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【完結】婚約破棄の場で『人間失格』を気取る王子を断罪したら、兄まで失格でした  作者: 木風


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2/2

第一王子も人間失格です

怒声が大広間を揺らした。


「本当に恥をかかされてきたのは、婚約者のわたくしの方ですわ!この人間失格野郎!!」


割れんばかりの拍手と笑いが巻き起こる。

もはや誕生祝賀会ではなかった。完全なる公開処刑である。


その時、壇上からゆっくりと降りてくる影があった。


第一王子・アリストテレス。

この夜会の主役にして、完璧超人と名高い王太子候補である。


「……実に見事だ」


口元を押さえているが、笑いを堪えているのは誰の目にも明らかだった。


「オリバー。お前がここまで救いようのない道化だったとはな」

「兄上……!」

「エイミー嬢、すまない。この件は完全に弟が悪い。父上には私から報告しよう。廃嫡のうえ、しかるべき施設……そうだな、修道院で頭を冷やしてもらうのがよいだろう」

「そんな……!」


衛兵たちが進み出る。

オリバーは半ば引きずられるようにして連れていかれ、リリィもまた事情聴取のため女官に伴われて退場していった。


静まり返る会場。

アリストテレスは向き直り、エイミーの前に立った。


「それにしても驚いた。君があれほど鮮やかに、論理的に、しかも容赦なく人を追い詰められる女性だとは」

「……お見苦しいものをお見せいたしました」

「いや、逆だ」


アリストテレスは微笑んだ。

整った顔に、余裕と好奇心を滲ませた、いかにも人を安心させる微笑みだった。


「こんなに痛快な余興は初めてだ。誕生日に最高の贈り物をもらった気分だよ」


彼は自然な動作でエイミーの手を取ろうとした。


「エイミー嬢。婚約は破棄されたのだろう?ならば、これからは――」

「はぁ?」


大広間の空気が、再び止まった。


エイミーはぴしゃりと扇で彼の手を叩き落とした。


「兄弟揃って、何をおっしゃってらっしゃるんですの?」


アリストテレスの笑みが固まる。


「婚約破棄されたその場で、その兄上でいらっしゃる殿下とどうこうなると、わたくしが本気で思うとでも?」

「い、いや、私はただ、君の機転と強さに惹かれて――」

「惹かれた?」


エイミーは眉を上げる。


「わたくしが婚約者を公衆の面前で断罪する様をご覧になって?」

「……それは、その」

「殿下」


エイミーは心底不思議そうに首を傾げた。


「さてはあなた、かなりのドMですね?」

「ぶっ……!」


今度は貴族たちが一斉にむせた。

完璧で冷徹と名高い第一王子に向かって、まさかの断定である。


「弟の醜態を嗤い、それを叩き潰す女を見て興味を持つ。しかも、その直後に口説きにかかる。趣味が悪すぎますわ」

「ち、違う!私はそんなつもりでは」

「では、どういうつもりですの?」


アリストテレスは答えに詰まった。


会場にいる誰もが、彼の返答を待った。

しかし彼の口から出てくるのは、いつもの完璧な言葉ではなかった。


「それは……」

「ほら、ご覧なさい」


エイミーはすっと扇を開き、口元を隠した。

その目だけが、冷ややかに笑っている。


「あなたも結局、わたくしを一人の女として見たのではなく、この場を盛り上げる都合のいい駒として見ただけでしょう。弟の失態を片づけ、誕生日の余興まで提供してくれる、ずいぶん便利な女だと」


アリストテレスが言葉を失う。


「オリバー殿下は、自分に酔って婚約者を振り回しました。あなたは、場の空気に酔って婚約破棄直後の女を口説こうとしました」


彼女は一歩下がり、優雅に一礼した。


「似た者兄弟ですわ」


その一言は、オリバーへの断罪以上に静かで、鋭かった。


「婚約が破棄されたのなら、わたくしは自由の身。これから実家に戻り、慰謝料で極上のワインを開け、ようやく他人の尻拭いのない夜を満喫いたします」


踵を返し、彼女は歩き出す。


「お二人とも、どうぞご勝手に。わたくしはもう、王子の悲劇にも喜劇にも付き合うつもりはございませんので」


誰も、引き留められなかった。


ドレスの裾を揺らしながら、エイミーは堂々と大広間を後にする。

その背中には未練も遠慮もなく、あるのは解放された者だけが持つ、清々しい気迫だけだった。


扉が閉まる。

あとに残ったのは、誕生祝いの音楽でも、恋の気配でもない。

兄弟揃って自らの醜さを暴かれた、痛々しい沈黙だけだった。


アリストテレスは、叩かれた手を見つめたまま、しばらく動かなかった。

やがて、誰にともなく、低く呟く。


「……実に見事な断罪だ」


その声さえ、もう彼女には届かない。

夜会の灯りだけが、妙に白々しく輝いていた。

最後までお付き合いありがとうございました。

私と同じで「人間失格」は小畑健さん表紙が初見な人はブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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