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届け物は女の子  作者: 新井 富雄
第4章 甘い記憶
13/16

-11-

 地表の9割が氷と水で覆われている第4恒星系第12番惑星。

地球からの航路が確立されている惑星の中では、最も水の量が多いとされる惑星でもある。

陸地部分には、原始植物も繁殖し、羊歯(しだ)や苔が岩場を取り囲むように存在している。

その数少ない陸地部分に、中央政府は、研究施設を設け、研究員を多数送り込んでいて、その研究目的は、余りにも多岐に渡る。

カツトシ・リューガサキは、1年前、自身の研究を完成させるため、そして、ミユイの願いを叶えるため、中央政府の監視の厳しい地球圏の研究所から、この星に乗り込み、一人の少年と出会っていた。カツトシは、その少年と過ごした1年間を思い出していた。


 今、海岸近くの研究施設の建物で、カツトシは、ミユイの情報を警察隊から聞いていた。

1年前に、ミユイとのちょっとした諍いがあったことも、住居・研究所を移すことにした理由でもあった。

ただ、一番の理由は、この惑星に、記憶に関する研究をしている少年が住んでいたということであり、その少年が1年前に発表した研究論文を読み、自身の研究を託すことができる唯一の研究者であるとカツトシは、思い至ったからである。

その少年は、もうここにはいない。

裏切られた思いと、研究の成果を挙げることができない苛立ちに、カツトシは、それまで定期的にしていたミユイへのメールでの連絡を、敢えてストップしていた。

ミユイの願いを、このままでは、果たしてやることができない。

ミユイの脳を手術して、その脳細胞から『リョウスケ・アズマザキの記憶を消す』という願い。

この願いをかなえることが、今のカツトシの技術では不可能であること。その実現は、もう、自分に残されている時間の中では不可能であること。

その状況で、ミユイに会わなくてはならないことを、カツトシは後悔している。


「リューガサキ博士・・・あなたとの共同研究は、とても、僕にとって役に立ちました。

 遺伝子について・・・記憶の操作について、熱心に研究を続ける姿に感激しています

でも、もう僕は、ここに留まることができません

僕を必要としているバローギャングという海賊団が、迎えに来ているので、僕は、この研究所を離れます。

あなたと、あなたの娘さんのことを彼らに伝えたら、是非とも迎え入れたいと言っていましたから、じきに、あなたにも迎えの手がくるでしょう

あなたが、その要請に応えることができれば、もう一度、僕と一緒に研究を続けることができるはずです。

ただ、彼らは、なぜか、あなたの娘さんの記憶を欲しがっています。

あなたの娘さんを拷問にかけてでも、記憶を取り出してやると、物騒にも息巻いていますよ。

彼女の記憶を消してあげれば、彼らは、あなたの娘さんを狙わなくなるかもしれませんが、記憶が消えたことを証明することは、きっとこの世界の誰にもできないことでしょう

僕が言えるのは、ここまでです」

それだけ言うと、少年は、カツトシとの共同研究所から去っていった。


カツトシは、自身を保護してくれた警察隊から、バローギャング海賊団が、この惑星へ向かうミユイを襲っていること、ただし、ほどなく、鎮圧されるであろうことを聞いた。

カツトシは、バローギャング海賊団に身を委ねることを決意したその少年の残していった言葉を思い出してもいた。


「娘は、ここに来ることができるのでしょうか」

 カツトシは、聞いた。

「警察隊の者が、彼女の説得に乗り出しています。優秀な二人です。

 彼らであれば、娘さんを無事、送り届けてくれますよ」

 もうすぐ、最愛の娘が、ここに着く・・・果たして、その時、自分はミユイの願いを叶えてやることができるのだろうか・・・カツトシの思いは堂々巡りを繰り返すだけであった。

