表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/47

第五章 エリオちゃん。俺がもらっちゃうよ?

 

 ソードスワードのはずれの洞窟

 

 伝説の勇者が使ったとされる、【天啓の剣】が刺さる岩場の前で、ユウ・ナギノは、ひとりドラゴンスレイヤーを抱きかかえて座っていた。

 岩の天上のひびから、光がさしこみ、ほどよく辺りを照らしている。地には鮮やかな緑の苔の絨毯が敷かれている。

 あちこちから岩場に滴り落ちる水の音が響く。

 雫は、少しずつ、長い時間をかけて、剣山のような鍾乳石をいくつもつくっていく。

 それらすべては、ユウの眼前に刺さっている【天啓の剣】のためにつくられた、天然の装飾品だ。

 

 一千年間、人の手が加えられずこのままだった。

 

 まるで【天啓の意思】が、そのような配置にデザインしたのではないかと、ユウは感じた。

「天啓の剣の前では、これは大した代物ではないな」

 ユウは霊験のあるドラゴンスレイヤーを、この場所で振りかぶって、二、三日稽古した。

 火竜のような猛々しい瘴気に満ちたドラゴンスレイヤーも、天啓の剣からほとばしるオーラの前では、ユウに自在に操られるがままになった。

(もう、ドラゴンスレイヤーは俺のものになったな)

 

 ユウは天啓の剣を眺めた。

 細くしなやかな刃の上の柄には、菱形の宝石が、深海の吸い込まれるような青さで輝いている。


 天啓のオベリスクだ。

 

(俺だけが身につけられる天啓の剣。いっそのこと、これを手にして剣術大会に出たい。でも、ものごとには順序ってものがあるもんな)

 

 この天啓の剣を、教団が切り取り、持ち去ろうとしている。

 トライアード教団が、天啓の神器を集め、【天啓の門】を開くプロジェクトを開始したのだ。

 その動きは、神器のひとつである【天啓のサークレット】が、それを預かるシエナステラ修道院から、持ち出されたことで本格的になった。

 サークレットを持ち出したのは、シスター・ソラナであると、まだ特定されていない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 この静かな洞窟の中に、しばしば人の気配がする。

 教団が手配した石工たちが、調査に来ているのだ。

(あいつらめ、こそこそとしやがって)


「ユウ・ナギノ君。精が出ているようだな」

 聞いたことのある男の声がした。

 振り返ると、銀髪ロンゲの若い男が、女性を誘うような甘い顔で、ユウに微笑みかけてくる。

 もともとこういう顔なのだ。

「キンスロット!」


 トライアード教皇の護衛の任にあたる、騎士団長、レーゲン・キンスロットだ。

 この国で、一、二を争う美男子であり、その美を争っているのは、トライアード教皇といわれている。

 二十歳すぎの若い男が、教皇と騎士団長の地位についている。

 

 結果として、世の中は……、荒れた。

 

 若い教皇には、幹部である監察官たちの横暴を抑えられなかった。

 キンスロットは武道が達者だが、遊び仲間として若い教皇に気に入れられての推挙となった。

 騎士団長は毎夜、宴会を開いて遊んでいる。

 騎士たちに教皇騎士団長への忠誠心はなくなり、もっぱら教団の手兵に成り下がっている。

 

「なぜ、貴様がここにいる!」

 ユウはドラゴンスレイヤーの矛先を相手に向けたくなる衝動を抑えた。

「やあ、久しぶりだな。ユウ・ナギノ。お前は去年、俺に負けたな。戦いは面白かったぞ。そんで、俺は市国長の娘、エリオ・ソフィーちゃんに負けてやったんだがな。今回は本気でいく」

 鼻筋がとおった美貌、キンスロットは騎士団の任務としてよく外に出るので、ほどよく日に焼けている。

 彼の容姿にユウ・ナギノは軽く嫉妬を覚えた。

 だが、宿屋という仕事柄、執事の格好や料理人や作業着など、どんな服装を着ても似合うと自負する、跳ね気味のプラチナ髪で青い目のユウ・ナギノと見比べると、女性の支持は半々だろう。

「エリオちゃんも、シードで出るよな。お前もまた懲りずにエリオちゃんのコネで出場か。ご苦労なこった」

 キンスロットは鼻で笑う。

「別に俺は予選から出ても本選に行けると思うけどな」

 ユウは年上のキンスロットに対して敬語を使わない。

「エリオ・ソフィーちゃんは可愛くなっているだろ。お前いつもそばにいるんだろ? パーティに誘っているんだけど、あの娘のオヤジが固くてね。来てくれないよ。エリオちゃんも遊びたいだろうに」

 

 知らなかった。

 エリオ・ソフィーにそんな話が来ているなんて。

「お前、エリオちゃんとどこまでいってるの?」

 神聖な場所にふさわしくない、軽々しい言葉をキンスロットは投げかけてくる。

「貴様にいう必要はねーよ」

「ふーん。あっそう」


 まだ、幼馴染みってだけ。

 キンスロットは、ユウを見透かしている。

「そんじゃ、エリオちゃん。俺がもらっちゃうよ?」


 ユウのドラゴンスレイヤーの柄を握る拳に力が入った。


(決闘の場を、大会でなく。この場にしてやろうか?)


