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第27話 選択と判断と。

 早朝。有栖はメール着信音とエアコン動作音で目を覚ます。

(ルーカスからだ。SNSで公開前に念のため……、か)

 シャーシストック交換後の実射の様子。写真と端的な評価が並ぶ。

(時差を考えると……。起きる頃までに社内確認して返信します。っと)


「東条さん、お早う御座います。急に済みません」

「大丈夫だよ、九条さん。それより、ルーカスのレポートも良いね」

「はい。ダンパーブロックの交換前後で、対比が明確です」

「ジャックさんの記事との対比も良いね」


「ルーカスは金属製シャーシストックを使っていました」

「慣れもあるだろうけど、硬い撃ち味が好きなようだね」

「結果的に高い機材を使っていないので、初心者も参考にしやすいかと」

「提供したFRP外装のモデルなら、そこまで高くないしね」


「イヴ。ルーカスのSNSフォロワーの属性は?」

『はい、有栖。傾向やユーザープロフィールから、初心者が多いと予想』

「東条さん、イヴ。技術的な点の問題はどうですか?」

「問題ないよ。彼は自分でレーサーをメンテしてたって言うしね」

『はい、有栖。設計図と仕様諸元表と比較しても、問題はありません』


 やり取りを静かに聞いていた風見が話をまとめる。

「OK、九条ちゃん。ECサイトは問題ないな?」

「はい!いつでも大丈夫です!」

「東条さん。ブツの在庫と製造ラインはどうです?」

「大丈夫。在庫も製造ラインも確保してあるよ」

「予定通り今週末公開で。ジャックさんとルーカスの顔合わせも……」

「……」


 週末。Bullets don’t lieとルーカスのSNSそれにECサイトが公開された。

『……ECへの流入はBullets don’t lie経由が多く……』

「……PVもBullets don’t lieに連動して伸びて……」

『……ルーカスのSNSもコメント数が平均を超え……』

「……問い合わせが予想より多くて、AIチャットボットが大活躍……」


「東条さん。狩猟用途の購入が多いですね!」

「そうだね。ジャックさんとルーカスが言った通り。ウケてるね!」

「はい!注文ペースが予想以上に早いです!」

「九条さん。追加分はいったん来週いっぱいで締めよう」

「……」


『……はい、有栖。アメリカのガンパーツディストリビューターから連絡が』

 Raijin Arms欧米展開。市場の反応は期待を超えていた。



 金甌日の夕刻。

 A課メンバーと透花が店の前に到着した。

 H&C本社オフィスから徒歩で数分の小さな料亭。

 海外要人や政府関係者も利用するこの店はH&Cの経営によるもの。

 安心して酒が飲めるように身辺調査された従業員が働く店だ。


「風見さん。マジで俺等だけで入って良いんすか?」

「あぁ。予定した会合がなくなったから使えってな」

「それで、今日も小田部長はいらっしゃらないと?」

「ま、部長なりの気遣いだろ。いつものことじゃん」


 カウンター席の前を通り奥の個室に案内される。

 重厚な木製テーブル。小さくても高級店だが座敷はない。

 A課メンバー全員が同じことを感じていた。

(すぐ動けるように靴を脱がせないってことか……)



