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届け物は女の子  作者: 新井 富雄
第4章 甘い記憶
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-12-

 バローギャング海賊団を名乗る一団、そして、途中からルーパス号にバトルを挑んできた、ハルナとシラネ、アカギ・・・『トリプル・ルージュ』の3人組が、ルーパス号を追う事はないと思われたが、|超高機動警察隊(スーパーポリス)の二人は、護衛をしたいとオープン通信で呼びかけてきた。

結果的に、略奪行為をしたわけではないバローギャング海賊団については、後続の警察部隊に任せ、エリナの機転により無力化されたハルナは、そのまま置き去りにしてきた。

ジョンとカナリの二人は、一通りの戦闘を終えたルーパス号に随行し、第12番惑星に向かうことになった。


 その第12番惑星を臨む宇宙ステーションのロビーで、エリナとキリエは、昼食を食べていた。

「カゲヤマくんといい、カナリといい、よっぽど暇なのね。ちゃんと、お仕事してるのかな」

「みんな、エリナのことが心配なんだろう」

「わたしのこと?危なっかしいから?」

「ああ・・・」

「昔よりは、よっぽどしっかりしてるつもりなんだけどな」

「ミユイさんは、今、何をしてる?」

「カナリと、この後のこと、相談しています。

わたしたちの仕事は、ミユイをここに運ぶまで・・・後は、彼女、自分でなんとかするって、言い張って聞かないの」

「ここで、お別れってことか」

「仲間にしたかったなぁ」

「そうだな」


 カリナに話をしたいことがあると、切り出したのは、ミユイのほうだった。

「あなたを、保護するようにというのは、中央政府からの要請です。

強制ではありませんが、あなたのお父上と会うためには、私たちと一緒にいたほうが良いと、私は思っています」

「父も、保護の対象となっているのでしょうか?」

「バローギャング海賊団から、あなたの父上を取り返すことができたと報告を受けています、おそらく、あなたと同様に、保護の対象となって、護衛が付けられていることでしょう」

「取り返していただけたのですね・・・?」

「貴重な科学者です。ここでの研究を続けることで、また、今回のようなことが起こる可能性もあります。貴重な頭脳を失うわけにはいきません」


「父の研究は、わたしの記憶を消すことですよ・・・政府が必要としているような研究内容ではありません。それで、中央政府での研究を続けることができなくて、こちらで、同じ目的の研究者との共同研究を決意したのですから」

 ミユイが、重い口調で、その事実を、カナリに告げる。

「記憶を消すという研究は、政府が使う技術ではない・・・と私は思っている

 実用化されても、よいことに使う方法は限られている。

 むしろ、悪用されることが多いと思う。」


「はい・・・父は、余命が少ないことを知って、最後の研究くらいは、わたしを喜ばせることをしたいと言っていました」

「それが、あなたの記憶を消すことなのですか?」

「はい・・・わたしが、リョウスケ・アズマザキの器となっていることは、警察の方も、もう知っていらっしゃいますよね」

「詳しくは聞いていませんが、貴重な記憶を持つ者であるという説明は受けています」

「その記憶を消してほしいと、わたしは、父にお願いしていたのです。何度も何度も・・・」

「その話は、エリナ達にはしたのですか?」

「いいえ・・・調べていたとしても、父の研究は、いつも、中央政府からの命令ですから、エリナさんたちの情報網では、知り得ることではないでしょう」

「なぜ、それを私なんかに?」

「わたしと父を保護しようとしている人に、その必要がないことを、わかってもらうためには、伝えておかないといけないと思ったからです」

「私たちの保護は必要ないと、言いたいのですか?」

「父には、わたしの脳に埋め込まれたリョウスケ・アズマザキの記憶を消してもらいます。

 そうして、わたしは、ちょっと、頭の良いだけのただの・・・普通の女として生活できるはずだと

 そう父は、言ってくれました

ここまで到達できたことで、父とのプライベート通信も回復しました。父は、もう大丈夫だと、言っています。


 政府を騙して、自分の勝手な研究をしていたことがバレてしまってますから、もう、父は、海賊団から解放されたとしても、自由な研究はできないだろうと、そうも言っています」

「あなたは、どれほど、政府に取って必要な知識を有しているか、その自覚はあるのですね」

「知識については、わたしは感謝しています。このリョウスケの知識のお陰で、わたしは、どのような局面でも正しいと思える選択をすることができると信じていますから」

「あなたが疎んじているのは、リョウスケ・アズマザキの記憶ですか?」

「はい、常にあやふやな記憶が、わたしの意志とは無関係に、わたしの頭の中で生まれたり消えたりするのです・・・楽しい記憶なのか、辛い思い出なのか?見え隠れする記憶の断片に登場するリョウスケの思い出の人物のことを、わたしは、知識としてしか知らないのです

