第37話
カンカンっ。
広すぎる玄関に響くブーツの音。
夕日が神々しくきらめく夕方。
これでもかってぐらい綺麗な薔薇。
ついに来た日曜日。それも夕方の5時。
百合の指定時間。
あたしは支度を終えて、玄関でブーツをはくのに
悪戦苦闘。だって、きれいすぎてもったいない!
スニーカーで十分なのに……。
おしゃれで高そうなブーツをはいていると、いつもどおりに
メイド服を着たありすに話しかけられた。
どんな時でもかわいいな、ありすは。
そのふわふわの髪が特に。
同じくふわふわしたピンク色のシュシュでまとめられた
ツインテール。
にしても、本当にありすは髪が長い。
ありさも。髪が長いのって流行ってるの?
「ちょっと友人に会いにね~。あぁ、きちんと渡辺さんの
許可はとってるからね。心配しないで」
「御主人さまに許可を取られているなら大丈夫ですね。
でも、徒歩ですか?お車を出してもらえばいいのでは?」
「いいのいいの。自分で歩くからさ。じゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ。お嬢様」
あたしは豪華な扉を開けて家を出る。
ちなみに今日のファッションは制服。
川中のね。
だって豪華な服着て川中には入れないでしょ。
私服で一番おとなしそうなの探したんだけど、
後で後悔した……。どれもこれもあたしには似合わない……。
部屋にある大きいクローゼットを漁っても全部フリフリのワンピース!
しかもこれまた高そうな!
これからあたしはこんな服しか着れないのか……。
絶対絶対あたしには似合わないって!
嫌がらせだよ、これ!
あたしに似合うのなんてせいぜいジャージだよ!
「フンフンフン♪」
暇だから、流行りのアイドルの歌を口ずさんでみる。
うーん、ビビッと来ないなぁ。
今度は学校で練習してる、今度の歌のテストの課題曲。
あ、また練習しなきゃ!一ヶ月後にテストだ!
忘れてた……。大恥かくところだったよ。
セーフ!
「あー疲れた」
ようやく辿り着いた川中の校門。
ここまでの道のりは果てしなかった……。
やっぱり近くまで送ってもらえばよかったかな。
さすがにこの距離は遠すぎだ。
ギギギ……。
校門とは思えないほどの軋む音。
ダメだこりゃ。校長センセーイ!校門を修理してくださーい!
「お邪魔しまーす……」
つい最近まで通ってた学校なのに、なんだか初めて来たときみたい。
緊張する……!
落ち着け、日向!
あたしはやればできる子だ!
「あれー?」
音楽室前にきて異変に気づく。
ていうか、何で今まで気付かなかったんだ?
おかしいな。
誰も通りかからない。
この時間帯なら不良軍団がここら辺でバカ騒ぎやってるのに。
今日は誰もいない。
やめたのか?あのバカ騒ぎ。
いあやいや、あいつらがそう簡単にやめるわけは……。
ま、いいか。
とにかく、音楽室に入ろう。
ひとまず入ろう。
でも、足が動かないよ。
なんでだろう。足が……。
手が震えてる。
ドアノブをつかもうとした手が小さく震えている。
ほら、行かなきゃ。
もう、逃げたりなんかしない。
ほら、日向!
ほら、あたし!
行かなきゃ。
今行かなくていつ行くの!
ガチャ……。
あたしは手をかけたドアノブを静かに回して。
ドアを開けた。