第31話
トントントン
不意に校長室の扉がノックされた。
佳彦さんの言う生徒会長が来たのかな?
さーてさて。どんな子かな~?
「失礼します」
扉越しに稟とした声が聞こえる。とってもきれいな声だ。
高くて通りやすい声。でも、低くて安定した声。
不思議な声。
「どうぞ。待っていたよ」
佳彦さんがやっぱりにこにこしながら言うと、扉が開いた。
バタン。
扉が閉まる。生徒会長が扉を閉めたから。
「生徒会長」は、あたしが予想していたのとははるかに違った。
全く違った。毛ほども似てなかった。
「はじめまして、渡辺さん」
その、生徒会長は、長い黒髪をツインテールにしていた。
腰まである、とにかく長い髪。ありすとは違い、ストレート。
まっすぐで、だけど、やわらかそうな髪。
つり目で気の強そうな目。茶色っぽい瞳
赤くて血色のいい唇。
……欠点がないほどに整っていた。
そう、彼女には欠点という文字が見つからなかった。
そもそも彼女はその言葉を知っているのかどうかも分からないくらい。
それほど、整っていた。彼女は。
「どうしたの?ずーっと私のこと見て。何かついてる?」
「いえ。はじめまして。お名前をお伺いしていませんでしたわ。
教えてもらえますか?」
「森本毬よ。よろしく」
「ええ、よろしくね。森本さん」
森本さんを見ているとドキドキする。
いや、あたしは断じて変態ではないよ。レズじゃないよ。
だけど、こんなにもこの人が近くにいると、緊張する。
こんな綺麗でかわいい人、見たことがない。
……世界は広いんだね。
「お取り込中悪いんだけど、学校案内してあげてくれないかな」
言いづらそうにして割り込んだ佳彦さん。
あなたも不幸ですね。いろいろ苦労してる人だと思う。いろんな意味で。
「分りました。行きましょうか」
あたしを扉近くで手招きする森本さん。そんな姿までが綺麗。
とにかく綺麗。どうしてあたしとこんなにも違うのだろう。
謎だ。これは深すぎる謎だ。
部屋を出ると、やっぱり続く長い長い廊下。
突き当りが見当たらない。前後に伸びた廊下。迷子になったら笑いものだ。
用心してかからなければ。
「ねぇ、渡辺さん」
「何かしら?」
2人きりでもお嬢様言葉を忘れてはいけない。
油断は禁物だ。
「私、渡辺さんが元不良だって知ってるから」
「は?」
いや、ちょっと待て。今この美人生徒会長なんて言った?
あたしの聞き間違いだよね。そうだよね。この人の口から元不良なんて
キーワードは飛び出していないもんね。そうだよね。
「だから、私、元不良だって知ってるから安心して」
「安心できる要素が見つかりません」
チョイ待て!ちょっと待て!ジャスタミニッツ!
ホント勘弁して!どういうこと?今確実に元不良って言ったよね!?
知ってるって言ってたよね!?どういうこと?マジでどういうこと?!
「私、校長先生に全部聞かされてるから。だから大丈夫よ。
私の前ならボロ出しても平気よ」
「いや、全然平気じゃないし!むしろ弱み握られてる感じだし!
やめてよ、本気でやめてよ。何でいきなりこういうストーリーなわけ?!」
ほんと無理だ。マジで無理だ。
終わった。あたしのお嬢生活。
1時間で終わりました、渡辺さん。
ごめんなさい、ありす&ありさ。
すんませんでしたーーー!!