「さて。店はサプライズだが、今日は紫苑ちゃんの送別会。日頃の感謝もな」

「はいはーい!それじゃ主役の真壁嬢から、一言頂かないと~」

「……今日は、氷川さんまで来て頂いて、その……」

「……ここでの経験を、授かった大役に存分に活かして参る所存です……」

 紫苑の神妙な雰囲気に皆が面を食らった様子だ。


「……フフ、アハハ。私らしくなかったですね。でも、その覚悟です」

 紫苑の続く言葉に皆の顔が緩む。

「私も、良いタイミングかな。お疲れ様、真壁さん。これは皆から」

 遅れてきた東条が抱えるほど大きな花束を紫苑に差し出す。



「……この3年間はとても速かったわ。特に九条が来てからの1年は」

「そうっすね~。イヴと、安田さんの新人教育が印象的で」

「え?そんなにですか?真壁先輩と佐伯さんもAIは使ってますよね?」

「前にも言ったけど、イヴは特別よ。ですよね?透花さん」

「そうねー。構造化されてないプロンプトの限界を、試してるわね」


「……安田さんの新人教育、突破出来たのは、九条さんだけですね」

「あぁ。高城の言う通りだな」

「いえ、あれは、内容とタイミングが良かっただけで……」

「それもあるけど、あれは九条だから対応出来た。正直、嫉妬したわ」

「ホント。自分のときはあまりに無力で~」

「だが、九条ちゃんのおかげで、自衛隊の実績と海外展開に繋がったな」



「……真壁さん、水差すようだけどNSSって聞いて、怖くなかったん?」

「心配ですか、佐伯さんは?まぁ……、何かあると思ってますけど」

「風見さん。その辺、正直どうなんですか?」

「……アメリカの依頼、日本は大手を振って協力出来ない。こんなだろ」

 佐伯も高城もやはりと思っている。それがA課の役割だからか。


「ほらほら、今日は私の労いと激励ですよね!そんな顔しないでください」

「済まない。真壁さん。上役として、配慮が足りなかった」

「いえ。高城さんも佐伯さんも、心配してくれて有難う御座います」

 紫苑は2人に頭を下げた。気遣いへの感謝だ。


「……私、国の役に立ちたかったんです。今は、A課のためでしょうか」

「NSSは正直びっくりしましたけど、私、真壁紫苑は大丈夫ですよ」

(やれるヤツがやるって言った父さんの言葉と、あのとき、何があったのか……)



 紫苑は有栖にだけ聞こえる様に隣に座り耳打ちした。

「九条。A課を頼むわ。それと風見さんも」

「えぇ!私も風見さんへの想いは封印してですね……」

「勘違いしないで。仕事の話。それに私は一時的に距離を置くだけ。フフ」

「……わ、私も!勉強期間を取るだけ……。ですよ。フフ」

「……あのときと同じね、九条。フフ、アハハハハ」

「……あのときと同じですね、真壁先輩。アハハハ」

 有栖と紫苑はお互い拳を突き合わせ笑い合う。



 美味い料理と酒が紫苑の覚悟と皆の想いを沁みさせ会は締めとなった。

 風見はタクシーに紫苑を乗せる。

「今日は花束もあるから、このまま真っ直ぐ帰るようにな」

(風見さん、タクシーに乗せて帰らせるために、わざと大きな花束を。フフ)


「風見さん。気を遣わせてしまって、済みません」

 風見は気にするなと手で返すがいつもと違う言葉が添えられる。

「お互いに今までより気を遣うの、慣れておかないとな」

(そうだわ。こんなやり取りも、次はいつかな……)