「地球圏に戻りますか?」

 警察隊の隊長が一人残り、カツトシに尋ねる。

「いえ、私の余命は、あと数ヶ月なのです。もう、地球に戻ってもやることはありません。

なぜ、私が、この地に研究所を建てたか・・・それは、ここは海にも隣接していて、山も原始植物も全ての自然が存在しています。

 特に、海に棲む魚が豊富です。

研究を続けるには、もう気力が続きません。後継者にしたいと思っていた優秀な助手も失ってしまいました。

これからは、釣りでもしながら、のんびりとしたいと思っています。

今回は、私のために、余計な手間をかけさせました。たいへん、申し訳なく思います」

「海賊団などという輩は、何を目的としているのか、まったくわからないところがある。

 あの革命の後で、戦争がなくなっても、戦いは消えない

でも、おおむね平和ではあります」

 警察隊の隊長は、自分に言い聞かせるように呟いた。

「戦いを無くすことはきっとできないのでしょうね」

 カツトシも、やはり、自分に言い聞かせるように、そっと呟く。




 バローギャング海賊団の母船の3隻目を沈黙させたところで、既に、ルーパス号にとっての突破口は見えたかに思えた。

しかし、その突破口に向けてルーパス号が、針路を取り、Zカスタムと、ライトニング・ファントムが、帰艦しようとした、その時に、その3機は現れた。

先頭は、鮮やかなショッキングピンクの機体、メーカは特定できないが、極端な流線型の胴体に大きな両翼を備えたその機体は、明らかに無重力である宇宙空間と、重力を持つ地表での戦闘を可能にできる機体であることは、容易に想像できた。

その左右には、中央の機体と、全くの同型機であるが、カラーリングが異なる機体、右と左のそれぞれに一機ずつが、続いていた。

一機の色は、パールホワイト、もう一機はルビー色の光沢を持つシャインレッドに彩られていた。

狙撃手(スナイパー)は、ミリーちゃんだよね』

 まったく緊張感のない、甘い声が、オープン通信の周波数で、この空域の全てに伝わった。

ミリーは、その声に、聞き覚えがあった。その声の主を確かめるために、ミリーは、オープン通信の映像を、コゼットのメイン・モニターに映し出した。

その顔に、見覚えは全くない。

ヘルメットで覆われた顔ではあるが、その特徴的なピンクの瞳の色は、恐らく、一度会っていれば、忘れることはできないはずである。

『あ・・・見てくれたんだね、でも、残念、ミリーちゃんとは顔を合わせたことはないんだよね』

 ヘルメット越しであってもはっきりとわかる笑顔を見せる、その相手・・・細められた眼が、また、ゆっくりと開いて、満面の笑顔が微笑に変化する。

「何をしに、こんなところへ?」

 ミリーは口に出さずにいられなかった。

『思い出してくれたのかな?』

「いいえ・・・」

『そっかぁ

 スカイウォーカードラゴンを召喚します

って台詞覚えてる?』

『あ・・・』

 ミリーは、DG21でパーティを組んだ召喚士を、ようやく思い出した。

『そっ・・・ハルナちゃんだよ』

「『森林の勝利者(ウッディ・ウィナー)』のハルナさん?」

『やっと、思い出してくれたんだね

 じゃ、次の質問・・・

 あたしの、本当の職業(ジョブ)は、なんでしょう・・・か?』


 その機体のデザインを見て、いち早くハルナの正体に気づいたのは、超高機動警察隊(スーパーポリス)の二人であった。

『部長・・・あの機体』

『ああ・・・賞金稼ぎのハルナだな』

 賞金稼ぎ・・・この時代で公認されている職業としては、もちろん認められてはいない。

しかし、指名手配される海賊を捕らえることのできる人材を、警察としては非公式ながら認めている。あくまでも、民間の一般市民が、捜査協力をしたという建前によって、賞金稼ぎが捕らえた海賊や他の凶悪犯を受け入れ、正当な報酬として、賞金を支払う。

 『ハルナ・ピンクルージュ』率いる一味・・・パールホワイトの機体を操る『シラネ・ルナンベア』とシャインレッドの機体を操る『アカギ・サンバード』の3人で構成された『トリプル・ルージュ』とは、そんな賞金稼ぎチームの1つだった。


『1年前の、あなたたちなら、容赦しなかったんだけど、今では、名誉市民だもんねぇ・・・すっごく残念なんだけど・・・でもね』

 自分の正体を明かすことなく、ハルナは、ミリーに話しかける。

『あなたたちを追ってきて、あなたたちの戦い方を見てたら、ちょっと熱くなっちゃったんだよね・・・

 だからさ・・・あたしと、勝負してみない?』

(さっきのストーカーも、そうだったが、こいつら、勝負とかギャンブルとか、そういうことが好きだな)

