第4話 コンラードの中心街
「ここがコンラードの中心街。この国では四番目に大きな街で、王都から南部に抜ける途中にあるから旅人も多い」
必要最低限の生活用品を揃えよう――ということで、私はルクスさんと街にやってきたのだが、到着する頃にはぐったりしていた。
「やっぱり乗馬、ダメだった?」
「初めてだったので、正直かなり怖かったです」
初めは密着具合にドキドキするなぁ、なんて呑気なことを考えていたが、いざ乗ると振り落とされないようにするので必死だった。
あれは私の知ってる乗馬じゃない……!
例えるなら、絶叫系のアトラクションだ。スピードが出るわ、崖を下るわ、とにかく散々だった。
ハンドルならぬ、手綱を握ると人が変わるというやつだろうか。
ルクスさんも馬もケロッとしているので、この世界ではあれが普通なのかもしれないが、何度乗っても慣れそうにない。
「帰りは気を付けるね」
「お願いします……」
私はルクスさんについて、よろよろ歩き始める。
「な……なんだかお洒落な街ですね」
街に入ってからも、私はショックを受けていた。
ルクスさんは「よくある普通の街だから緊張しなくていいよ」と言っていたが、想像していたよりも小綺麗でハイソな雰囲気だ。
派手なドレス姿で歩く人はいないにしても、若い女性は皆、髪を整え、可愛らしい町娘服で歩いている。
「私の姿、浮いてませんか?」
聞くまでもなく、確実に浮いている。珍獣でも見るかのような視線を向けられている。
なぜなら私は、コンビニ帰りのジャージ姿――しかもノーメイクだからだ。
服はルクスさんが魔法で乾かしてくれたらしいが、学生時代から使っているものなのでよれよれでみっともない。
そもそもこの世界の時代設定が中世から近世ヨーロッパのようなので、なおさらおかしく映るだろう。
「普通に可愛いよ」
普通に……可愛い……?
ルクスさんの言葉に目が点になる。
「確かにこの世界にはない感じの服だけど、幼く見えるスズには似合ってる」
なんだ、そういうこと。
危うくドキッとするところだった。
よれたジャージが似合ってる、幼く見えると言われて、喜んでいいのか悲しんでいいのか分からない。
分かるのは、ルクスさんに悪気がないということだけだ。
「贅沢を言える身でないことは重々承知していますが、できれば違和感のない服に着替えたいです」
そうはっきり伝えると、ルクスさんはハッとして、進行方向を変えて路地裏へと入る。
向かった先は、表通りから一本外れたところにある小さな店だった。
ドアを開けるとチリンチリンとベルが鳴り、中で縫い物をしていた女性が顔を上げる。
どうやら二人は顔見知りらしく、ルクスさんに気づいた途端、「いらっしゃいませ」と言いかけた女性の顔から営業スマイルが消えた。
「店に来るなんてどうしたの?」
「シャロン、この子に流行りの服を用意して。それと、髪も可愛くしてあげてほしい」
「あら、かわいらしいお嬢さん。不思議な格好をしているわね」
シャロンと呼ばれたショートヘアーの女性は、物珍しげに私を見る。
赤みがかった髪に、はっきりとした目鼻立ちをしたスタイル抜群の大人美女だ。
胸元が大きく空いた服を着ていて、女の私でもドキッとしてしまう。
「遠い国から来たんだ。スズ、こちらはシャロン。孤児院で一緒だった女性だよ。彼女はここで仕立て屋を営んでるんだ」
「はじめまして、竹山鈴子といいます。スズと呼んでください」
慌てて頭を下げた私に、シャロンさんは「来たばかりでグラスティアの言葉が喋れるなんて、すごいわねぇ」と微笑みかけてくれる。
「貴方が人を連れてくるなんて珍しいわね」
「偶然助けて行く当てがないというから、部屋を貸すことにしたんだ」
「ふぅん。それはいいけど、ちゃんと面倒見れるの?」
ん? と思う。
ルクスさんも違和感に気づいたらしく、しばらく瞬きをしてから言葉を返した。
「ああ見えてスズは成人してるし、僕たちより年上だよ。店を手伝ってもらう予定」
「あら、やだ。私ったら、十二、三歳くらいの子かと思ったわ」
十二、三という数字を聞いて、ひっくり返りそうになる。
日本人は童顔に見えると言うけど、そこまで幼く思われることなんてある?
もしかして、転生とともに若返ったのかと思ったが、お店の鏡に映る自分は『いつもの冴えないアラサー』だ。
「えー、竹山さんって独身なんですかぁ」
「そりゃ、あの見た目でしょ。彼氏もいないって」
「所帯じみてるから逆に既婚者かと思ってました」
なんて、会社の後輩たちに陰で笑われていた嫌な記憶まで蘇ってくる。
「スズ、大丈夫だよね?」
「は、はい!」
完全に話を聞いていなかった。
「じゃあシャロン、よろしくね。僕はネイドのところに顔を出してくるよ」
適当に返事をしたせいで、ルクスさんは私を置いて出ていってしまう。
ど、どうしよう。初対面の大人美人と二人きり……。
緊張しながらシャロンさんを見ると、彼女は妖艶な笑みを浮かべて言った。
「さて、私たちは二階に上がりましょう。二人がどういう関係なのか、色々話を聞いてみたいわ」
さあっと血の気が引く。
ルクスさん、もしかしてこの方と恋仲で、勘違いによる修羅場になったりしないですよね……?




