第7話 難しい距離感
「ルクスがまた、無自覚たらしっぷりを発揮したってところかな」
硬直する私を見て首を捻るシャロンさんに、ネイドさんが説明を入れる。
「ネイド、来てたのね」
「無自覚たらしって、俺はペンダントをつけてあげただけだよ」
ルクスさんが何のことだか分からないという表情をしている一方で、シャロンさんは呆れたように溜め息をつく。
「大方把握したわ。どうせ髪を撫でて似合ってるとでも言ったんでしょう」
「そうだけど……」
「そうやって相手に気を持たせて、トラブルに発展するのがいつものパターンなんだから、いい加減学習しなさい」
釘を刺すと言っていた通り、シャロンさんはぴしゃりと言った。
「昔からずっとこうだから無理だよ。それがルクスのいいところでもあるんだし」
ネイドさんはフォローを入れてくれるが、シャロンさんは「そうやって甘やかすからいけないんでしょ」と厳しい態度を崩さない。
「とにかく、恋仲にあるわけでもない女性に気安く触れないこと。スズに対してもね」
シャロンさんの視線を追って、ルクスさんもこちらを見る。
申し訳なさそうな表情で「ごめん。嫌だったよね……」と謝られて、むしろ私の方が申し訳ないくらいだ。
「嫌というわけではないんですけど、私が元いた国はあまりスキンシップをとらない文化なので、気持ち控えめにしてもらえると助かります……」
もごもご返事をしている横でシャロンさんが「ま、ルクスが本気で口説くつもりなら止めないわ」と付け加えたので、私は思わず「シャロンさん!」と叫ぶ。
ルクスさんは「そうしようかな」と冗談めかすことも、「本気になるわけないよ」と否定することもなく、ただ「そうだね」と苦笑した。
「これから買い出しに行くんでしょう? 衣類全般は私に任せて。サイズも測れたことだし、十分な量を見繕って送るわ」
「ありがとうございます」
私はシャロンさんに心からお礼を伝える。
化粧の途中で「下着を一緒に買いに行くのはちょっと……」と相談したところ、シャロンさんが生活に必要な衣服を一通り用意してくれることになったのだ。
それだけでなく、シャロンさんはコスメや石鹸、アクセサリーなど、女性向けの生活用品が手に入るお店をリストアップして渡してくれた。
これで、どのお店で何が手に入るのか、大体の目安がつくのでとても助かる。
「本当は私がついていってあげたかったけど、今日この後どうしても外せない来客予定があって。ごめんなさいね。何かあったらいつでも頼って」
「いえ、本当に十分です。ネイドさんもありがとうございました」
二人にお礼を言って、シャロンさんの店を出る。
ルクスさんは自然な流れでエスコートをしてくれようとしたのだろう。
店前の段差で手を差し伸べてから、慌ててひっこめた。
とても気を遣われている……!
なんとなく気まずい空気が二人の間を流れる。
「ひとまずシャロンが挙げてくれた店を回ろうか」
「はい、お願いします」
ぎこちない会話をして、絶妙な距離を保ちながら、私たちはここから一番近いブティックへと向かった。
◇◇◇
「スズ、この店はどう?」
ジュエリーショップを指さすルクスさんを見て、私はぶんぶんと首を横に振る。
「もう十分です。帰りましょう!」
ここへ来るまでに入った店で、必要最低限どころか、十分すぎるほどの買い物をしているからだ。
最初に回ったシャロンさんおすすめの店では、店員さんに勧められるがままあれこれ買ってしまったし、私の部屋に置く家具もいくつか新調してもらった。
ほとんど全て配達をお願いしたので手元にないが、一リット一円だとして、もう数十万――へたしたら百万円以上使っている気がする。
……働いて返そうと思っていたのに、完済できるのかな。
ルクスさんはお金を使うことに全く抵抗がないらしく、大きい買い物も即断即決してしまう。
コスメも、バッグも、放っておいたら右から左まで全部くださいと言い出しかねない雰囲気だった。
今ここでジュエリーショップに入るのは、非常に危険だ。
ルクスさんは「覗くだけ覗いてみよう」と提案するが、今までの実績からして何も買わずに出ることなんてないだろう。
どうしたものかと思っていたところ、タイミングよくお腹がぐぅと鳴る。
「そういえば、この世界に来てから何も食べてなかったっけ?」
「……はい。お腹が空いて倒れそうです」
恥を堪えて大袈裟に伝えると、優しいルクスさんは行き先を考え直してくれた。
「少し早いけど夕飯にしようか」