 イチロウは、ミリーとの会話を楽しんでいるようにしか思えない、ハルナと名乗る少女の姿をモニターで見ながら、とりとめもなく、そのような思いを巡らせていた。

「勝負?」

『先に、ペイント弾を相手の機体に当てたほうが勝ち・・・簡単なルールでしょ?』

「ごめんなさい・・・あたしたち、先を急ぐんです」

『賞金稼ぎのハルナが、相手してあげるんだよ。断ったら後悔すると思うんだけどなぁ』

「賞金・・・かせぎ?」

『それとも、そっちで見てるお巡りさんでも相手にしてみようかなぁ』

 ハルナの機体から発射されたペイント弾が、ジョンの機体の側面に当たって張り付いた。

()けもしないから、やめとくわ』

 ハルナの機体から次の弾が発射される。その弾道は、イチロウとミユイが乗るZカスタムに向かって真っ直ぐに飛んで来る。

「ダウン」

 瞬間的に、ミユイが発する声に、イチロウが反応する。ペイント弾はZカスタムの天井の上を通り過ぎてゆく。

『ゲーム開始よ!!』

 ハルナの声が、全員に伝わる。

「待って!!」

『なぁに?別に命をもらおうってわけじゃないんだから、ちょっとくらい、バトルに付き合いなさいよ』

「あたしたち・・・先を急ぐの・・・だから」

『だから?なぁに・・・ごめんね、あたし、あんまり他人の都合とか考えない人なんだよね・・・

さっきの海賊さんたちと1時間近く戦ってるのに、あたしとのバトルが嫌だって言っても、説得力、まったくないんだよねぇ』

「ハルナさん・・・」

『そっか、タダじゃ嫌ってことか』

「な・・・そんなこと言ってない」

『アストロゲートイヤリングをあげる』

「え?」

 そのハルナの一言で、ミリーの声のトーンが、がらりと変わった。

『あたしに勝てたら・・・あげる。約束するよ』

 ミリーが、生唾を飲み込む音が、聞こえたように、イチロウは感じた。

「イチロウ・・・あと15分だけ時間をもらえる?」

『なんだよ、そのアストロゲートイヤリングって』

「超レアアイテムなの。特にスナイパーに取っては、ソナーセンサー付きだから、見えない敵も、ターゲットできない敵も、音で正確な距離を測って狙撃することができるの。消音魔法だって無効化できるんだから・・・言葉通り・・・スナイパー垂涎(すいぜん)のアイテムなのよ」

