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第8話 ブレイブロジャーに乾杯

 2人が店から出てきた。


「早く早く!」

「焦るなって。お前はホントに アハハハ」


平和そうな街だな、ここは。


俺は少し離れて後ろをついていく。

2人組は少し歩いた所で路地を左に曲がった。 

俺も同じように路地を左に曲がったが、2人組の姿は無い。気づかれたか? 

いや、彼らを調査対象として尾行してた訳でもないのだから、別に気づかれるとか関係ないか。 ん? 確か、「みっちゃん」って酒場が出来てって言ってたな。あ、なんだ、角曲がって2件目の店か、通り過ぎちゃってたよ。彼らはここに入った、と。アイドルのソフィアと女優のサラを足して2で割ったっていうウェイトレスがめっちゃ気なってはいるが、今日のところは作戦優先ってことで我慢しておこう。


で、この店の近所に例の店があるんだよな。そんなヤバい系の店が表通りにあるわけがないから、もっと奥ってことだろう。窓のカーテンが閉まったままの店だよな。


しばらく歩いてみたが、それっぽい店は無いな。まぁ、「みっちゃん」の近所って言ってたけど、同じ通りとは言ってないからな。もう一本奥の道も見てみるか。 

おっと、カーテンが閉まってるバーがあるぞ。看板も点いてるといえば点いてるけど、全く看板の意味をなさない程に薄暗い。ここだろう、このウェルカム感の無さ。ホントに入りにくい雰囲気満点の店だな・・。


 ガチャッ。 客達の話声が聞こえていたのだが、ドアを開けた瞬間、店内がシーンと静まり返った。店員はバーテン風の初老の店員がカウンターの中に1人、トレーを持った若い給仕が1人。客は2人連れと3人連れの2組。 店員と客、全員の視線が俺に集中してるのを感じるが、俺位のレジェンド探偵だと、これ位は痛くも痒くもない。 熱い視線を無視してカウンター席に座った。


「バーボン、ロックで。」


オレが単なる場違いな客だと認識されたのか、熱い視線がなくなって、客同士の話声がする店内に戻った。店に入って直ぐにトラブルになる最悪のケースは無くなったってことだな。


コトンッ。 バーボングラスが置かれた。 店のイメージとちょっと違う、洒落た感じの高級そうなカットグラスだ。へぇ、意外だな。一口飲んでみる。うぉ、バニラのような甘く香ばしい強い香りとパンチのあるスパイシーな味、これは美味いぞ。


「これは、何てバーボンだい? 香りが最高じゃないか。」


「あぁ、これはブレイブロジャーってバーボンで、この辺じゃウチでしか飲めないだろうね。」

バーテンが俺の方を振り返って答えた。


「ここでしか飲めない?珍しい酒なのか?」


「あぁ、輸入ものだ。」


「ブレイブロジャー。へぇ、これは美味いな。でも、なんでココでしか飲めないんだ?」


「そりゃ、ヴァンダニア王国の酒で、ウチが輸入元だからさ。他の店には卸してない。」


「あぁ、なるほど、そりゃここでしか飲めないな。」


「そのカットグラスも洒落てるだろ、ヴァンダニアでは、酒はこのグラスで飲むんだ。だから、酒と合わせて輸入したんだ。」

バーテンダーが少し自慢げに話した。


「ヴァンダニアに詳しいんだな。」


「俺はヴァンダニア出身なんだよ。」


「あぁ、そういうことか。そりゃ詳しいわな。ところで、こんな美味いバーボンなら、もっと売れるだろうに、なんで他の店に卸さないんだ?」


「あぁん? あんた、この国の人間じゃぁないね?」


オレはなにか不味いことを言ったのか?


「え?」


「知らなないみたいだな。この国とヴァンダニアは国交が無いのさ。国交以前に、実質終戦みたいなもんだが、正確には休戦中だ。」


「え?この国はもう何十年の戦争が無い良い国だって聞いてたけど。」


「あぁ、何十年も休戦中なんだから、実質は終戦みたいなもんだよ。でも、休戦以降、何の交渉もないんで、終戦にもならず、国交も結ばれてない。だから外交ルートが無いんで、輸出入も無い。」


「でも、ここにはブレイブロジャーもカットグラスもあるじゃないか。」


「だから、ウチでしか飲めないって言ったろ? 美味い酒が飲める、それ以上でもそれ以下でもないさ。」


あぁ、さっきの酒の密輸の噂は、本当だったんだな。


「あぁ、なるほど。ブレイブロジャーに乾杯だ。」


「そう言うこった。」


バーテンダーが軽く頷いた。


「ブレイブロジャーとカットグラスがあるんだから、肴もヴァンダニアで揃えたいな。実は、ヴァンダニアのツマミがあったりしないの?」


「アジェロっていう小魚を発酵させたペーストを、クラミシャっていう、少し塩味のきついクラッカーに乗せたものがブレイブロジャーの相棒だよ。」


「へぇ、面白そうだな。あるのかい?それ。」


「あぁ。あるよ。食べるかい?」


「もちろんだ。頼むよ。」


バーテンダーは一旦カウンターの奥へ入って、小皿を持って出てきた。


コトン。


「はい、お待たせ。」

皿には黒いペーストが乗せられた丸いクラッカーが並んでいた。


かなり塩辛いけど、魚介の濃厚な味と香りで、旨い。これは旨いぞ。


「これはイケるな。ヴァルトベルク名物の鳥の香草煮込みも気に入ったけど、オレ的にはヴァンダニアのこれの方が好きだな。」


「そうかい。気に入って貰えてよかったよ。」

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