第18話
「これ、どうぞ。髪止めのお返しです」
月夜は紙袋をあたしに差し出した。
あぁ、前にあたしがプレゼントしたやつか。
今日は付けてないけど、いつもつけてきてくれる。
「開けていい?」
月夜がうなずいたのを確認して、紙袋を開ける。
丁寧にシールをはがして中身を取り出す。
この感触は……。
「ハンカチ?」
予想通り。ハンカチだった。
紫色で、端には黒猫のシルエットの刺繡。
白いレースがついたかわいいハンカチ。
月夜らしい趣味……。
でも、すっごく嬉しい!
「ありがとう!月夜。大事にするわ」
「私も髪留め、大切に使っています」
月夜はにっこり笑う。
ホント、美人だな~。
うらやましすぎるんだけど。
百合も百合でめちゃくちゃかわいいし。
従姉妹って似るんだねぇ。
仲もいいみたいだし。
いいなぁ。
従姉妹って。
「そろそろ、音楽室へ行きましょうか」
「そうね」
百合は弁当箱を風呂敷で包み立ち上がった。
月夜もたって制服をただす。
「私は放課後行きますね」
百合とあたしは音楽室へ。
月夜は自分の教室へと向かった。
月夜もさすがに授業をさぼるのはいやらしい。
ま、不良ってわけじゃないしね。
そう考えるのも当り前か。
音楽しての中はやっぱり煙くさい。
換気ぐらいしなさいよ。
「あ、すんません」
あたしが窓を開けていると、原田が手伝ってくれた。
原田は気がきくし、いいやつだと思う。
「もうすぐかぁ」
あたしは窓から身を乗り出して呟く。
……もうすぐ、だ。
どうやって切り出そうか。
転校のこと。
それとも、言わずに行こうか。
何も言わずに行こうか。
次の日からドロン。
それもいいかもね。
言わなくてもいいんだし。
あたしにはそれが一番いいような気さえしてきていた。
そう、何も言わずに一人で行くの。
いいじゃない、それで。