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幻晶侠、館で素顔に戻る

「なんでまだ身体が光ってるでやんすか? あ、消えた!」

「質問が多いな……」


 幻晶侠(げんしょうきょう)は握っていた手を離し、仮面を操作して天井を見上げた。


「オネショの秘密以外は答える、って言った癖に……」


 (ひかる)が彼の真似をして首を上へ向けると、黒衣の貴公子はさっと彼女の方を見た。


「男に二言は無い。他の恩人たちの名誉や秘密に関わること以外は答えよう」


 幻晶侠は再び仮面に触れて目に降りていた黄色い膜を上げる。


「身体が光るのは光龍十八掌を使用したからだ。至高の内力が溢れ、身を包み発光する」

「こちらの世界は何か技を使う時に発光する、格闘ゲームみたいなシステムでやんすか!」

「何か技、ではなく光龍十八掌だけだ。周瑞彪(しゅうずいひょう)はそれが見たくて雷過碧雲(らいかへきうん)を放ったのだ。あのようにやかましい技を地下で使うなど……」


 光の目を見て語っていた幻晶侠は、そこで視線を外し頭を振って嘆息した。


「また新しい単語のお出ましだ! でも分かるっすよ、アイツの技でやんすね? じゃあ奴は旦那が光る所が見たくて何か無茶な技を……」

「光る所ではなく型を見たいのだ。元は丐幇(かいほう)の秘伝だからな」 


 幻晶侠はそれで分かるだろう? という語り口だったが、光の曖昧な表情を見て気づいた。


「……そこからか。江湖(こうこ)では有名な話なのだが光龍十八掌は代々、丐幇の幇主へのみ伝えられていた絶技だ。だが先代は酒債千楼(しゅさいせんろう)ではなく俺に伝えた。奴はそれが口惜しくて、たまにあの様に絡んで何とか技を出させようとする」

「男の嫉妬! フウーッ、たぎるでやんすね! じゃあ奴と一味は旦那の敵というより仲良く喧嘩する仲間なんだ」

「まあ丐幇と敵対する道理は無いな」


 そう説明する間にも歩き続けていた幻晶侠は、遂にある壁の前で足を止めた。その地点の上方には、長い縦穴が見える。


「到着だ。だが下人たちを起こしたくない。暫く黙っていられるか?」

「合点承知!」


 光は親指を立てると首のバンダナを再び上げて口を覆った。


「では失敬」


 幻晶侠は断りを入れると有無を言わさず光の腰を抱き上げ、壁を蹴って上へ飛び上がった。




 不満や驚きはあったにせよ、光は約束を守った。つまり縦穴を登って空井戸から庭へ出て、再び飛んで二階へ上がり、窓を開けて幻晶侠の寝所の一つへ入るまで声を出さなかったのだ。


「か、金持ち~!」


 然る後、もう声を出して良いぞと言われての第一声がそれであった。


「いや、声を出しても良いが大声はやめてくれ。夜なのでな」

「い、イケメン!?」


 そして第二声がこれである。衝立の向こうで着替え紺色の漢服姿になって現れた幻晶侠、もとい簫雨(しょうう)を見たのである。


「大声はやめろと今、言っただろう?」

「で、でもこんな金持ちでイケメンで……その上であんな活動を!?」


 光は両手で室内と簫雨の顔を指した後、頭を抱える。ずっと叫ぶのを我慢していたが簫家の別宅は庭から豪華で、池を望む東屋には美しい水墨画、池には――光は知る由もないが――禁城(きんじょう)で飼われているのと同じ血統の鯉、廊下には磁器に飾られた花、寝室には遙か西方から取り寄せた絨毯、と溢れる金と教養を見せつけるかのような佇まいだったのだ。


 それに加えて簫雨の素の姿である。しばしば雪豹にも例えられるその美貌は白い肌、鋭い眼光、均整のとれた目鼻の配置に加え、しなやかに動く手足まで備えている。まさに彼の故郷、四川の山中に生息する白い獣である。


「あっしが所属するダンス学校の先輩にも親ガチャ勝者がいますけど、月とすっぽんと言うかなんというか……」

「ん? すっぽん酒が良かったか? なら茶ではなくそちらを出すが」


 光が呆然としている間に茶の用意をしていた簫雨は首を傾げて彼女の方を向く。


「いやお茶で! てかなんですっぽん酒あるんすか!」


 光はそう言って裏拳で簫雨の肩を叩いたが、軽く受け流され手を開けさせられ、茶碗を握らされた。


「うぃ!? い、頂きます」

「どうぞ」


 簫雨は恭しく頷いた。かなり激しい動きに見えたが茶は一滴もこぼれてはいない。暗渠(あんきょ)で自分が言われたようにお見事! と言うべきか悩みながら光は茶を一口飲む。


「美味い! いや、あっしには善し悪しは分からないけどこれは高級中国茶でしょ!?」

「いやいや。すっぽんほどではないが、とりあえず元気は出る茶だ」


 簫雨はそう謙遜して首を振り、自分も茶器を傾ける。実際、銀子を出さねば手に入らない茶ではあるが光にはそれを知りようもない。


「飲み方までイケメンかよ……。旦那は……あっ、お名前を聞いても宜しいで?」


 優雅に琥珀色の液体を飲む簫雨を見て光は思い出したように訊ねた。


「茶の名前か? そんなに気に入ったか?」

「知りたいのは旦那の本名の方でやんす!」

「ふふっ、それもそうだな。館の中で幻晶侠とか旦那とか呼ばれても困る」


 簫雨はそう笑うと器を置いて光に正対した。


「簫家が家長、名を雨。今宵は光殿にご来訪頂き、星降る夜の如く心が沸き立っております」

「ぶわっ! 名前を聞いただけなのにキザでやんすよ! 簫雨さんて言うんですね」 


 光は名乗りを聞いて笑いながら、彼の指さす窓の外を見た。時刻はもう少しで夜が明ける頃だ。満天の夜空に幾筋かの流れ星が走った。


「おお、流星群! ビルも街灯も無いから夜空も綺麗でやんす!」


 光はそう感嘆して思わず特殊な足捌きを踏む。


「ほう、愉快な歩法だな。どうやるのだ?」

「ランニングマンでやんす! 両手で斜め上を指さしながら、足はこうで……」


 簫雨が興味を示すと光は嬉しくなって舞の解説を始めた。


「そうそう、その場で飛んで」


 少し教えると自分は距離を置き、簫雨の動きを確認する。


「出来てる! いや、上手いっすね~。こりゃ二人でもユニット組めるかな? 光アンド雨、光の雨……あ、流星群か!」


 光はそこに至って簫雨の名乗りの本意を知った。彼は自分たちの名前の組み合わせから流星雨を連想していたのである。


「光は愉快な女だな。この邦では希有な存在だ」


 一方、一通り踊り終えた簫雨は椅子に腰掛けて聞く体制になった。


「しかし光、君はいったい何者だ?」

叔父さんへ:

光ちゃんの布、明らかにバンダナなのでもうそれで書きます。他にも現代の名前に翻訳した方が分かり易いものがあれば、メールや電話ください。

叔父さん以外は感想などをご利用下さい。

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