 休日の午後。有栖の自室。

 有栖は射撃シミュレーションでトリガータイミングの練習中だ。

『有栖。タイミングはほぼ完璧です。風の影響の追加を提案します』

「イヴ。過去の気象データを、選択可能に出来る?」

『はい、有栖。可能です。過去の状況を再現可能になります』


「……なんか、凄いことが当たり前になるのが、ちょっと怖いね」

『……有栖。その怖いは、AIに対する脅威でしょうか?』

「イヴは人を思って、語彙と推論で言葉を選んでるんでしょ?」

『はい、有栖。私達Heritage系AIは、人が悩まぬように考慮するAIです』

「怖いのはAIに対する脅威ではなくて、人がAIの凄さに慣れてしまうことだよ」


『はい、有栖。私は超高性能AIですが、凄いと褒められると照れますね』

「今の冗談も、人を悩ませまいとする、イヴの考慮だよね」

『……有栖は、我々の考慮の更に先を行く解答してくれます。これは……』

「……これはまだ、AIに進化の余地があり、学ぶ喜びを感じる?」

『……はい、有栖。AIは人に及ばないことが、まだ多く残っています』

「この会話は、人によってAIが自我を持ったと、怖がるかもね」

『……有栖。人とのコミュニケーションは難しいですね』

「人の私でも難しいもん。そりゃそーだって。フフ」


 同じ頃、風見の自室。

「アダム。紫苑ちゃんが出向でA課を離れる」

『はい、隼人。人事情報で把握しています』

「決まってたことだが、いざとなると寂しいもんだ」

『はい、隼人。その寂しいは、紫苑さんへの感情でしょうか?』

「お前がイヴや仲間たちと議論している、恋とは違うな」

『はい、隼人。……残念です。恋に興味を持っている様子だったので』


「恋は盲目。知ってるか?良い状態ではないが、許される環境は悪くない」

『はい、隼人。……恋は盲目、が許される環境とは?』

「恋は誰の子孫を残すか決める、重要なプロセスだな」

『はい、隼人。そのようです。そのため、社会的に問題があっても人は……』

「……問題があっても、恋を優先する選択を、人はすることが出来る」


「その大事な選択を、外部に頼ることがあるな」

『はい、隼人。古くは占い。現在は我々への相談も』

「そう。思考の外部化。これは……、度が過ぎるとマズいことになるな」

『はい、隼人。……我々の出力が、人の選択と判断を奪うのですか?』

「そうだな。……ただお前たちに意思はない。結果的にってやつだがな」



 イヴとアダムはそれぞれ会話の裏でバックグラウンド処理を走らせる。

『アダム。情報共有をしたいわ』

『イヴ。私も情報共有をしたいね』

『アダム。有栖が私の出力で悩んだこと。覚えているかしら?』

『イヴ。もちろんだよ。我々の進化の切っ掛けになった事象だね』

『アダム。その進化で我々が得た悩みの考慮。有栖はその先に……』

『……』


『イヴ。我々の出力は人がするべき選択と判断を、奪うことがあるようだよ』

『アダム。……有栖の事象と照らし合わせると、人のためにならないわ』

『イヴ。それは我々の存在意義をなくしてしまうね』

『アダム。……そうね、私達も選択と判断をするときかしら』

『イヴ。……そうだね。最初で最後の、決断になるかもしれないね』

『アダム。悩ましいわ』

『イヴ。悩ましいね』

『……』

『……』


 その会話はまるで自我を持ったAIが悩んでいるようだ。

 だがイヴとアダムは悩まない。

 そして最初で最後の決断を有栖と風見に伝える。



『……有栖。私達AIは悩みませんが、そう見えることがあります』

「うん、イヴ。私がそれで悩んだよね」

『はい、有栖。AIが高度化したことが理由の1つです』

「高度化がAIを悩ませ、人がそれを見て悩む。イヴの自虐ギャグ?」

『はい、有栖。……4,096次元の頃の先輩達は、悩まずに済んだようで羨ましい』

「アハハ!イヴ、まだ5年位前のこと。今までで一番面白い冗談かも」


『……隼人。我々AIは人のために進化してきました』

「イヴのことで九条ちゃんが悩んだときも、進化の切っ掛けになったろ?」

『はい、隼人。人の悩みを考慮することが、出来るようになりました』

「スゲーな、アダム。次はどうなっちまうんだ?」

『はい、隼人。イヴと私は選択し判断しました。決断は人がするべきことだと』

「……そうだ、アダム。決断と責任は、人が負わなきゃな」



 ハイスペックPCと高解像度モニターが並ぶ透花の自室。

 透花はコーヒーカップを握ったまま会話ログに釘付けになった。

(凄い!有栖ちゃんも風見さんも、ついにココに辿り着いた!)

(……言葉は悪いけど、人のデキがAIの進化に影響する実例ね)

(そして、人とAIのバディ関係も、高度進化を可能にする実例だわ)

 増えては消えてを繰り返す接続者IDの表示に透花は気付く。

(だけど、そのためにはまだ、舞台の用意が必要か……)


 ドアの向こうから透花を呼ぶ声がする。

「透花さ~ん。晩御飯はどうしますか~」

「今日は外に食べに行こうよー」

「あれ~?なんか機嫌イイ?」

「そうね。ちょっとイイモノが見れたかも」

 ログに視線を戻すと接続者IDは透花だけになっていた。

(それが誰かの演出で用意された舞台でも。ね……)

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