2話
ガイアよ、俺にをおおおおおおおおお!
即決即断した。
明けて翌朝。俺は昨日の告白の返事を氷室さんにするため、いつもより早く家を出た。もちろん、千秋には内緒で。
これが普段どおりなら千秋と一緒に行くところなんだが、今日ばかりは……マジで刃傷沙汰になるんじゃないか、と危惧したからである。あいつならやりかねん。
幼い頃から馴染み深い住宅街――つまり、幼なじみな住宅街を抜け、商店街前の道を横切っておよそ十五分。その場所に一つの学校がある。
お祭り沙汰大好きっ子(主に俺)の楽園、私立閣条高校である。
現在、七時四十分。
さすがにこんな時間だと、部活の朝練に来る生徒ぐらいしかまだ学校にいない。
だけど、あの人――氷室さんは俺からの返事をもらうため、すでに教室で待ってるはずだ。昨日、約束したしな。
約束の場所は俺たちのクラス――目指すは2年4組だ。
「いまさら、くよくよしてもしかたねぇ。さっさといってスカッとするか」
「ささっとスカートを盗る!?」
俺の言葉を斜めに受けとり、激しく反応を示す人がいる。はあ……
「…………なんだ、穂夏か」
「あからさまにいやがられた!?」
個人的に自己紹介はしたくありません。
「しろよっ!」
「あれ、モノローグ聞こえてる?」
このテレパシー少女、否、雨上穂夏は俺と千秋の腐れ縁の幼馴染である。茶色がかった短髪に、人好きのしそうなたれ目。見た感じは可愛い女の子なんだが……しかし、うざい。
「…………春基、失礼なこと考えてるよね?」
「うん」
「隠す気なし!?」
「だって、うざいし。オマエってさ、めんどくさい女だよな」
「本人の目の前で!?」
このように反応が一々うざったいので、あまり関わりたくない。
くるりと踵を返し、すぐさま立ち去ろうとすると、
「ち、ちょっと、冷たくない? 春基、あたしだけに冷たくないっ!?」
「チッ」
「今度は舌打ちですかっ!?」
しかたねぇ……本来幼馴染にはあるまじき行為だが、なぜかこいつだけにはいいような気がしていつもこうなってしまう。俺の心が無意識のうちなのか、こいつだけには開いてるってことか。ちょっと恥ずかしいな。
「へっ」
「なんらいい話になってないよ!」
照れながら鼻の頭を撫でる俺に対して、不満そうな穂夏。
ちっ、せっかく簡単にまとめられたのに。
おっと、もうこんな時間だ。早く氷室さんのとこ行かなきゃな。
背後から文句をぶつけてくる穂夏はおいておこう。面倒くさいので無視して校舎への道を駆ける。
「ちょ、こんな登場なしでしょ――――!?」
何やら背後からぐちぐちと聞こえるが、とにかく早く教室に行かなくちゃだな。
昇降口で上履きに履き替えると俺は階段を一段飛ばしでダッシュする。やがて三階の二年生のフロアまで来る。そして、突当りの四組の教室に、
「キャッ」
ガラっ、ゴロンッ、バチンッ。華麗に前回り受け身で入室を決めた――って、キャッ?
その可愛らしい声に俺は思わず、見上げる。
「白い……雲……?」
そこには白が、あった。
白い。ひたすら白くモコモコした雲のような……パンツだった。
「ウオッ」
吠えたのではない。俺はこの程度で狼になる男ではないです。でも、ちょっとドキドキしました。
「ご、ごめんね。氷室さん」
「い、いえ。こちらこそ」
お互いに緊張しすぎて言葉が出ずにいる。
そう、何を隠そうこの人こそ噂のその人、氷室冬華さんである。朝の陽ざしを受けて彼女の銀髪が眩いばかりに発光している。氷室さんのお母さんはロシア人とかで、つまり氷室さん自身はハーフらしい。可愛いとか美しいとか一言じゃあらわせきれない、そんな魅力をもっている。
ぽかん、とだらしなく俺が見惚れていると先に彼女の口が開いた。
「あ、あの、それで返事は……」
「あ、あ、ああ、そうだったね。返事、返事ね」
これほど綺麗な人にこんなこと言う日がこようとは。自分の中の良心が痛い。
「あ、あのね、氷室さん。その、昨日の事なんだけど――」
「……って、呼んでください……」
「えっ?」
「冬華って呼んでください!」
いきなりのお願いに俺は息をのむ。
いや、その……マジで? 今まさに振ろうと思ってる女の子から下の名前で呼べって……ガイアよ、これ以上俺に何を望むというのか。




