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第二十四章 慣れです。慣れればいいんです

 ハーシュラームの朝


 ハーシュラームのとある白塗りの宿の中で、ドニーニ一派が慌てふためいていた。

 自分たちのボスが、一室で刺され、命を落としたからだ。

「閣下、ドニーニ閣下ー!」

「はやく片付けて去れ!」

 カウンターの男が罵声を張り上げる。宿にとってこの上なく迷惑だ。

 

「この街でドニーニと会う約束をしていたが、やられるとはよ。羽目を外して調子に乗っているところを狙われたな。あいつも散々、神の名を借りて悪さしていたからな。報いを受けたのさ」

 現場にドラゴンスレイヤーを持つ覆面男が現れた。

 ドニーニの部下がその姿に気づいた。


「貴様、ナンバー9だな。被疑者として取り調べをする!」

「やったのは俺じゃない。お前らはとっととおうちに帰りな。俺は去るわ」

「貴様、待て。教団に逆らうとどうなるか知っているだろ。表に出ろ」

 十数人のドニーニの部下たちは、街路でナンバー9をとり囲んだ。

 彼らは勇者狩りの実力集団だ。


「なんだよ。群がることでしか強く見せられないやつらだな。鉄球があればお前たちなどイチコロだ。いやドラゴンスレイヤーで十分」

「お前がやったんだろ?」

 ドニーニの部下が、ナンバー9の鼻先に先端がとがるスマートなロングソードを向けた。

「やってもやってなくても、お前たちの怒りは収まらなさそうだ。言っておく。ドラゴンシリーズは伊達じゃねえ。俺はこの剣を使う若造と戦って敗れた」

 ナンバー9はすばやく剣を抜き、相手の刃身を真っ二つに割った。

 一瞬の居合いあいだった。


「くっ、教団エリートしか帯刀が許されない剣をよくも……、皆の者、一気にかかれ!」

 教団員たちは、ロングソードを握って一斉に巨体に斬りかかった。

 しかし、ドラゴンスレイヤーのブレードは、攻撃を受け付けない。

 ことごとく剣を弾く堅さは、まるで火竜のウロコだ。


「うおりゃー」

 体の大きな教団員が、チェーン付きのモーニングスター(刺付きの鉄球)をドラゴンスレイヤーに絡めようとして投げ込んだ。

 チェーンが刃先に巻き付いたのは一瞬だった。

「鉄球使いの俺にその武器は通用しないぜ」

 軽々とナンバー9は振り払う。

 鎖はバラバラになり、鉄球が地面に落ちた。


 ナンバー9が空を斬ると、火竜が吐いた燃え盛る炎に煽られるように、部下たちはぎ倒されていく。

 まわりに集まったギャラリーは、芸を観ているようにどよめいた。

 

 ドニーニの部下たちは、ドラゴンスレイヤーの威力に対抗できないと判断し、戦意を喪失そうしつした。

「異国で騒ぎを大きくするつもりはない」

「そうだ。冷静さを失っているのはそっちのほうだ。この地はお前らがのさばるところじゃないぞ。トライアード教圏に帰れ」

「ドニーニ隊は解散だ。お前は好き勝手にしろ」

 ドニーニのなきがらを馬車に積み、彼らはすごすごと去っていった。


「ドニーニにさんざんこき使われてこの結果か。部下のやつらもボスがいなくなれば、あのザマか。トライアードがなんだってんだ。ハーシュラームにいりゃ、権威も凄味すごみもありゃしない。俺は勇者ユウ・ナギノを追いかける。この剣さえあればあいつに勝てるな」


 ・・・・・


「ついたぞー」

 御者台にいるユウの声を、ソラナは馬車のなかで聞いた。


 彼女はホロから顔を出して見まわした。

「私たちが住むところと、雰囲気が全然違う」

 まず、人々の顔つきと肌の色が違う。

 街道にずらりと並ぶ屋台から、香辛料の刺激的な匂いが流れてくる。

 そこはハーシュラームだった。

 

