第30話
「お邪魔いたします」
もう一度、斜め45度のお辞儀。こんどは向こうに座っている校長先生へ。
「こちらへどうぞ」
優しい声が聞こえてくる。
今までは固かった体。それがほどけていくくらいに優しい声。
「はい」
あたしは校長先生の座っている机のそばまで歩いて行った。
ん?
ちょっと、待て。
あれーおかしいな?
この顔どっかで見たことあるんだよなぁ。
昔、どっかで……。会った気が……。
この学校を束ねる校長先生は優しそうなオジさん。
中年って言った方がかっこいいかな?
たぶん50歳くらいだと思う。
この人の特徴としてあげられるのはとにかく優しそう!
まだふさふさの黒い髪に黒い瞳。にこにこしている校長先生はまるで菩薩。
こっちまでにこにこしちゃう。
そうじゃなくて。
本当にどっかで会った気が……
「すみません。わたくしと以前お会いしたことはございませんか?」
一応聞いてみる。
うん。この人さっきからずっと笑ってる。
すっごくにこにこしてる。このままいてたらニコちゃんになるんじゃないかってくらい
ニコニコしてる。ていうか、もはやニコちゃんだ。ここの校長はニコちゃんだ。
「ありますよ。あのときはひなちゃんとよんでいたかな」
ひなちゃん。あたしのあだ名を知っている人は限られている。
あたしをひなちゃんと呼ぶ人。幸弘叔父さん以外に誰かいたような……。
いたよ。いたよ、確か……。えーと……。
あーーーーーーー!
思い出した!
思い出した!
あれ、2回言っちゃった!
まぁいいや。思い出したー!
「もしかして、佳彦さんですか……?」
佳彦さん。あたしの遠い遠い親戚。
あたしが小さい頃によく会っていた。遊んでもらっていたのをよく覚えている。
最後にあったのはいつかな……。
小3くらいかな?
だから、すっかり忘れていた。
確か、どっかの校長をやっているって聞いてたけど……。
まさか、ここだったなんて!!
知らなかった……。
遠い親戚なだけあって、そういう詳しいことは知らなかったから無理はないんだけど……。
「久しぶりだね、ひなちゃん。大きくなって。昔からかわいかったけど
さらにかわいくなったねぇ」
「かわいいだなんて。照れちゃ言いますよー。お世辞はよしてください」
なぜか「かわいい」に敏感に反応したあたし。
そこっ?!とか突っ込みが入りそうだけど、入らない。
「お世辞ではありませんよー。まぁ、いったん置いておいて。
私はひなちゃんの素を知ってるから大丈夫ですよ」
そりゃそうでしょうね。
とにかく、こういう人がいてくれてよかった。
あたしの味方にもなってくれそうだし。
いろいろ助かった。
なんせ、友達もいないしねー。心強い。
「もっとゆっくり話したいんだけれど、あとは生徒会長に頼むよ。
ひなちゃんと同じクラスだから、いろいろ頼ってもいいよ。」
「うん、ありがとう!あたし、どうしたらいい?」
これからあたしどこへ行ったらいいの?
さっきからいろんな所を行ったり来たり。
ほんとうにこの学校は広い。
「もうすぐその生徒会長が来るから。その子についていけばいいよ」
生徒会長か。どんな子だろう。ガリ勉だったりして。丸底メガネかけた。
あ、それありえる。おおいにありえる。笑っちゃだめだ。
たとえ眼鏡が丸底だったとしても。あたしは完璧を保たないと!
……あ、やっぱ無理かも。笑っちゃう。絶対笑っちゃう。