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削られ、付着して

作者: ゆき味

これは結構昔のようで結構昔でもない話、そう、あれはだいたいまだ僕がランドセルを背負っていたころだ。今思えば何故あんなセンスの欠片もないようなものを平気で背負っていたのか理解に苦しい。それにファッションだって何も考えていなかった。毎日毎日これどこのメーカーですかって感じの何でもない柄のしたTシャツとボロボロの短パンをはいていた。その服たちは母さんが簡単お手軽安上がりで評判の、全商品が百円のお店で適当に買っていたものだと知ったのは、つい最近だったりする。

いくらファッションに感心がなかったとはいえ、そりゃないよ・・・母さん



ああ、あとあのころは髪型だって全然考えてなかった。いや、気にしてさえいなかったのだ。今は毎朝ワックスを使って固めたり、ヘアアイロンを使って寝癖を直したりと面倒くさいことこの上ないのに、あのころはろくに手入れもしていないのにキラキラと輝きを放ち、しかも癖毛ってなんですかって感じの真っ直ぐに伸びていた。

まるで、素直だったあのころを写し取ったかのように




どれもこれも、あれもそれも、みんな変わってしまった。

あの時の僕のまん丸でキラキラと輝いていた心は、人生と言う名の一本道を歩いていくうちに、ゆっくりと、しかし確実に、いろんなモノに削られたり、いろんなモノが付着して、気づいたらとても複雑な形になってしまっていた。

髪型を気にするようになった。

ファッションを気にするようになった。

素直を失くした代わりに、言い訳を得た。

勇気を失くした代わりに、羞恥心を得た。

考えつくかぎりこんなものだろう、そしてこれらはこれからさらに人生を歩んでいくうちにもっと複雑な形になっていくのだろう。・・・と思う。


しかし、こんなものは今の僕にとってはとても小さなことだ。というよりどうでもいい、現在僕が抱えているモノをいつ爆発するかわからない時限爆弾にたとえるなら、その他は紙切れ同然だ。

はじめてこの気持ちに気づいたとき、胸の中に広がったのは驚きと言葉では言い表せない変てこな感覚だった。

そして知った。

知ってしまったんだ。


これが、恋、なんだなって。


やがて月日を重ねていくにつれて変てこな感覚はどうしようもないせつなさに変わっていった。胸がおかしいから、胸が苦しいに変わって、胸が苦しいから、胸が痛いに変わった。

でも彼女は僕のことなど、見てはいないだろう。

この恋は僕の一方通行、世間でいう片思いという奴だ。おまけに初恋だ。

初恋で片思い、このワードから連想される言葉は一つ・・・失恋



僕の思いが彼女に届くことはないだろう。いや届くはずもないのだ。

だって、最初から僕には告白する勇気などないのだから、してみようかとは少しは考えたが、生憎、僕は勇気をどこかで削り取られてしまっているのだ。

それに、片思いのほうが案外楽かもしらないぞ。と、いつのまにか得てしまった言い訳を、全力で使ったりしていた。


僕のこの恋はいつまで続くのだろうか。

1年だろうか、2年だろうか、それとも10年だったりして。

いや、そんなに月日がたってしまったら、僕はまた変わっていってしまうだろう。

いろんなモノを削られ、いろんなモノを付着させながら。




願わくば、彼女を好きなままでいられますように。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっとした話でも、その着眼点が良かったです。 おかげで他の話も読んでみたいと思わされました。 これからも頑張ってください。
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