて考える。

「エリオお嬢さま。すみませんが、【ドラゴンランス】をユウのところへ投げてくれ。あの対戦相手は槍がないと勝てない」

「わかったわ」

 エリオはユウの方にえいっとドラゴンランスを投擲し、彼の足元にランスがうまく突き刺さった。

 ユウは観覧席を振り返り、危ないじゃないかと彼女にジェスチャーをする。

「シマデが使えっていっているのー」

 彼女が大声を出すと、ユウは親指を立てて了解するポーズをとった。

 

「闘技場が広くて良かったな小僧。だが、こそこそと逃げ続けても、体力が持たなくなるぞ」

 ナンバー9は鉄球を振り、ユウを追い回し続ける。

 鉄球を何十回、何百回振り回しているだろうか。 常人離れした体力だ。

「鉄球を一度でも受けたら、俺の体はただでは済まない。ナンバー9! お前も疲れろよ。どんだけスタミナあるんだよ」

「お前さえ倒せば、俺は自由の身になる。お前だけに全力を注ぐぞ」

 ナンバー9の体力と集中力が途切れない。

 火竜の爪のごときドラゴンスレイヤーの刃で、鉄球の鎖を切る余地もない。


 トライアード教団は、俺を倒すことを引き換えに、囚人に自由を与えようとしている。


 ユウ・ナギノの瞳が、天啓の神器にはまる宝石なさがらの濃青に瞬いた。

「俺には、本当のライバルがいる。お前に負けるわけにはいかない。実際、すでにお前は俺の数倍の体力を使った。俺は逃げているだけで、何も体力を消耗してないぞー。一瞬で決める」

「なんだと?」


「見ろ、ドラゴンランスが刺さっているところにユウは少しずつ向かっているぞ」

 シマデが叫んだ。

 

「この試合、やはりランスが必要だったな。ナイス判断です、シマデさん!」

 ユウは地に突き刺さったドラゴンランスを抜き取り、高く地面を蹴って飛び上がった。

 そして、鉄球の回転円の内にドラゴンランスを突き刺すと、チェーンの部分がそのまま絡まっていく。

 ナンバー9が鉄球の制御を失うと、ユウは相手の懐に入り込み、ドラゴンスレイヤーの剣先を相手の喉元に突き出した。


 覆面の巨体は両手を上げ、鉄球の柄が地に落ちた。

「降参」

「おとなしく監獄に戻れ」

 身軽な動きで、鈍重な相手の動きを見切ったユウが準決勝へ進んだ。





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