『宇宙空間で、ソナーって関係ないんじゃ』

「なんの話してるのよ」

『なんの話してるんだよ』

「GDの話に決まってるじゃないの」

『GDって・・・ゲームか?』

「そうだよ」

 ミリーは、きっぱりと言い切った。

『じゃ、決まりね・・・でも、あたしだけ、なんかあげなきゃならないって不公平だ・・・って今気づいたんだけど・・・

ミリーちゃんは、何をくれるのかな?』

「あたしは・・・召喚士が喜ぶようなものなんか持ってないよ」

『ウルフドラゴン・・・とか欲しかったりするかも』

「だめ!! 絶対にギンはあげない!!」

『ケチだなぁ・・・ペット一匹くらい・・・』

「ギンは、ペットじゃない!!あたしの家族なんだから、絶対あげない」

『勝てばいいんだから・・・勝つ自信ないの?』

「それとこれとは」

『冗談・・冗談・・・あたしは勝負したいだけだから、正直なんでもいいんだ・・・

 時間ももったいないし・・・レインボーリボンで手を打つよ』

「それなら・・・」

『商談成立・・・ってことでいいのかな?』

「一応、ルールを確認したいんだけど」

『さっきも、言ったとおり、ミリーちゃんが、あたしの機体に弾を当てることができれば、ミリーちゃんの勝ち

 あたしが、あの(ズィー)カーに、弾を当てることができたら、あたしの勝ち・・・わかりやすいっしょ

それと、こっちの二人・・・シラネと、アカギって言うんだけど、とりあえず、カメラマンだから・・・下手な戦い方したら、ネットに流すからね』

「あたしと、直接じゃないってこと?」

『この距離で、スナイパーとファイターじゃ勝負にならないよ』


「イチロウ・・・なんか、おかしな話になってきたけど・・・」

 ミユイが心配そうにイチロウの顔を覗き込んだが、その眼に映ったイチロウの顔は、なぜか生き生きとした表情に見えた。

「もしかして、楽しんでる?」

「そう見えるか?・・・時間ロスっちゃって申し訳ないけど、ミユイがナビに就いていてくれれば、あいつに勝てる気がするんだ」

「制御チップは、当然使わないんだよね」

「俺たち・・・撃ってもいいのかな?」

 イチロウが、手元のトリガーをカチカチと鳴らしながら、ミユイに笑いかける。

「聞いてみる?」

『ハルナって言ったっけ?俺たちの弾が、あんたに当たった時は、なんか貰えるのか?』

『え?

 そんなこと100パーありえないんだけど・・・その時は、その時考えるよ・・・可能性ゼロだから、心配しなくても大丈夫』

『撃ってもいいんだな』

『うん・・・いいよ、せいぜいニアピン賞でも狙ってね・・・500メートル以内に撃ち込むことができたら、ニアピン賞あげるよ』

『ありがとう』

 イチロウの右手がトリガーを押した。Zカスタムから発射されたペイント弾が、ハルナの機体に向かって光の尾を引いた。

「ハズレ・・・かな?」

 ミユイの問いかけには答えず、イチロウは、アクセルを限界まで踏み込んだ。

ペイント弾を追うように、Zカスタムが、ハルナの機体めがけて、襲い掛かる。

その機を見逃さず、ミリーが、コントローラのトリガーボタンを強く押し込む。

ミリーのコゼットからも、明るい光が放たれ、ハルナの機体付近で、二条の光線が交差した。

『だから、当たらないって・・・言ったのに』

 会話を楽しんでいた間は、浮遊航行(フリーフライト)を楽しんでいたハルナだが、ペイント弾の光跡を眼に捉えた瞬間に、ロケットエンジンと、ブースターエンジンの双方に点火する。

ブースターエンジンにより初速を与えられたハルナの機体は、光線の放たれた方向へ、一直線に飛ぶ・・・わずか数秒で、イチロウのZカスタムとすれ違う。

イチロウとミユイは、目視で、ショッキングピンクの機体のコックピットに納まっているハルナの表情を捉える。

「あの子・・・笑ってるね」

「いつまで、笑っていられるか」

 イチロウは、機体をすばやく反転させる。こういうストップアンドゴーの動きに関しては、エリナが整備したZカスタムは、特に悲鳴を上げることもなく、イチロウのイメージ通りの動きを見せてくれる。

「撃ち落したい?」

 ミユイが、短く尋ねる。

「操縦しながらのターゲットオン・・・ちょっと、今の俺にはキツイけど・・・でも、楽しい・・・

 うん、撃ち落したいな」

「手伝ってあげる」

 ミユイがにっこり笑う。

『エリナさん、聞こえてる?』

『もちろん、呆れて物が言えないだけだよ』

『操縦したいんだけど、Zカスタム(こっち)にも、コントローラって付けられるの?』

『後ろのトランクに、ミリーのコントローラがしまってあるはず・・・トリガー用だけど・・・』

『でも、操縦もできるよね』

 一旦、シートベルトを外して、ミユイが、後部トランクをがさごそとまさぐり、コントローラを取り出す。そのコントローラをZカスタムのオプション端子スロットに差し込む。

そのついでに、オーディオコンポの音源を、CDから、ビデオに切り替える。

CDから流れていたマリーメイヤ・セイラの歌声が、キリエの音声に切り替わり、エリナの姿がサイドモニターに映し出される。

「美女二人のほうが、モチベーション上がるよね。操縦は、わたしがやるから、イチロウは、照準合わせに集中して

 わたしの回避指示は、ここまで一回も間違っていなかったよね。安心していいよ」

 そう自分で言った言葉に、ミユイは、一瞬ドキリとした。

(あ・・・今、なんか、懐かしい感じが、すごく・・・した・・・デジャ・ヴかな)

 そして、手に握るステアリングが、自分の意思を無視し始めたことを、イチロウも実感した。

シートベルトを締め直し、シートに深く腰を納めたミユイが、コントローラのパッド操作で、Zカスタムの挙動を支配している。アクセルもブレーキも、ミユイの手さばきで、制御され、イチロウがイメージする回避運動を先取りする動きを見せてくれている。


(ズィー)カーの動きが変わった?)

