叔父さん、感想の連絡を入れる
「読んだで! おもろかった!」
叔父が電話をしてきたのは、光が簫雨の部屋へ取り残される話を投稿してすぐの事だった。
「そりゃどうも。でも翻訳やから僕の貢献は半分くらいやな」
「ええから素直に褒め言葉を受け取りや!」
「身内からの賞賛なんてAIのおべっかと同程度やわ」
「主人公が孫悟空とストレンジを一発でやっつけた所は凄かったな」
「アレな。ロボットアニメであんなシーンあった気がするわ」
「ところで質問が幾つかあるんやけど……どれから訊こう?」
「作中の簫雨さんの助言通り、時系列で訊いたら? 答えられるか知らんけど」
「そっか! えっとさ。峨眉山って何?」
「そこからかー。峨眉山は実際の四川にある山で、険しくて神秘的で仏教や道教の聖地やねん。武侠小説やと修行の一部に武術もあって、峨眉派というのがいたりする」
「崑崙山もそんなもん?」
「そっちはちょっと難しい。崑崙山脈と言うとチベットとかにホンマにある山脈なんやけど、崑崙山と構えて言うとフィクションの山やねん。仙人とかの住む世界やね。孫悟空も関係する仙界とか」
「ほな金吾衛て人は? これも架空?」
「金吾衛は役職というか官職やねん。帝の住む城を守る警備兵やけど、長安の警察もやってる。てか都やから警視庁か」
「ふむふむ。ほな次は技の名前やな。『上水禅如』とか『光輪同陣』とか唐突に出てくるけど、動作の説明は無いん?」
「無いな」
「簡潔やなおい!」
「名前の響きや雰囲気で察してくれ、て感じやろ。『上水禅如』にしてもたぶん『上善は水の如し』の捩りやろし」
「なにそれ?」
「老子の言葉や。良い生き方は水の様に、争わず柔軟に過ごして喜んで下へ向かい人々に恩恵を与えて……みたいな意味。他の技も道教仏教の格言とか、漢詩から取ってるっぽい。特に峨眉派はさっき説明したみたいにそういう傾向が強いな」
「丐幇ってのも峨眉派みたいな流派?」
「アレは……言い難いねんけど物乞いの人々の組合、なろう小説とかの文脈で言うと乞食ギルドや。色んな所にいて色んな事を見聞きしているんで、ネットワークと情報網が凄いねん。アレで割と正義の味方寄りに描かれる事が多い」
「ホームレスのオッチャンらが意外な事を見てたり心に残る言葉を言ったり、みたいな?」
「せやね。先に言っとくとこれ今で言う警察小説の色も濃いから、刑事さんが公園のホームレスの人たちと付き合いある、と考えて貰えたら」
「ああ、金渡して情報屋にしてるやつか。せや、金と言ったら銀子ってどれくらい? あと前後するけど百合も何分とかさ。単位、今風に直して言うてたやん!」
「銀子なあ。経済状態を正確に対比するのは無理やから、万札くらいやと思ったらええんちゃう? 合ってのは分がどうとかじゃなくて、一回斬り合って武器がぶつかって間が出来て、みたいな感覚。まああの時は素手やけど。ただ百合とか言うとこれは概念やな。めっちゃ時間かけて手合わせしよう、て感じの」
「中国の白髪三千丈的な誇張か?」
「そう。ほんで直しやけどさあ。やっぱいきなり『100ラウンド戦おうぜ!』とか言わせるのは厳しいんよ。まあ叔父さんがそう言うなら、ちょっとずつ試すけど」
「うん、頑張ってや! でないと報酬は渡せへんで~。あ、報酬言うたら光ちゃんが着てるのホンマにサンガのユニフォーム? 猫太朗から俺への催促ちゃうん?」
「う……認める、アレはちょっと作為ある。サッカーのユニフォームで紫色なのは確かやねん。あとで色に意味があるシーン出るし。だからフィオレンティーナかもしれんけど……サンガにしといた」
「ヴィオラもサンガも任天堂やしな」
「ヴィオラはバティのいた頃の話やな。サンガみたいにずっとやない」
「京セラもずっとやな。半分、自分とこの商売とは言えありがたい話やで。せや、商売言うたら簫雨さんの本業、なんやろ? 麻薬か?」
「たぶん、塩商人やで」
「なんでや? 海沿いの話ちゃうのに……もうそこまで読んだん?」
「いや、四川に塩で有名な街があるねん。塩の濃い地下水を汲み上げて作るとか。最長やと千メートルくら井戸掘ったらしいで」
「マジか。そんなに穴を掘れるなら、バットケイブとかあるんかな!?」
「まだ読んでへんから知らんて。でもあるかもしれんね。……話を戻すと簫雨さんの故郷四川に塩製造の街があって、本来は政府の専売で……」
「みんなに必要で大好きな白い粉。たしかに塩かもしれん」
「うん。しかも塩商人ってめっちゃ金持ちで貿易商っぽい部分もあったらしい。その分、財産や地位を狙われる事もあるけどな。簫雨さんの父親が殺されて家業を奪われたんも、仕方ない」
「犯人誰やろ? あと閻……なんとかも!」
「家業の方は悪い宦官ちゃうか? ベタなパターンやと。閻禍王はまだ全然、分からんわ」
「光ちゃんが殺害現場は橋の上と違う! て推理したんは意外やったな」
「ほんまやな。イメージに無かったわ」
「猫太朗、ダンスやってる女の子好きで詳しいもんな」
「光ちゃん、EXPG京都校あたりに通ってそうやな。でもユニフォームを腰で縛って着るタイプは嫌いや。スポンサー名、隠れるやん」
「具体的な学校名と老害みたいな事を言うなや! 光ちゃん、あれで聡い子なんやで」
「さとみがどうとか言ってたな。科捜研の女とかアンナチュラルを観て、ちょっと詳しくなった感じの子やろな」
「世代、違わへん?」
「配信で観れるらしいで。もっとも光ちゃんの行った世界、ネットも無いから今ある知識以上は得られへんけどな」
「これからあの子、どうするんやろ」
「それは読んでのお楽しみや。あの子、結構大胆やで」
「ほう、ほな帰ってきた簫雨の兄さんと大胆な濡れ場……」
「んなわけあるか!」
僕はそう言って電話を切った。しかしまあ、叔父が意外と楽しみにしていみたいなので続きを翻訳せねば。ただとりあえず、ノクターンノベルへ移籍しないといけない展開にはならない、とだけ言っておく。
今回の話題以外にも謎の単語等あればコメントなどでお訊ね下さい。
評価やブックマークなども頂けると嬉しいです。
……叔父さんはダメですよ!