 こんな気持ちの悪い感覚・・・きっと、わたし以外の人には、絶対にわからない」

「それを、なぜ、私に言う気になったのですか?」

「それは・・・」

 ミユイは、視線を床に落す。

そして、ステーションの窓越しに見える惑星の水色に見える部分を凝視する。

少しだけの沈黙。

「きっと、悲劇のヒロインになりたかったんだと思います」

「悲劇のヒロイン?・・・

 少し、意味(ニュアンス)が違うと思いますが・・・

でも、私に話して、気が楽になるのであれば、聞きますよ」

「父の話では、研究自体は、まだ成功したとも失敗だったとも判断できないらしいです」

 そう言って、ミユイは、もう一度視線を床に落す。

「私も、あなたの父上に会いたいのですが、やはり、それも迷惑になりますか?」

「迷惑というより・・・父は、これ以上、いろいろな人に迷惑をかけたくないと・・・助からない命であれば、この地で、静かに果てたいと、そう言っていました」

「そうですか」

「だから、わたし一人で、父に会います。そして、父の最後の研究成果を、この体で、受け止めたいと思ってます。どのような結果になったとしても・・・

 中央政府の方に伝えていただけるなら、リョウスケ・アズマザキは、既に死んでいると・・・そう、伝えていただきたいのです。

実際・・・2100年に彼は死んでいるんですから、ここにある・・・」

ミユイは、自分の頭をつついてから、言葉を続けた。

「リョウスケの記憶は、あってはならないものなのです」

「わかりました。伝えます」

「あなたに・・・いえ、ごめんなさい・・・誰かに伝えることができて、少し気持ちが楽になりました」

「彼らには、やはり言わずにおきますか?」

「はい・・・あの人たちが、わたしのことを、どう思ってくれているか、わかりません

 でも、わたしは、あの人たちを、好きになってしまいました

この気持ちも、もしかした、父の手術を受けることで、消えてしまうかもしれません」

カナリは、三度、床に視線を落したミユイの両手をしっかりと握り締めた。

「よい結果となることを、わたしも祈っていますよ」

「ありがとうございます」


 ミユイとカナリは、ステーションロビーで待つルーパス号のクルーのところに戻ってきていた。

「女の子二人で、どんな秘密の話をしていたのかな?」

 ミリーが、いつもの調子で、ミユイに尋ねる。特に、明快な返事をせず、ミユイは微笑で応える。

「よい仕事をしていただき、大変、感謝しています

 ほんとうに、ありがとうございました

先ほど、父とも話ができました。ここから降下すれば、すぐに会える場所にいることも、わかりました」

 ミユイは、ぺこりと頭を下げる。

「それでは、父に会ってきます」

「降下は、どのシャトルで?」

「一人乗りシャトルをチャーターできました。

ここまできて、ほかの人に迷惑をかけることもできないので、乗り合いシャトルは、やめることにしました。父も、そうしろと・・・

まだ、わたしを捉えようと、殺そうとしている者もいるようだと、言っていましたから」

 ミユイは、できる限り明るい表情を作りながら、父親から告げられたことを、そのまま、ルーパス号のクルーに伝えた。

「バローギャング団ですか?」

 エリナが、問いかける。

「いえ、父と共同研究をしていた人が、どうも、わたしに執着しているらしいのです」

「共同研究?」

「説明すると長い話になるので、話すのは、今度、会ったときでいいですか?」


「急いでいるんですよね。でも、ミユイさん・・・最後の、お節介させてもらっていいかな?」

「これ以上は、契約の範囲外ですよ。もう、支払えるお金も持ち合わせていませんから」

「ギンを連れてって・・・」

 エリナが、ペンダントと一緒に、手に乗せたギンをミユイに突き出す。

静かに、ミユイは、ギンを受け取る。

「いいの?」

「あ・・・ミユイさん・・・あなたにあげるわけじゃないのよ」

 ミリーが、慌てて言葉を発する。

「いつも、船の中の狭いところで、ギンも窮屈にしてるから、こういう時くらい、大気の中で、自由に飛ばせてあげたいの・・・そうじゃないと、ギンも空の飛び方を忘れてしまうから」

