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第20話

「百合、あんたが女王よ」


もう一度言う。


百合は固まっている。

ピクリとも動かない。

ほかの子も同じ。みーんな全然動かない。

そんなにびっくりしたんだ。


「そういうことだから。あたしは明日から学校来ないからね。

ちゃんと百合の言うこと聞くのよ。じゃ、さようなら」


早口でまくしたてるように言って、音楽室を出た。

ダメだ。ここにいちゃいけない気がする。さっきまで全然大丈夫だったのに。

なんだか、苦しい。すごく、苦しい。

何で?これでいいはずなのに。昨日練習したとおりに言えたのに。

なのに何で?わかんないよ。


早く、早くここから離れないと。

理由は分からない。だけど、早くいかなきゃ。

ここにいたらだめ。あたしの直感が告げている。

頭で警報が鳴っている。早く、早くいかなきゃ。

ここから遠ざからないと。

あたしの何かがおかしくなっちゃう。だから……。


「千影様!」


百合の声が遠くに聞こえた。追いかけてきたんだ。 

でもあたしは振り返らない。無視を決め込む。振り向いたらだめ。

帰らないと。あたしのいる場所はここにはないんだから。



「待ってください!千影様!」


待ってって言われて待つ奴なんていないわよ。

待つわけないじゃないのよ。あたし、ここにいたくない。


でも、足音は近づいてくる。どんどん、近づいてくる。

百合は走ってくる。猛スピードで近づいてくる。

逃げればよかった。あたしも走ればよかった。

だけど、それはとてもいけないことのように思えて。

立ち止まる。でも、振り向かない。前を見たまま立ち止まる。



「千影様!」


後ろからガバッと抱きつかれる。

ぎゅうっと強くあたしを押しつぶすかのように力を込める。

痛いよ。痛いよ、百合。

「千影様。嘘ですよね?あれは冗談ですよね!?」

大声であたしに問いかける。

答えぐらいわかってるくせに。もう一度言ってあげる。よーく、聞きなさい。

「嘘なわけないでしょ。あたしはこの街を出ていく。だから百合、さようなら」

一気に力が緩む。それでも百合は離さない。

「百合は信じません!千影様は嘘をついているんです!」

また腕に力が入る。だから、痛いってば。


「百合」


あたしは静かに百合の手を離し、今度はあたしが百合を抱きしめた。

暖かい。百合は暖かいね。あたしはこんなにも冷たい。心が冷たい。

いつも付いてきてくれたのに。なのに、こんなことしかしてあげられなかった。

あたし、バカだよね。百合の1年ちょっとを 無茶苦茶にした。

無茶苦茶になったのはあたしの人生だけじゃない。百合も同じ。

あたし、百合を傷つけた。あたしばっか、かわいそぶって。

世界一のバカだよね。


「あたしのこと、好き?」

「もちろんです!百合は千影様のこと、大好きです!」


すぐに返事をしてくれる。当り前のように言う百合。

こんな「当り前」を作ってしまったのはまぎれもなくあたし。

悪いのはあたし。百合は全然悪くない。だから、そんな悲しそうな顔しないで。

全部、あたしが悪いの。


「あたしのこと、好きでいてくれるなら。慕ってくれるなら。

……あたしのこと、追わないで」


自分でも信じられないくらい鋭い声を出していた。針のように尖った声。

触ると痛い、薔薇のとげのよう。


「百合があたしのためにできること。それはあたしを笑って見送ることよ」


酷なことぐらい、わかってる。でも、本当のことなの。

あたしが一番求めているのはそれなの。お願い、わかって。


「寂しくなったらあたしに電話をかければいい。あたし、出るから。

百合の話聞いてあげるから。……だからあたしを追わないで」


ほかのことなら何でもするから。できることなら何でもやるから。


「それに、あたしはもう「千影様」じゃない。日向よ」


その名前はあたしに必要ない。あたしが持つべき名じゃない。


「あたしからのプレゼント。あなたの名前は「雪姫ゆきひめ」。雪姫よ」


あたしにできるのはそれぐらい。あたしが名前をあげる。

受け取ってほしいの。あたしのわがままを聞いてほしい。


「もう1つ。月曜日、引き出しの中をのぞいてごらんなさい」


音楽準備室にある机の引出し。あそこには不良たち1人1人にあてた手紙がある。

昨日、こっそり入れておいた。女王のあなたなら、どこの引出しか分かるはずよ。

だから、見つけてみんなに渡してあげて。あたしの気持ちだから。


「もう、話すことは終わり。もう何にも残ってない。

最後に言っておきたいのは……」


一旦ことばを切る。あたしが伝えたいこと。

転校が決まってからずっと百合に伝えたかったこと。


「……ごめんね。こんなあたしを許して。本当にごめんね……」


百合の頬に涙が伝うのがちらりと見えた。

それを確認したあたしは、百合を力強く突き飛ばした。

よろける百合。あたしは走り出す。

最後の最後までごめん、百合。ごめん、ごめん、ごめん。

謝りたい。謝りたいこといっぱいある。

ごめんって何度言っても足りないぐらいある。


泣き崩れる百合。

あたしにはゆりを慰めることはできない。



ごめん、百合。

ありがとう、百合。


さようなら、百合。







なんだか今回だけすごく長くなってしまいました。

ごめんなさい!

今まで読んでくださった皆様!

改めて、お礼を申し上げます。

こんな葵ですが、頑張りますので応援してください。

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