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第三十章 勇者の裁断

 カジノ・ハーシュラーム


 戦いのあと、セルジュ・ジリカに残されたものは、荒れたスロットやゲーム台の残骸だった。

「何もかもぶっ壊してしまった……」

 セルジュは床に手をついてへたり込んだ。

「いや、ナンバー9がやっただろ」

 ユウ・ナギノは天啓の剣を鞘に納めた。

 ナンバー9は逃走し、すでにこの場にいなかった。

「あの覆面の大男、ドラゴンスレイヤーを持って逃げたわ。まあいいわ。この剣を取り返せたから」

 エリオ・ソフィーは満足げにエストック・アザレアを腰に差した。


「兄さん、大丈夫ですか?」

 カラーラ姫がラベラーダ国王を胸に抱きしめた。

「ああ、カラーラ。ずいぶんと心配と迷惑をかけたね。すまなかった。僕は長い悪夢を見ていたんだ」

 ラベラーダは目頭を抑え、ぼやけていた意識を取り戻そうとする。

「ラベラーダ様。悪夢とおっしゃいますか。この世の楽しみにひたっていたではありませんか」

 セルジュ・ジリカは、「様」をつけて呼称した。

 いままでの強気な姿勢がどこかに飛んでいった。


「いきなり態度を変えて、被害者づらしないで!」

 カラーラ姫は、セルジュに蔑みのまなざしを送る。

「勘違いしてもらっては困る。俺は、ハーシュラームの繁栄に、力をつくしてきた。街にはびこる札付きのワルどもをここに留めていたんだ」

「いいえ、そんなの全然ウソ。このカジノは、犯罪の温床になっていたわ。セルジュにたぶらかされて、財産を失った人が増えて、余計に治安を悪くしていたわ」

 カラーラ姫は冷静に現状を伝えた。彼女は、庶民の目線に立って、ずっとこの国を見届けていた。

「うっ」

 セルジュは、床に両手と膝をついてうろたえた。

 セルジュの変わりようは、 憐れみを乞う演技だ。


 セルジュとカラーラ姫のやりとりは、法廷での弁明にそっくりだ。

 間違いなく、二人はある人物を意識して発言していた。


 そう、女勇者、ソラナ・シエナステラだ。


 砂漠の街の女の格好で、露わになった両肩をショールで包むも、日差しに照らされて、うっすらと肌を焼いている。

 額に天啓の宝石を戴く、藤色の瞳の少女は、ただ黙ってことの成り行きを見つめていた。


 ユウ・ナギノが王の前に歩みでた。

「ラベラーダ国王。セルジュ・ジリカは自ら王と名乗り、国を乗っ取る野望を抱いていた。実質じっしつ王をここに閉じ込めていた。これについてどう思いますか」

 ラベラーダはユウとの視線を逸らした。

「……ここにいたのは、僕の意志だ。霊剣の瘴気であれなんであれ、誘惑に負けた僕が悪い。国政を離れ、財政に損害を与えていたのは、僕の責任だ。勇者」

「兄さん! 自分が悪いだなんて言ったらだめっ! セルジュが悪いって、もっとアピールしなきゃ」

 カラーラ姫がラベラーダの肩を揺さぶる。


「王の言うとおりだ。俺は王の希望に答えていたのさ。ちなみに俺はトライアード教の信仰に厚い人間だ。聖人認定を申請したことがある」

 セルジュは青い髪を振り乱して申し開く。すこしでも、勇者を味方にしようと必死だ。

「ふんっ、こいつ。力を失ったら、なりふり構わずだわ。苦しまぎれの釈明をしてさ、いっぱしのボスとしてやってきたんでしょ。情けなさすぎ」

 エリオ・ソフィーはあきれる。

 権威におもねる男は、彼女は嫌いなのだ。彼女の父がそうだった。

「聖人は、神秘的な力を使えます。けれども、あなたは、霊剣の力をもって奇跡だと主張しました。それはインチキですよ」

 福音調査に詳しいアルト・プレヴィンが発言した。

「俺は、聖人となり、王となり、この国をトライアード教にしようと思ったのだ」

 セルジュ・ジリカは、幼いアルトにまで媚びている。


「私たち勇者一行は、ドライアード教とは関係がありません」

 ソラナはきっぱりと言った。

 ソラナは【天啓】の導きを信じているのだ。


「えっ、女勇者様は、修道女なんでしょ。教皇の命令を受けたでしょ」

 代わりにユウが答えた。

「教皇の命令は、形式的なものさ。俺たちが天啓の門が開かれるデロスに向かうことには変わりない」

「教皇や教団の実態からして、トライアードが絶対に正しいというわけではないと思います」

 アルトが言った。

「トライアード教の国の人がそんなことを口にするとは!」

 セルジュ・ジリカは驚く。

 トライアード教を持ち上げて、勇者の心証しんしょうを良くする作戦に持ち込めない。


「いまいましいです。勇者様、こんなやからと口をきくのは、おやめください。セルジュ・ジリカは夢幻眩惑の剣で、多くの人間をたぶらかしてきたのです」

 カラーラ姫が責め立てる。

「権力で部下がいっぱい。金がいっぱい。女もいっぱい。全部が、全部、剣の力ではないさ。俺の努力、俺の魅力ってのもあるんだ」

「汚らわしい」

 カラーラ姫は、うじ虫を見るかのように、セルジュを見下げ果てた。

 カラーラ姫はちらちらとソラナの方に視線を向けていた。

 そろそろ、勇者の処断しょだんを求めていた。


「俺は、負けた。負けっぱなしだ。キンスロットというやつにも負けた。さあ、カジノを閉鎖。俺の財産を没収か? 俺の首をハネるのか?」

 セルジュは開き直った。

 ついにソラナがセルジュの前に歩みでた。

「セルジュさん。夢幻眩惑の剣はなくなりました。これからは、あなただけ運がいいということはないのです。本当の手腕が、試されるのではないでしょうか」

「まあ、ハーシュラームの娯楽を盛り上げてくれ」

 ユウが言葉をつけ足した。

「ありがたき、ご処置でございます」

 セルジュは、二人の勇者の前にひざまずいた。

「あーあ」

 カラーラ姫は残念がった。女勇者は、甘いのか、やさしいのか。王に落ち度があると思われたと仕方なく考えた。


 ユウはラベラーダのほうを向いた。

「王よ。この国の政治に責任を持つことができますか?」

「……持ちます」

「地方の部族たちとの交渉は、できますか」

「いきなり全部はやれないだろうけど、僕がいない間に執政を行った大臣たちと話し合ってやっていくつもりだ」

「王がいない方が、大臣たちはやりやすかったかもなあ」

 勇者ユウは口を滑らせた、ラベラーダ王は彼より年上だ。

「ハーシュラーム国を見くびらないでください。先代の知恵がこの国を築いてきました。僕も先代に恥じないようにやっていきます」

「わかりました。これ以上、首をつっこまないよ」


「本当に感謝いたします」

 ラベラーダ王とカラーラ姫は、勇者ふたりに一礼した。


「よーし、じゃあ、カジノで遊んでいくか」

「キンスロットの騎士団は、デロスに向かっているみたいね」

 エリオ・ソフィーが水を差す。

「あいつか、精霊の声がうんぬんと。何かたくらんでいそうだな」

「トライアード教団の特に偉い人は、精霊の声に従って行動しているふしがあります」

 ソラナは、精霊の大きな存在感が気になっていた。

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