 馬車が停まり、ユウとアルトが、街の雑踏むかって駆け出した。


「私もユウについて行ってもいいですか?」

 ソラナは車内で寝ころがるシマデ・ミカにたずねる。

「ふあー。寝た。どうやら着いたみたいだな。その格好で人前に出られるかな?」

 シマデはニヤついた。

 胸の露出がずいぶんとあるソラナの衣装。

「あっ」

 ソラナは顔を赤くして、肩にショールをかけた。

れです。慣れればいいんです」

「女性の諸君は待ってくれない?」

 シマデ・ミカは含み笑いを浮かべる。

「ミカ。何さ」

 街に出かける仕度中のエリオ・ソフィーがけげんな顔をする。


「ほら、ここに売り物のドレスや、水着があるだろ。女性諸君に、これを着て貰おうかなって」

「私たちに、商品のモデルを?」

 ただでさえ、着慣れない格好をしているのに、あえて人目に晒すようなことをやるなんて恥ずかしくて仕方がない。

「ほら水着。男の目がないうちに早く着替えて」

 シマデがソラナに投げ渡す。

「えっ、え、これは慣れる自信がないです……」

 シマデの世話になっているので、彼女頼みは聞かなければならない。ソラナはそう思った。


「おーい、ソラナ、エリオ。屋台で食い物買おうぜ」

 すこし遠くからユウの呼び声がする。

 

「ああ、これ。ミカの冗談だから、冗談でしょ」

 髪を整えながらエリオが言う。

「いや、ちょっと本気だな」

 シマデは笑っていない。商売人の目つきになっている。


「ユウ、シマデがちょっと絡んできて、外に出られない。やっちゃって」

 エリオ・ソフィーの一声にユウはうなずいた。

 彼は天啓の剣を、馬車をめがけてひと振りした。


 強い旋風が起こり、ホロの布と中の品物が吹き飛ばされていく。

「あー、お前ら何てことをー」

 シマデが風に飛ばされた品物を追っていく。

「やりすぎたか?」

「バカミカが調子に乗っただけ。さーさー、いきましょう」


 ・・・・・


 大都市ハーシュラーム。丸みを帯びた屋根を持つ大型建築物が数多くあり、どれが国王の宮殿なのか分からない。

 この街のカオスな活気は、いろいろな事件を容易にかき消してしまう。


 ハーシュラーム国は、ラベラーダ国王(弱冠二十歳)が治める多民族国家だ。

 地方にも中小の街があり、地方部族の力が強く、どこまでがハーシュラームの国なのか、決まっていない。

 この国は地方に自治を認める寛容かんような政策をとっている。


 北部にはトライアード教圏があり、デロス神殿への経路回復のため、トライアード側が騎士団を結成して攻撃を仕掛け、幾度か戦争が起こった。

 砂漠の南部には遊牧狩猟部族群がおり、たびたび小競り合いが生じる。

 国を成り立たせるには経済が重要だ。国をまたいで活動する狡猾な商人集団たちが、投資や投機とうきでしかけてくる。

 

 これらの脅威から、国を守るため、昔から国王と諸部族の仲が良好になるようにつとめてきた。

 それが、ハーシュラーム国を存続させるためのかなめだ。

 しかし、数年前に、国王が強権的な政治を始めたため、有力部族の反感を買って暗殺された。

 若いラベラーダ王子が位を継いだ。


 ・・・・・

 

「この街に泊まるの?」

 屋台で買ったあつあつの肉饅頭をほおばりながら、ソラナはユウにたずねた。

「狭苦しい馬車の中で寝泊りしていたからな。ベッドで寝たいよな」

「狭かったのは、シマデさんの品物があったからでしょう。彼女なら品物をうまく売って馬車のスペースを広くするかもね」

 ソラナの言葉に、エリオ・ソフィーが首を振る。

「ミカなら、すぐまたたくさんの品物を仕入れるわよ」

「……、そうなりそうね」

 

「で、俺たちはこの街でぶらぶらしているだけでいいのかな?」

「だれも、勇者一行だと気づく気配はないですね……」

 アルトは、街に慣れず、そわそわしてユウの袖をしっかり掴んでいる。

「買い物なんかしたいわね」

 エリオ・ソフィーは、砂漠の国に来るにあたって、薄地の服を新調している。

「また服か? アクセサリか? シマデさんから買ったばかりじゃないか」

「バカユウ。剣よ剣。もっといい剣が欲しいな。ユウみたいにひと振りで、敵をやっつけられるような」

「お前の力を借りるときは、相当ピンチな時だって」


「勇者一行としてやることはないんでしょうか」

 アルトがソラナにたずねる。

「そうね……、国王に謁見かな?」

 ソラナは首をかしげながら言った。

「宮殿はどこだよ」

「わからない。わたしこの界隈かいわいまでコネはないもん」

 エリオがライトブラウンの髪をかき分ける。

「お前がつくったコネじゃないだろ」

「勇者になってから態度が大きくなったわねー」

 エリオ・ソフィーは、アルトがしがみついているユウ・ナギノを半目でにらんだ。


「王様に会いましょうよ。ねえ、大きい建物がいっぱいあるけど、どれが宮殿だと思う?」

 ソラナが間に入った。

「あの建物は大きいな。あそこかも」

 ユウが指し示したのはカジノ・ハーシュラームだった。

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