 ハルナが、つぶやく。

 その相手の一瞬の逡巡を、やはりミリーは見逃さない。

 直撃コースを真っ直ぐに飛んでくるミリーが放ったペイント弾を、ハルナは、バルカンの一斉射撃で、霧散させる。

(今のは、撃ち落さなかったら食らっていた)

 唇を硬く噛んだハルナは、機体を加速させる。

(くっ・・・(ズィー)カーを見失うとは・・・・)

『ハルナ・・・上だ』

 随行機である赤い機体の女の声がハルナに届く。

『アカギ・・・黙ってて』

 言いつつ、ハルナは、上を見上げる。

Zカスタムからロックオンせずに連射された2発の弾が、ハルナの眼前に迫る。ハルナは、上方スラスターにエネルギーを与え、上方から迫るペイント弾2発を、エレベータ降下のように、高速のダッキングの動きでかわそうとする。

ペイント弾が、わずかな時間差で、機体の側面を通過したことを感じたハルナは、一息つくこともせず、急上昇して、Zカスタムを、もう一度視界に捉える。


(距離を取りたい・・・)

 言葉に出さないイチロウの言葉を感じ取ったように、ミユイは、巧みにコントローラを操作して、ハルナの視界から、Zカスタムを強引に引き離しにかかる。

2機の距離は、離れもせず、近づきもせずに、一定の距離を保って、元いた空域から、かなり遠い位置まで来てしまっている。

さすがに、超長距離射撃が得意のミリーでも、この位置では、ハルナの機体を捉える事は、ままならない。

『エリナ・・・あの二人に近づける?』

『近づけるけど、ミユイは、きっと戻ってくるよ』

『え?』

『ミユイは、あの子の癖を探ってる』

『癖?』

『今、信号が届いた・・・』

 エリナは、ルーパス号に、最大船速を与え、ミユイから届いた座標方向へと、高速で位置を変える。

離れていった時の速度を維持したまま、2機のミニ・クルーザーが、ルーパス号側面を横切る時・・・ミリーは、照準にピンクの機体を収めていた。カメラで流し撮りをするときのように横方向にスライドさせながら、ミリーが、その照準を緑色にロックオンさせる。

「さすが、エリナ・・・ビンゴだね!」

「あたしより、ミユイが凄い」

コゼットから放たれた一発の光が、完全なホーミングコントロールにより、ハルナの機体を追いかける。

ロックオンされた上で、ホーミング弾を撃たれたことに気づいたハルナは、ロケットエンジンの出力を限界まで上げた。

「すごいスピード・・・凄いね、あの子・・・でもね、あの動きも、充分想定内だよ」

ホーミング弾が、ハルナの機体を追いかけ始めたことを察知したミユイは、Zカスタムのスピードをわずかに緩める。

Zカスタムを追いかけていたハルナのピンクの機体だったが、このZカスタムのブレーキングにより、前後の位置が逆転する。

ロケットエンジンの最大出力でホーミング弾を振り切ったハルナの機体の背後を、Zカスタムは、しっかりと捉えた。

イチロウが、ステアリング左手の照準をハルナの機体に合わせる。

完全にロックオンしたことを確信して、イチロウが、トリガーを押す。1発、2発、3発・・・

今度は、イチロウの放つホーミング弾が3発連続で、ハルナの機体に襲い掛かる。

 再度、ロケットエンジンに点火し、加速を得るハルナの機体・・・が、そのハルナの眼前に、ルーパス号が現れた。

慌てて、操縦桿を操作し、ルーパス号との衝突コースを避けようとするハルナ。

僅かに緩んだスピード。ホーミング弾が着弾すると思われた、その瞬間、ハルナの機体背後のハッチが開かれ、ハッチから解き放たれた3匹の龍が、ホーミング弾を1発ずつ食いちぎっていた。

