第29話
あぁ、着いてしまった。
到着してしまった。
あたしの学校に。
「絶対に完璧を保ってくださいね?」
「……同じく」
車に乗ってるありすとありさがあたしに一言。
ねぇ、もうちょい気のいい言葉をかけてくれない?
あたしさ、めちゃくちゃ緊張してるしさ。
そもそもこの学校に行きたくないんだけど。
なのにさ、完ぺきを保てって。
2人ともひどい。
鬼だ。この2人は鬼なんだ。
きっと、あの世から派遣されてきた鬼なんだ。
だからこんなに残酷なんだ。
いやー、なんか2人の秘密を暴いちゃったんですけど。
ていうか、こんなお嬢様学校を前に、こんなことしてるあたしがいるんですけど。
朝から、でっかい車に乗って。
すてきな高級住宅街を通って。
今、あたしは桜ヶ丘女子中学校にいる。
おかしくない?
ただの女子中学生が車で通学って。
絶対おかしいでしょ。
「では、お嬢様。行ってらっしゃいませ」
車から出たあたしをお辞儀して見送る2人。
長い長い一日がスタートした。
そこはもうお城だった。
こ、これ学校?!
どっかのお城じゃなくて?
学校なの?!
近づいて学校を見てみたあたしの感想だ。
とにかくでかかった。
とにかく派手だった。
クリーム色の上品な壁。
豪華な校門。
そこを通るお嬢様たち。
とにかく、ここはあたしのいていい場所じゃない。
……冗談抜きで。
ここは、あたしみたいな不良がいていい場所じゃない。
あたしがここにいるのはきっと何かの間違えだ。
そんな間違いが降り積もって今に至るのだけれど。
全てが間違いなのだろうけど。
間違いは、貫き通せば正解だから。
どっちが本当なのかわかったもんじゃない。
「はーい、日向。息を吸ってー」
あたしは道路の隅でばれないように深呼吸。
ばれたら全部の終わりだからな~。
渡辺さんの名前がかかってる。
あたしの、あたしの家の名前がかかってる。
だから、失敗は許されない。
もう、甘いことは言ってられない。
そういう世界に飛び込んじゃったから。
あたしは意を決して校門へと向かった。
背筋を伸ばして、笑みをたたえて。
あたしは堂々と校門をくぐった。
「ねぇ、あのお方、渡辺様じゃないかしら?」
「そういえば転校してくると先生方がおっしゃっていましたものね」
「きれいですわねー。さすが渡辺家」
近くでこそこそと会話するお嬢様方。
もろに聞こえてるんですけど。
見たか!あたしのお嬢様っぷりを!!
そう自慢するようにそのまま校舎へ突入。
案内板で職員室を確認して、そこへ向かう。
「見て、渡辺様よ!だってほら、職員室をご覧になっていらっしゃいますもの」
「そうね、きっと渡辺様よ!お近づきになれないかしらー?」
どんどんこそこそ話の声の大きさがエスカレート。
職員室の前まで来たときには大勢の人が集まってきた。
だれよ!こんな軍隊みたいなのを連れてきたのは!
……あたしか。
「すみません。職員室はこちらであっていますか?」
あたしは近くにいた人に確認してみる。
だって、だって!こんなに煌びやかな職員室見たことないんだもん!
職員室ってもっと質素なものじゃないの?
ていうか、絶対そうだろ!
「は、はい。こちらであっていますわ」
なぜか赤くなる女の子?
なんでだろ?暑いのかな?
名札を見ると1年生。
中1ってことかぁ。
あたしと大違いねー。あたしが中1の時はもっと子供っぽかったのに。
全然子供じゃない。
大人の目だった。
「先生、失礼いたします」
マスターしたお嬢様言葉で職員室の中へ。
バタンと扉を開く。
先生どこー?
すごく広いんですけど。
職員室がとてつもなく広いんですけど。
「あぁ、あなたが渡辺さんね。さぁ、こちらへ」
あらわれたのはメガネをした女の先生。
結構若いんじゃない?赤い服とひざ丈の黒いスカートが似合ってる。
あたしの背中を押して職員室を出る。
次はどこへ行くの?お嬢様の視線が痛いんですけど。
なんかみんなガン見してくるんですよ、先生。
「ここが校長室よ。覚えておいてね。中へどうぞ」
またまた豪華な入口。
先生が職員室以上に派手な扉を開けた。
あたしを促す。え?こっからはついてきてくれないの?
「どうもありがとうございます」
斜め45度のお辞儀をピシッと決める。
我ながらいい感じ!
「校長先生が待っていらっしゃるわ」
あたしは校長室へ足を踏み入れた。