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第27話

プルルルル……。


「はい、もしもし」



さっきとは違い、相手はすぐに電話に出た。


どうせなら、もっとぎりぎりでもよかったのに。

もし、出なかったら、かけずに済む言い訳ができるから。


ただの、言い訳。

自分自身へのごまかし。


いけないことだってわかってるけど……。

どうしても、逃げたくなる。


だって、いま、彼女が返事をしたのだから。

あたしの、一番の悩みの種で、一番の親友が。



「渡辺ですが」



わざと、名字だけ言ってみせる。

何でそんなこと言ったんだろう。

日向だって言えばよかったのに。


だけど、できなくて。


これが今のあたしだって見せつけるかのように。


あたしは冷静に受話器越しの百合へ伝える。




「渡辺?……その声、もしかして千影様ですか?!そうなんですか?!」



気づいた。

声だけであたしって気付いた。


嬉しいよ。

あたしのこと、見抜いてくれた。

やっぱりだてに1年過ごしていたわけじゃないんだね。


でも、それはあたしを緊張させるには十分すぎるほどだった。




「……そうよ」


「千影様!百合を置いてどこへいってしまったんですか!!

百合は心配で心配で夜も眠れなかったんですよ!?どうしたんですか?!

どこにいてるんですか?!何をしてるんですか!?教えてください!千影様!!」



とてつもなく大きな声があたしの頭に響いてきた。




「ちょっと、百合。いったん落ち付い……」


「落ち付いてられませんよ!百合、本当に心配したんですよ?!

ずっと千影様のことを考えていたんですよ?!千影様、何があったんですか?!」




百合の声は止まらない。

あたしの声が聞こえないくらいにまくしたてる。



そんなに言われたって、何から言っていいか分からないよ。

あたしだって何が何だか分からないんだから。


むしろ、あたしに説明してほしいくらいだよ。



あたしの何もかもが変わってしまったんだから。

実際、この生活についていけないんだから。


それでも、世界は待ってくれないんだから。



「あのね。説明するから。説明するからすこーし声のボリューム落として」



耳が痛くなっちゃうわよ。

キンキンする。



「話すと長いから、今度説明する」


「……今度っていつですか?」


「来週の月曜日」



月夜にも伝えといた。

だから、百合にも。



「来るんですか?川中に」


「うん。転校したってのは本当だから、学校は変わったけど。

放課後に遊びに行く許可を取れたんだ」



きちんとその時、何もかも話すから。

だから、今は聞かないで。

話すからさ。


あたしにも、頭の中で整理がついてない。

だから、時間がほしいの。



「わかりました、では、5時に来てください。

ほかの人には百合から話をつけておきますから。絶対に来てくださいね」



念を押す百合。


わかってるって。

もう、逃げたりしない。

百合を置いていきはしない。



「了解。それから……」


「なんですか?」





「ありがとね、百合」




月夜の時とは逆に、あたしから電話を切った。



あたしがあの時本当に伝えなきゃいけなかった言葉を残して。




ごめん、じゃ伝わらないこともある。

ありがとうでしか伝わらないこともある。



だから、百合。ありがとう。








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