第7話
あんたら、百合をなめてるんじゃないの?
こーんなにちっちゃくて、かわいくても、百合は喧嘩強いよ。
馬鹿にするんじゃないわよ。
「朝からなんですか!?いちいちめんどくさいことをしてっ。
本当に暇人ですね。千影様と百合の邪魔をしないでください!」
最後の方に変なキーワードを見つけたけど置いておいて。
百合は2人の紀乃川中の男を睨みつける。
結構迫力あるんだよね、こういうときの百合って。
「おい、何生意気なこと言ってんだよ」
「後で泣いても知らないからな」
さっきのケラケラ笑いをやめて、百合に殴りかかる。
2人で殴ろうなんて卑怯な奴だわ。
そんなの、百合のハンデにはならないけどね。
「その言葉、そっくりお返しします!」
百合は軽く体を右に傾け、相手の拳をよける。
クリーム色で、かたにつくかどうかぐらいの髪がさらっと揺れる。
こんなときでもかわいいね、百合は。
百合が鉄拳を顔面にたたきこむ。
2人はその場に崩れ落ちる。
馬鹿だなー。
あんたらみたいなのが百合にかなうはずがないじゃん。
「こりたら学校にさっさと戻ってください」
敵にまでその敬語を止めることはない。
でも、そんな丁寧な言葉づかいが怖い。
恐怖心をあおる。
「ひ、ひぃぃ!」
2人は転がるように逃げて行った。
あ、本当に転んだ。
相当焦ってるわね。
「千影様!」
百合があたしのところまで戻ってくる。
「あたしの命令ぐらい守りなさい」
「すみません。あんな奴ら、百合で充分だと思ったので……」
しゅんとなる。
そんな顔されたら、許してしまいたくなる。
いつもいつもそう。
あたし、この顔に弱いのよ。
「いいわよ。そんなに気にする必要ないわ」
あたしはあの2人にからまれてた男の人に向って手を差し出した。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
その人は、スーツを着ていて、会社員かなんかだと思う。
ひょろっとしていて、ふちなしの眼鏡をかけている。
「君、名前は?」
「聞くときはそっちから名乗りなさいよ」
失礼ね。
マナーぐらい守りなさい。
「私は渡辺幸助」
「あたしは千影」
男の人が?マークを頭に浮かべている。
当たり前よね。
千影、としか名乗ってないんだもん。
ふつうは楠木日向っていわないといけないんだけど。
でも、あたしは千影。
「あたしは千影」
もう一度言う。
この名前を渡辺っていう男の頭に刻み込むように。