「ふふ・・・ミリーは、ほんとうにギンが大好きなのね」

「もちろんです」

 胸を張って、ミリーが(こた)える。

「あと、これを持って行って・・・」

 エリナが、ポーチをミユイに渡す。

「秘密道具が、3つ入っています」

 渡されたポーチの中を、ミユイが覗いてみる。布切れが一枚と、短い筒型の道具が、2個、そこには入っていて、折りたたまれた、紙切れも一枚入っていた。

「布のスーツは、ギンが帰る時に着せてあげてください。座標を、このルーパス号のギンの部屋に設定してあるので、それで、戻ることができます。ギンも操作方法を知ってるから、着せてあげてくれれば問題ないです・・・テレポートスーツです」

「そうか・・・わたしが、『ギンを返さない』って言うことも想定済みなのね」

「そうですよ・・・ギンは、誰にもあげません」

「ミリーの家族だもんね」

「うん」

「後の二つは・・・えっと、なんていうか・・・護身用に使って欲しくって」

 エリナは、言いよどんで、ごにょごにょと言葉を濁した。

「護身用?拳銃なら持ってますよ」

「それも、たぶん身を守るためには、ベストチョイスだと思うけど・・・」

 ミユイは、中に入っていた紙切れをつまみ出すと、書いてある説明書きにザっと眼を通した。

そして、口に手を当てて笑い出した。

「笑わないで・・・ちょっと時間がなかったので、装飾とかできなくて、見た目は悪いんだけど・・・ちゃんと使えるの」

「ファイア・・・って叫べばいいのね」

「うん・・・あの、わたし言葉のボキャブラリが足りなくて、もっとセンスのいい呪文にしたかったんだけど・・・やっぱり時間が足りなくて・・・

それと、このステーションで試しても、空気が清浄だから、あまり大きな炎を作ることはできないけど、これから行く12番惑星なら、空気中の不純物や、草やコケを使って、すごく大きな炎も作れるんだよ」

「素敵な火炎放射器をありがとう・・・エリナさん・・・」

「一応、ライター代わりにもなるから、護身用だけじゃなくって、実用性もバッチリ」

「でも、ファイアって叫ばないと使えないんですよね」

「それは・・・はい、そうです」

「もう一個の呪文は・・・フリーズでいいのね」

「ほんとうにごめんなさい。恥ずかしいよね」

「ううん、うれしい・・・わたし、父以外の人からプレゼントもらったことないから

 大切に使います」

「それで、あの・・・」

「ほかにも、使い方の説明があるの?」

「できれば、ギンの耳の横にくくりつけてもらえると・・・それっぽいかなって・・・」

 ミユイは、その言葉を聞いて、眼を輝かせた。

「あの時のこと・・・」

「うん、せっかく、ギンを用心棒に付けたのに、ギンが武器を持っていなくって、役に立たせることができなかったから」

「『かえんほうしゃ』と『れいとうビーム』ね・・・」

「うん・・・あの時はごめん」

「そんな魔法まで使えるようになっちゃったら、ますますギンを返したくなくなっちゃうよ」

 ミユイは、ギンをぎゅっと抱きしめる。

「ギンが望むなら、それでもいいと思うし、降りた後は、ミユイとギンで相談してね」

「エリナだめだよ・・・ギンは・・・」

 ミリーは、明らかに狼狽した表情で、ギンの顔を覗き込むが、こんなとき、すぐに返事をするはずのギンは、なにも応えてくれない。

「だから、ギンが望むならだよ」

「ギンだって、今は仕事とかしてないけど、だからって追い出すなんて、ダメだよ」

「そういう理由じゃないから・・・今のミユイさんに、きっとギンが必要になる・・・そう、思っただけ」

「だって、海賊団は、ポリスがなんとかしてくれたんでしょ」

「ギンは・・・どうするつもりなの」

『ミリー・・・だいじょうぶ、すぐ帰ってくるから』

 ミリーの尋ねた言葉に、ようやくギンが返事を返す。

「チャーター便だから、時間は関係ないけど、あまり引き止めるのもどうかと思うから・・・

あと、みんな一言ずつ、ミユイさんに挨拶したら、行ってもらいましょ」

 エリナが、そう言って、まず、イチロウのほうを振り返る。

イチロウが進み出る。

「俺の初仕事・・・ミユイといっしょで楽しかった」

 イチロウは、手を差し伸べる。

ミユイの手がその手を握り締める。

「こちらこそ、ありがとう・・・こうやって、父さんと話ができるようになったのは、全部、イチロウたちのお陰・・・また、お金が溜まったら、仕事をお願いしてもいいかな?」

