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騎士様とハーブの箱庭  作者: 藤乃 早雪
第二章 仲直りのダズンローズ
13/40

第13話 いつもとは違う一面

「この前と雰囲気が違ったので、確証が持てなくて。失礼しました」


 びっくりした。

 雰囲気が違うどころか、全くの別人だ。


 もっさりと顔を覆っていた髪はさっぱり整えられ、服も着古した作業着から小綺麗なジャケットになっていて、麗しすぎて近寄りがたい。


 ルクスさんもイケメンだけど、ネイドさんには独特のオーラというか、鋭さがあって、彫刻? モデルさん? みたいな感じだ。


 同族のように思って安心していた自分が恥ずかしい。


「工房に引きこもってる時は、大体あんな感じだね。今回は王都に行くのにそれはないって、シャロンに怒られてさ」


 ネイドさんは見た目への頓着がないらしく、「姿形なんて、別にどうでもいいのにね」と呆れたように言う。


 周囲の目に流されず自分を貫くところが、私にはかっこよく思えた。


 以前会った時は気づかなかったけれど、ネイドさんはスラっとしていてスタイルもいい。

 八頭身だぁ……と見惚れていた私は、ルクスさんに名前を呼ばれてハッとする。


「スズ」

「はい!」

「ハーブティーを淹れてみる?」

「まだ練習中ですけど、私でいいんですか?」

「ネイドは味音痴だから、万が一失敗してもばれないよ」


 ルクスさんはそう言って私に計量スプーンを渡してくれる。


「仮にもお客様に失礼なこと言うなよ」

「本当のことだろ」


 ネイドさんと雑談しながら、ルクスさんは銀のポットを火にかけた。


「湯通しは僕がやるから、スズはハーブを選んでみて」

「は、はい。ネイドさんは何かお好きなハーブがありますか?」

「うーん、特には。ルクスの言う通り、食にこだわりがないんだよね。今日は結構冷えるから、体が温まるものだといいな」


 ネイドさんは何でもいいと言う割に、しっかりヒントをくれるので助かる。


「温まる……ルイボス、ジンジャーあたりですかね」

「オレンジピールを入れてもいいね。甘くするなら蜂蜜も合うよ」


 私はルクスさんのアドバイスをもとに、戸棚からドライハーブの入った瓶を選び取り、小皿に移した。


 ルイボス小さじ一杯、ドライジンジャー少々と、それからオレンジピールも混ぜてみる。


 準備ができたら、ルクスさんが温めておいてくれたティーポットのお湯を捨て、ブレンドしたハーブを入れる。


 そこに沸騰したお湯を注いで、蓋をして数分蒸らすのだ。


 ハーブの種類や使う部位にによって、蒸らす時間が変わるらしい。


 今回は普通くらいでいいかな……?


「砂時計が二回落ちきるくらいの時間でいいですか?」

「そうだね。それより気持ち早いくらいでもいいかも」


 念のためルクスさんに聞いて、砂時計をセットする。


 時間が経ったら蓋を開けて軽くかき混ぜ、茶漉しを通してティーカップに注ぐ。


 ルクスさんは、日常の何気ない動作のようにこれらの作業をこなすが、私には一大イベントだ。

 会話を楽しむ余裕もなく、どうにか一杯を淹れる。


「どうぞ」

「うん。香りがいいね」


 ネイドさんは私を気遣ってか、美味しそうにハーブティーを飲んでくれた。


 よかった……ひとまず成功かな?


「何か食事もしていきますか?」

「いや。予定が詰まっているから、これだけ飲んで出るよ」


 ネイドさんはそう言った後、ちらっとルクスさんを見て、唇の端を吊り上げる。


「誰かさんを嫉妬させるといけないし?」


 何のことだろう?

 私がそう思ったように、ルクスさんも不思議そうな顔をしている。


 その様子を見たネイドさんは、「分からないならいいよ」と言って、珍しく声を出して笑っていた。


「そういえば、シャロンの誕生日って来週だよね。覚えてる?」

「流石にね。だから王都での用事を超特急で済ませて、週明けには帰ってくる。帰りに孤児院にも立ち寄る予定だけど、何か頼み事はある?」

「特に無いかな。僕もまたそのうち行くって、伝えておいて」


 ネイドさんは宣言した通り、ハーブティーを一杯だけ飲んで、早足に店を出ようとした。


 私は後を追いかけて、急いで詰めた焼き菓子の袋を彼に渡す。


「ネイドさん。よければこれ、持っていってください。数日はもつと思います」

「ありがとう。道中に食べるよ」

「魔道具のおかげで、何不自由なく生活できています。再来週くらいから本格的にお店をオープンする予定なので、また来てくださいね」


 まだ昼だというのに、外は思いのほか寒かった。


 私がこの世界に来たのが初夏の頃で、今は秋。もう数か月するとグラスティア王国は寒さ厳しい冬を迎えるらしい。


「スズ、冷えるよ」


 ルクスさんが中から持ってきたコートをかけてくれる。


 心配してくれている本人は布一枚の薄着だが、筋肉量の違いか、全然寒そうに見えないので感覚がおかしくなりそうだ。


「見送りとか別にいいのに」

「王都も最近物騒だって聞くから気を付けて」


 ネイドさんは軽く手を挙げ挨拶した後、颯爽と馬を走らせて森の小径へ消えていった。

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