その3匹の龍は、着弾を阻止した瞬間に、消滅した。

『今のは、反則なんじゃないの?』

『聞こえないよ・・・これも、あたしのルージュ・マジックのひとつ・・・武器だからね』

 ミリーの余裕の問いかけにハルナが、応える。

「召喚龍を使うんだ・・・あの子」

「召喚龍?」

「ピンポイントバリアだよ

 熱源やエネルギー、そういった物に反応して撃退する迎撃武器」

「武器のひとつなら、反則とは言えないな

 このバトル・・・ちょっと長引きそうだ」

イチロウが、わくわく感いっぱいの表情でミユイを横目で見る。が、すぐに、次のポジションに移動したハルナのいる方向を眼で追う。

「エリナさんの映像を見せたのは逆効果だったかな・・・やる気(モチベーション)が上がった代わりに集中力(コンセントレーション)が落ちてる・・・

さっき・・・エリナさんの下着に気を取られてたよね」

「いや・・・そんなことは、断じてない」

「さぁ、反撃が来るみたいよ」

 ミユイの予告通り、Zカスタムに向けて、ハルナからの大量のペイント弾が降り注ぎだした。

「全部、かわせるから、次も狙いを外さないで・・・ピンポイントバリアにも弱点はあるんだよ」

 左右へ腰を振るドリフトに似た動きで、無数と思われる全ての弾を回避するミユイ。

「連続撃ちできる?」

「7発までなら」

「たぶん、搭載している召喚龍は5機だと思う・・・今の技術では、自動制御で撃ち落とすことができるのは5発が限界だから

 7発を正確に撃ち込めれば、2発着弾させられるよ」

手動(マニュアル)操作だとしたら・・・」

「召喚龍を手動で操るなんて、あたしじゃなきゃできないよ」

「ミユイはできるんだ」

「おかしい?」

「すごい自信だなって」

「自信じゃなくて・・・事実だから」

二人のやり取りの間も、ハルナから放たれるペイント弾の嵐が止むことはない。


 何度目かのトライ&ゴーで、ついにイチロウとミユイは、ハルナの機体の背後を取り、照準を確かめる。

「いけるよ」

「わかってる!!」

 ステアリングのクイック・リリースとクイック・タッチで、イチロウが、ロックオン操作とシューティング操作を7回繰り返す。

再度、ハルナの機体に襲い掛かった7発のペイント弾は、確実にピンクの機体に迫っていく。

その5発を、後部ハッチから飛び出した召喚龍が迎撃する・・・残る2つの弾が着弾したと確信した瞬間である。

カメラアイをピンクの機体にぴったりと合わせていた『トリプル・ルージュ』の一人・・・アカギの乗る赤い機体から超高速ビームが放たれ、その着弾を阻止する。

『アカギ・・・』

『ごめん、ハルナの泣く顔とか、観たくないんだ・・・映したくもなくってね』

 次の瞬間である・・・アカギに文句をつけようとしたハルナの膝の上に、何かが載った。

「はじめまして・・・」

 エリナが、テレポートスーツを着込み、ハルナの機体の中への侵入を果たしたのだ。

「やっと入り込めた」

 ヘルメット越しに、エリナがハルナに笑いかける。

「お楽しみのところ、ごめんね

 あたし・・・賞金稼ぎって好きになれないんだ」

「何を・・・」

『ミユイさん・・・制御チップを貼り付けたから、この()どっかに吹き飛ばしちゃっていいよ』

『エリナさん』

 ミユイは、コントローラをキーボードに持ち替え、イチロウにステアリング制御を引き渡すと、ハルナの機体への干渉を開始した。

10秒もかからずに、ハルナの機体は、ハルナの意思を無視する存在となる。

「悪く思ってもかまわないから・・・賞金稼ぎなんかに、わたしたちの邪魔はさせない」

 ニコリともせずに、そうきっぱりと言い放ったエリナは、また、テレポートスーツによるワープで、ルーパス号のブリッジに戻った。



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