第26話
……そういえば。
確か初めて会った時もあたしのこと怒鳴りつけたわよね。
月夜ってたまにとてつもない行動に走る。
だって、あんなに憶病な月夜が不良のトップを怒鳴りつけるんだもの。
次は受話器越しに大馬鹿野郎扱い。
……大馬鹿野郎か。
確かにそうかもしれない。
あたしは大馬鹿野郎だ。
月夜にそう言われたってしょうがない。しょうがない。
だって、そう言われることをしたんだもん。責められるのは当たり前。
あたしが、あたしが悪いから。全部あたしが悪いんだから。
「私、私、もうどうしたらいいのかわかりませんっ!
急に、千影さんがいなくなるから……。私、どうしたらいいのか……」
月夜の声が涙声に変わってる。
ああ、また泣かせてしまった。
百合の次は月夜。ホント、あたしって何なんだろうね。
あたしの周りの人はみんな不幸になっていく。
あたしばっかり幸せで。みんなみんな不幸になっていく。
あたしが、月夜を泣かせてしまった。
あたしのせいで、月夜は泣いている。
泣きたいのはあたしのほうよ。
あたしだってどうしたらいいかわかんないよ。
ただ、自分が一番いいと思ってきた道を言っているだけなんだから。
たとえ、それが正しい道ではなかったとしても。
あたしは自分を信じてここまで来たんだから。
だから、たくさんのことを間違えた。
たくさんの人を傷つけた。
たくさんの取り返しのつかないことをしてきた。
あたしの通った道は泥だらけ。
「月夜、落ち着いて。月夜」
とにかく、泣きやんで。
このままじゃ駄目だ。まともに話ができないよ。
だから、泣きやんでよ。月夜。
「あたしね、まぁ、話すととてつもなく長いから今度言うけど、川中に行けることになったんだ」
「も、戻ってくるんですか?!」
月夜の希望に満ちた声。輝いている。
月夜の声が、その名の通り、月夜のように輝いている。
「あー、戻るのは無理なんだ。いろいろあってさ。でも、放課後遊びに行く許可は取ったの」
「はい!それだけで十分です!また、来てくれるんですよね!?」
「うん。来週の月曜日に行く」
今日は月曜日だから……。ちょうど1週間か。丁度いいわ。きりもいいし。
そんなに喜んでくれるなら、明日にだって飛んでいくよ。
だけど、無理だ。今、あたしは大きな問題を抱えているから。
「……百合姉には言ったんですか?」
そう。それだ。
あたしの抱えている大問題。百合のこと。
あんなこと言っておいて今更、「帰ってきましたー!」なんて言えない。
そんなこと、言えない。あたし、さんざん百合のこと傷つけた。
本当に、どうしようか。
「百合姉、すごく悲しんでましたよ。千影さんがいなくなって、とっても悲しんでましたよ」
そうか。悲しんでいる、か。
それは、あたしがひどいこと言ったからだ。
あたしが百合を突き放したからだ。あたしが百合を捨ててしまったからだ。
あたしが。全部あたしが。
「……あたしのこと、嫌いになっちゃったかな?」
一番の心配。
百合は、こんなあたしのこと、嫌いになっちゃったんじゃないかな?
怖かった。あたし、百合に嫌われるのが怖かった。
だから、直接百合に電話できなかった。月夜に伝えてもらおうと思った。
でも、無理っぽいね。自分で伝えろってか?
「そんなことありませんよ!百合姉が千影さんを嫌いになるなんてありえません!
だって、3度の飯より千影様って言っていましたから!」
3度の飯より……?
いやいや、ご飯のほうがいいだろ。
あたしなんかよりご飯のほうがよっぽどいいだろう。
「だから、自分で電話してあげてください。きっと、喜んでくれますから」
喜んでくれるのかな?あたしとの再会を喜んでくれるのかな?
わからない。わからないけど。
「ありがとう。頑張ってみるわ」
月夜に言われるとできる気がする。大丈夫な気がする。
頑張ってみようか。
「私も、千影さんが大好きですから」
電話は切れてしまった。
月夜の一言を残して。
大好き、かぁ。