 この男は、まだシスター・ソラナを目にしていない。

 そうしたら、絶対にソラナをものにしたいとぬけぬけと抜かすだろう。

 トライアード教と騎士団は腐っているのは確かだ。


(まあ。いい)

 ユウはふっと気を抜いた。

 キンスロットは天啓の剣を扱う資格を持っていないのだから。

 ユウは、俺こそが剣を扱うことができると、あやうく喉から出そうになった。


「俺は天啓の剣を使えるかもしれない」

 キンスロットはさらっと言った。

「何?」

「俺は、【精霊】の声を聞いたのだ。『剣術大会で優勝せよ』。『優勝すれば天啓の剣を抜けるようにしてやる。勇者の資格を与える』とな」

「妄言を吐くな!」

 ユウの声が洞窟内に響いた。

「トライアード教団には、精霊の声を聴くことができる者が多い」

「らしいな」

「俺、レーゲン・キンスロットもその一人なんだぜ。その声は幼い女の子のような声だ。教皇も精霊の声を聴くことができる。やっぱり、幼女の声らしい。お前は聴いたことがあるか?」

「ない」

 ユウは、【精霊の声】は、教団が人を操るために適当にでっち上げたものだと思っていた。


 しかし、ソラナが受けた、天啓の啓示と精霊の声は同じものなのか?


「どのみち、剣術大会に出るモチベーションが上がったよ。レーゲン・キンスロット! 昨年、貴様に負けたが、今回は始めから全力で行く。マジで貴様は俺を怒らせた」

「エリオ・ソフィーちゃんの後ろ盾でいきがっているだけの小僧だろ、お前。その赤々と輝く剣はエリオちゃんが貸してくれたのか? ぬはははあ。ずいぶん期待されているなお前。エリオちゃんにさ。無様にぶったおしてやるよ」

 キンスロットは高々と笑いながら、洞窟を去っていった。

「ぜってー。ブチのめす!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 剣術大会当日


 剣術大会が催される野外闘技場は、数万人の観衆で埋まっていた。


 第一試合目は、予選を勝ち抜いた女剣士・チズル・グラシエンラ対、シード枠出場のシエナ王国の騎士団長ローディガンである。


 鉄の仮面と鎧で身を固め、馬にまたがるローディガンは、チズルに馬上対決を申し出たが、彼女は断った。

「騎士対騎士で対等に戦えないのは残念だ」

 仮面の内からローディガンが声を出す。

「甘い。貴殿は、道行く先で、賊に襲われたらどうする? 相手が馬に乗っているとは限らないぞ。無理な相談だ。貴様が馬から降りればよい」

 マントで身を包むチズルは、高貴な騎士を相手に言い放つ。

「断る。私はシエナ王国の代表者だ。この流儀を崩すわけにはいかないのだ」

「騎士のルールなどどうでもいい」

「しかたがない」

 ローディガンは馬でチズルの近くまで急接近し、わざと彼女の頭の上で円錐形の長いランスをふるって威嚇した。

 チズルは冷静に槍の穂先が当たらないよう距離をとった。

 チズルの機敏な動作に対して、観客席から歓声があがった。

 ローディガンは再びチズル目がけて突進し、ランスの先端を体に当てるふりをした。

 チズルは余裕を持ってその攻撃をかわす。

 観衆から、ローディガンに対して馬から降りろと罵声があがる。

 ローディガンは正直、攻めあぐねていた。


 チズルはマントをはぎ取り下着に近い黒のビキニアーマー姿になった。

 首に指輪のネックレス、右手に鉄のムチを持っている。

 乳飲み子を持つ女として乳房が張っている。

 観客席から歓声があがった。

 予選のときから、チズル・グラシエンラの筋肉質な肉体美が話題になっていた。

 

「……騎士団長よ。まったく本腰が入ってないぞ」

「ええい、女相手に負けることは許されない。戦いに勝たせてもらうぞ」

 騎士ローディガンは、ランスで殴打しようとして馬を走らせた。

 チズルはまた相手をかわし、すれ違いざまに思いっきり鉄のムチで馬の尻を打った。

 馬がいなないて反り返り、騎士は地面に落とされた。

 すかさずチズルは、騎士のあわらになった首筋に鉄のムチで一撃を食らわせた。

 第一試合は、チズル・グラシエンラが勝利した。


 ユウが信じる【天啓】と、キンスロットや教団が言う【精霊】とは、似て非なるものなのか?

 次回、剣術大会、ユウの第一戦が始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