第二十六章 トリプルリング
カジノ・ハーシュラーム
キンスロットとパティは、セルジュの案内でダーツコーナーに入った。
「ゲームのルールを説明しよう。持ち矢は四本ずつとする。このゲームは腕を競うだけじゃない。運を競うゲームだ」
「運だと?」
セルジュの前置きにキンスロットは眉をしかめた。
「矢を投げる前に、ひとつのサイコロを振る。その目を、ダーツで出した点に倍数としてかけたものを得点とする」
「勝負はサイコロの目に左右されるのか。俺がサイを投げるから、パティは矢を投げてくれ」
キンスロットは、自分はパティよりツキはいいだろうと考えた。
「わかったっす」
はじめにパティがダーツボードの前に立った。
ボードは、真ん中の赤い円が、ブルズアイで50点。
円のまわりに1点から20点に刻まれたレーンが等分されている。
キンスロットがサイを投げた。
でた目は1だった。
「よりによって1かよ!」
「いきますよ」
パティは動じていなかった。
放たれた矢は真ん中に命中した。
「おおおおお、よーし」
キンスロットは拍手する。
「次は俺様だ」
サイコロを振ろうとするセルジュの肩を、キンスロットがつかむ。
「待て、セルジュ・ジリカ。俺と同じサイを振れ。イカサマされては困る」
「いいとも」
手渡しのあとに投げられたサイは、6の目を出した。
続けざまにセルジュが投げた矢は、中心からすこし左の15点のレーンに刺さった。
6×15 90点の獲得。
「出たサイの目が1と6とか。極端だなあ」
キンスロットが、2投目のサイコロを振ると、出た目は2だった。
「2かー、低いな。納得いかん!」
パティは顔色を変えなかった。
彼女の投げた矢は、中心から上にいって20点。
2×20 40点だ。
「っちー、手元が狂いましたね」
パティは苦笑いをする。
セルジュがサイコロを振ると、また6の目だ。
「連続6はないだろっ」
キンスロットは床を蹴った。
「せいっ」
セルジュの投げた矢は真ん中に命中した。
6×50 300点の獲得。
「やるっすねっ」
パティは額に浮かんだ汗の玉をぬぐう。
「当たり前だ。俺様はこのカジノのオーナーだぞ。このボードで何千ゲームもやっている」
2投目が終わった時点で、パティチームの総得点は、90点。
セルジュ・ジリカは390点、その差は300点。
あとそれぞれ、2投を残している。
ダーツコーナーにギャラリーが集まってきた。
ほとんどの客が、セルジュ・ジリカの顔を知っている。
セルジュに滅ぼされる運命の生贄を、ハゲタカのように見物に来ていた。
3投目。
レーゲン・キンスロットがサイを振る。
でた目は1。
「終わった……」
騎士団長は力なくつぶやいた。
パティはボードの前に立ち、しばらく動かない。
それから、ゆっくりとしたモーションで指から矢を離した。
軌道は大きな山なりになった。
まわりには、明らかな失投に見えた。
しかし、矢は弧を描いて、真ん中に命中した。
「うわー、失敗したかと思ったー」
キンスロットは胸をなでおろす。
「やわらか投法っす。素人はマネしないでください」
50点の獲得。
総得点140。
続いて、セルジュ・ジリカが出したサイの目は3で、投げた矢は14点のレーンに刺さった。
42点の獲得。
総得点432。
その差、292点。
最終投回。
「旦那」
パティはキンスロットの瞳をじっと見た。
「いい目をたのんますよ」
「う、うむ」
パティが投げた矢の点数は悪くない。
足を引っ張っているのはキンスロットのほうだ。
「もう、サイは1しか出ないんじゃないか……」
「旦那。いい目、いい目を頼んますからね」
パティはボードの前に立って、待機する。
レーゲン・キンスロット騎士団長は頭のなかで念じた。
運命よ開け!
精霊よ!
加護を!
どうした精霊よ!
我を導いてくれ!
なにも声は降りてこなかった。
……やっぱ精霊には頼らないでおこう。
この一投に、俺の運を賭ける!
キンスロットが投げたサイコロは、6の目を出した。
「ほう、ほう」
セルジュ・ジリカは余裕の笑みを漏らす。
「6倍ですね。やってやりますよ」
パティはしばらくボードを見つめた。
デロスの山で、鳥や、ウサギ、鹿を狩っていた。それに比べれば、目の前のダーツボードはなんと近くて狙いやすいことだろう。
「はっ」
ポニーテールを振り乱し、パティが投げた矢は、中心から大きくずれた。
「!」
矢はダーツボードの左端下、19点のレーンの狭いトリプルリングに突き刺さった。
このゲームのルールで出せる最高点、6×19×3、342点の獲得だ。
ギャラリーがどよめいた。
【夢幻眩惑の剣】の威光で、セルジュ・ジリカが仕掛ける悪運地獄を越えようとする者が現れたのだ。
ここでパティチームの総得点は482。
セルジュの3投目までの総得点432に対して、50点差をつけた。
「なんだと!」
セルジュ・ジリカは目を疑った。
あれだけの余裕が一気にひっくり返った。
パティの飛び道具の腕は一流だった。
後攻のセルジュが投げたサイコロの目は、1だった。
「くそっ」
ブルズアイで同点。17点と19点レーンにあるトリプルリングを狙わないと逆転できない。
「ぷーくくく、追い詰められたな」
キンスロットが笑う。
「せいっ」
セルジュの最後の矢は狙ったところに当たらなかった。
「やったー、やったっす。キンスロットの旦那」
「おおおし」
二人はハイタッチを交わす。
「ふー。お前たちの勝ちだ。カジノからの解放を認める」
セルジュ・ジリカは、うなだれて椅子に腰を下ろした。
パティは、セルジュに対して親指をあげてグッドサインを送る。
(三年前に、お前を外に出して正解だったな)
セルジュも疲れた笑みを浮かべながら親指でサインを返した。




