第23話
「今何時ですか?」
隣にいる渡辺さんに尋ねる。何でか知らないけど、ものすごく気になった。
「14時ちょうどだよ……。あ!」
な、何だ!?いきなり叫ぶからびっくりしたよ。心臓に悪いな~。
「私はそろそろ仕事をしないと……。すまないけど日向ちゃんを頼むよ」
渡辺さんは急にあわてだして部屋を飛び出して行った。
めちゃくちゃ速かった。マッハだった。嵐みたいな人だよ。
……。
あれ。
ちょっと待て。
……あたし、取り残されちゃった?
誰かも知らない人2人の部屋に取り残されちゃったって?
おーい!やめろー!気まずいだろー!どうやってこの状況を打破しろって?!
ドラクエのラスボスなみに難しいわ!あれ、何でドラクエ?
「あああ、あの」
「面白い人ですねー。そうだ!自己紹介とかしませんか?」
テンパッてるあたしを普通に受け流したあんたが面白いよ。
勝手にどんどん話を進めるフふわふわツインテールの女の子。
別にいいけどさ!むしろあたしなんかほっといてどんどんいってほしいんだけどさ!
自己紹介!これならこの気まずーい空気を何とかできる!
「はいはい。やりましょやりましょう」
なぜか2回繰り返すあたし。もー!
「じゃあ、私からしますねー。まずは名前ですね」
そこら辺にあった高級椅子の上に立つふわふわ(以下省略!)の女の子。
高級そうな椅子の上に立つだなんて!何者だ?!
そもそもどうして高級な椅子がそこら辺にあるの?おかしくない?
「わたし、日比野ありすって言います。次、ありさね」
ふわふわ(以下省略!)の女の子の名前はありすっていうんだ。変わった名前だけどかわいいね。
はやくはやくと中華風お団子の女の子を椅子の上に立たせるありす。
ていうか、もう名前言っちゃってますよ。
「……日比野ありさ」
あった時から思ってたんだけど、ありさは無口なんだね。
だって、声も小さめだし、ありすみたいに元気少女って感じじゃないし。
「ねぇ、もしかして双子?顔も名前も似てるし。おまけに名字一緒だし」
考えたことはすぐに口に出す。あたしの性格上そうしかできない。
秘密は守るけどねー。本当に?って疑われるけど。
「はい、そうです」
にっこりと笑うありす。さっきからすごくにこにこしてる。
嬉しいことでもあったのかな?
反対にありさは笑ってない。まぁったく笑ってない。
無口な面でもそうだけど、おとなしいのかも。あたしと正反対だ。
「次はあたしだね」
あたしは自分を指差す。2人ともやったんだから必然的にあたしの番。
高級椅子には立てない……。なにか代用品を……。
お、いいの見つけた。
「お、お嬢様!危ないです!」
あたしがその代用品に立ったら、ありすはすごい剣幕で降ろしにかかった。
えー、いいと思ったんだけどなぁ。
「段ボールの上になんて立たないでください!危ないです!」
あたしの見つけた代用品とは段ボールだ。ありすに却下されたけど。
ありさ、後ろの方でぼそっと一言。
「……面白い人」
あぁ、ありさにも面白い人発言されちゃいました。
ありさに言われると否定できない……。だってなんでもできちゃいそうだし。
勉強とか得意そう。あ、スポーツもできたりして。
「こんな高そうな椅子の上になんか立てないよ」
「なら床でいいですよ!」
二度と段ボールの上で自己紹介をしません、という変な約束をさせられた。
もうしないってば!そんな約束させられてたら身がもたないわよ!
「えーと、あたしは、くすの……、渡辺日向」
……あたしはもう楠木日向じゃなかったんだった。
あたしは渡辺日向。渡辺、だ。
「別にお嬢様なんて呼ばなくてもいいよ。2人とも歳は?」
「「14歳」」
2人できれいにハモッた。さすがは双子。息ぴったり。
「あたしも14歳。おんなじ歳なんだから敬語なんて必要ないよ」
あたし、はっきり言ってお嬢様なんてガラじゃないしね。
この2人のほうがお嬢様らしい。あたしがぴらぴらしたドレス似合うと思うか?!
そりゃぁ、似合ってたら嬉しいけどさ。おーほっほっほ、なんていてみたいけどさ!
無理でしょ。どう考えてもやっちゃいけないでしょ!
「敬語はやめることはできませんよ」
「……私たちは雇われの身」
でもさ。あたしはお嬢様なんかじゃないよ。
「日向お嬢様なんてどうですか?」
「……これなら大丈夫」
「はぁ。まぁいいわ。ごーかく」
お嬢様、よりはいいしね。親近感がわく。
「じゃ、自己紹介の続きやろー!」
知っておきたい。あたしの「専属の者」の2人について。
これから長い付き合いになるから。だから、いっぱい知っておきたい。
2人とは、主従関係なんかじゃなくて、友達として付き合いたいから。