「もちろん・・・どんな物でも届けてやるよ、どこにでも」

「うん」

 イチロウは、握った手を離して笑った。

「ギンをよろしくね・・・絶対、役に立つから」

 続いて、ミリーが握手を求める。

「もう危険なことはないと思うけど、ギンがいれば安心・・・ミリーとギンは、恋人だもんね・・・心配しないで、ちゃんと帰してあげますから」

 ソランとキリエが、ミリーに代わって、ミユイの手を取る。

「今度は、仕事抜きで会いたいな。次の太陽系レース、イチロウの初レースには応援に来て欲しい」

「今度は、カラオケを、いっしょに楽しもう。

しばらくは、ここにとどまるつもりなのか?」

 ソランに続き、キリエは、いつものざっくばらんな口調で問いかける。

「はい、父さんが元気になったら、必ず、元の家に、二人で帰ります。それまでは、ここに・・・次のレースは、ライヴ中継を見ながら、イチロウくんを応援します。

「あたしのライヴも観てくれると嬉しい」

「はい、もちろんです」

 リンデは、声を掛ける前に、ミユイの前まで足を運ぶと、その体を引き寄せた。

そのまま、ぎゅっと、ミユイの体を抱きしめる。

「今は、何も言うことはないけど・・・親の立場で一言だけ」

「はい」

「決して、子供と離れて暮らしたいと思う親はいないんだ。あなたのお父さんも、いろいろと事情はあるのだろうけど、きっと、あなたのことを一番に考えてるはず・・・会ったら、大切にしてあげてほしい」

「はい」

 ミユイは、腰を落し、項垂れた姿勢でリンデの胸に顔を埋めた。

「まぁ、父親なんてのは、娘が一番かわいいもんだ」

 マイクが、ぽつりとつぶやくように言って、ミユイの肩のあたりをポンポンと軽く叩いた。

「だいじょうぶ?」

「はい・・・もうちょっと、このまま・・・

いいですか?」

「いいよ、わたしなんかでよければ・・・それとも、イチロウに代わろうか」

(イチロウくんに抱きしめられたら、涙が止まらなくなっちゃいます)

 ミユイが、リンデにだけ聞こえる声で、正直な気持ちを伝える。

(そっか・・・余計なこと言ってごめん)

「本当は・・・」

 最後の挨拶をするために、ロウムが二人のそばへ近寄る。

「イチロウが言うと思ったんだけど、何にも言わないから、僕が言う・・・」

 ミユイの肩が揺れる。

「いっしょに・・・僕たちの船で、いっしょに」

「ごめんなさい」

 顔を挙げずに、ミユイはきっぱりと応えた。

「イチロウが言わなかったのは、あなたの答えを知っていたからだとは思ったんだけど、すみません・・・どうしても、言わずにいられなかった」

「ごめんなさい」

「でも、イチロウの気持ちは、僕にはわからないけど・・・

僕の気持ちを、伝えておきたい」

「・・・」

 ミユイの(いら)えはない。

「僕たちの船には、あなたの力が必要なんです。あなたの気持ちも事情も、無視するつもりはありません。

 もし、また事情が変わったら・・・そのときは、あなたを迎えに来てもいいですか?」

「・・・」

 やはり、ミユイは答えを返さない。

「ロウム・・・ミユイさんが困ってるから」

「うん」

 リンデから体を離したミユイが、ロウムの両の手を、自らの手で覆う。

ロウムの視線の先に、涙を溜めたミユイの顔がある。

「今は・・・今は、ちゃんとした返事が・・・できません」

「・・・」

「でも、わたしのことを必要だって・・・それが社交辞令だったとしても・・・」

「そんな気持ちでは・・・」

「はい・・・本当の気持ちで言ってくれてるのが、わかるから・・・本当に・・・本当に・・・とっても嬉しいです。わたしも、ロウムたちの仲間になりたい・・・です」

「ミユイさん」

「ごめんなさい・・・父さんも、わたしを必要としてくれています・・・

だから、行ってきます」

「メールアドレスを・・・」

 ロウムが、左手のブレスレット型の携帯端末を差し出す。

ミユイがそれに、自分の携帯端末を、そっと触れさせる。

(イチロウには教えてあります?)

