第12話
「私、百合姉に嘘……ついてます」
百合姉って百合のことよね?
確か、月夜って百合の従妹なんでしょ?
事情も知ってるっぽい百合に嘘をつく必要なんてあるの?
「母は、借金で夜逃げしたんじゃないんです」
でも、百合はそう言ってた。
違うなら、何なの?
「母は父からの暴力で……。それに耐えられなくて
家から逃げたんです」
家庭内暴力ってこと?!
でも、お母さんがいなくなったってことは……。
「次は私でした。母の次は、私でした」
すっと制服の袖をまくった。
そこには痛々しい痣が。
「私、もう……」
月夜の頬に涙が伝う。
それは止まらない。
どんどんとあふれ出てくる。
プチッと何かが切れた。
ああ、堪忍袋の緒かな?
でも確かにプチッと聞こえた。
アニメや漫画みたいじゃない。
プチッだなんて。
あたしは、今かなり気分が悪い。
放っておけるわけないじゃない。
こんな月夜、放っておけないじゃない。
そんなバカでアホでクズな父親、放っておけるわけないじゃない。
「……あたしが」
「……?」
涙を流しながらもあたしの話に耳を傾ける。
次の言葉を待つ月夜。
「あたしが月夜を守る」
あたし、頭にきた。
あたしはそんなに賢くない。
ムカつくやつは殴り飛ばさないと気がすまない。
このままじゃ、月夜が壊れちゃう。
月夜は、もう駄目だ。
もう、我慢の限界まで来てる。
だから、あたしが殴ってやる。
月夜の気持ちをぶつけてやる!
「あ、りがと……ござい、ます……」
泣きじゃくりながらもお礼を言う。
「ほら」
あたしはポケットからハンカチを出して渡す。
このまま泣いているわけにもいかない。
「ありがとう、ございます」
涙を拭いた月夜はにっこりと笑った。
「それでいい」
あたしも笑い返す。
そうよ、月夜には涙より笑顔のほうが似合う。
とってもかわいいよ、月夜。