(いえ・・聞かれなかったから、まだ)

(相変わらず鈍さ100%だね)

(そんなところが、みんなが好きになっちゃう理由なのかも)

『イチロウは、いいヤツだ』

 ギンが、ミユイとロウムの二人に、同じメッセージを伝える。


 その1時間後・・・

ミユイとギンを乗せた降下用のシャトルが、宇宙ステーションから第12番惑星に向けて射出された。

『ミユイは、お父さんのいるところは、わかってるって言ったよね』

「うん、中央政府の管理してる研究施設からは、ちょっと離れたところだって言ってました」

『大気圏の一番熱いところを、通り過ぎたら、僕が背負ってあげるから、ペンダントは持っているよね』

「もちろん・・・持ってるよ・・・ほんとうに乗せてもらえるの?

 わたし、けっこう重いよ」

『ミリーとエリナの二人を乗せて飛ぶこともしょっちゅうあるから、全然、だいじょうぶ』

「ギンは、なぜ、ルーパス号に乗ってるの」

『ミリーのことが好きだから』

「正直者ですね」

『僕は、ミリーに助けてもらったんだ』

「命の恩人だから好きなの?」

『そうかも、知れないけど・・・女の子を好きになるのに、理由なんかないよ』

「そっか、イチロウくん以外は、ほんとにみんな正直者だね・・・じゃ、ミリーちゃんと結婚とかしたいと思ってるの?」

『もちろんだよ・・・

おかしいかな?

こんな姿の僕が、ミリーと、ずっといっしょにいたいと考えたりしてるのって』

「ぜんぜん・・・自然だと思うよ」


『そろそろ、突入だね』

「そうだね」

 二人を乗せた降下用シャトルは、空気抵抗による摩擦で、外面・・・特にシャトルの腹部である空気との接触面は灼熱に燃えさせてはいたけれども、シャトル内部には、さほどの変化・気温上昇の気配はない。

ほんの少しの振動が、ミユイの体を揺らす程度である。ギンは、大気圏突入の振動に慣れていることから、それほど騒ぐこともなく静かにシャトルが降下している感覚を楽しんでるようにも見える。

『そろそろ、いけると思うよ』

地球でスカイダイビングを楽しめるくらいの高度まで、シャトルが降下しきったところで、ギンがミユイに告げる。

「うん、楽しみ」

 ミユイの手のペンダントから放たれた光が、ギンの姿を元の大きさに変化させていく・・・その大きすぎる体躯で、シャトルの外装に亀裂が走る。

ミユイの体を抑え付けていたシートベルトを外させた後で、ギンは、大きな翼を、勢い良く広げる。

シャトルの上方を覆っていた外装がはがれて落ちる。

『まだ、この下は海だから、なんの問題もないよ』

 ギンは、ミユイの体をしっかりと抱きしめる。

『行くよ・・・怖くない?』

「ぜんぜん、平気」

 足下(あしもと)に残ったシャトルの残骸をジャンプ台のようにして、ギンは、大空へ向かって力強く飛翔する。純銀の翼が、第4恒星の光を受けてキラキラと美しく輝く。

『背中に乗る?その姿勢だと窮屈だよね』

「いいの?実は、ギンの手が、ずっと胸を押さえてるので、ちょっと恥ずかしかったの」

『あ・・・ごめん・・・』

「そういう意味で言ったんじゃないから」

 ギンは、ミユイを抱えた姿勢で背面飛行になり、そのまま、そっと、手を離す。

自由落下する感覚をミユイが感じた刹那、ギンが姿勢を元に戻す。

そして、自由落下と同じスピードで降下するギンの背中に、ふんわりとミユイの体が軟着陸する。

ミユイの手が、自分の首にしっかりと巻きつけられた感触を得ると、ギンは、ミユイを背中に乗せて、悠々と上昇をする。

『ミリーは、ここで両足立ちするのが大好きなんだよ』

「あの子らしいね」

『やってみる?』

「ううん・・・怖いから、今はやらない」

『もう少しスピード上げていいかな?』

「いいよ」

『怖かったら言ってね。スピード緩めるから』

「うん」

 ミユイは、腕に力をこめて、ギンの首にしがみつく。ギンは、徐々に加速していき、そして、トップスピードになる。

おそらく、地上から見上げる者がいたとしたら、その姿は、高速戦闘機のようだったかもしれない。

『お父さんのいる研究所は、どっち?』

「もう、とっくに過ぎちゃったよ」

『ええっ?』

「ギンが、とっても気持ちよさそうに飛んでるから、邪魔したくなかったの」

『でも、言ってくれないと』

「もうちょっと・・・こうやって飛んでいたいんだ・・・だめ?」

『でも・・・』

「もうちょっとだけ、いっしょにいたいの・・・ギンとこうして」


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