第65話 いつでもどこでも
マルティンさんの店を出て、宿に戻った。
ネコ娘は、早速買ってきた星霧鈴を窓の枠に掛けている。
チルルルン、チルルルン
「うん、良い音だ。」
ネコ娘が一人で大きく頷いてる。
確かに、耳心地が良いというのか、耳触りが良いというのか、良い感じの音色だな。
チルッ、チルル、チ、チルッ。
うん? なんだ? 急に騒々しい感じになったな。 どうした?星霧鈴?
窓を見ると・・。
パシッ。パシッ。
「おい、星霧鈴にじゃれつくなよ。ってか、叩いちゃダメだろ、そんなことしたら幸運逃げちゃうんじゃないか?」
「ふぇ? あっ、いや、違うよ、ほら、これ、ちょっと曲がってたから、真っすぐに直したんだよ。」
「・・・キミの言い訳は相当酷いな。 そして決してネコの本能であることを認めないんだな。まぁいいさ。 とにかく、その星霧鈴をパシパシ叩くのはやめようや。」
「そんなことより、魔道具屋の盗難事件も片付いたし、もう今夜からは張り込みなくて良いんだよね?」
「そうだな、もう張り込みは終わりだ。」
「それなら今夜は、祝勝会だね。どこに行く?」
「え? 祝勝会? なんだそりゃ。」
「だって、案件片付いたでしょ、それをお祝いしなきゃ、ね。」
「そんなもんか? 残業すれば何か買わされるし、案件終われば会があるしって、オレは散財するばっかりじゃないか?」
「それも、レジェンドって呼ばれる人の務めなのよ。」
「そうか? なんか騙されてる気もするけど・・。 まぁ良いや、どうせ飯は喰いに行くんだしな。 なにか行きたいところでもあるのか?」
「あるんだ、行ってみたい店。そこでも良い?」
「あぁ、任せるよ。何時ごろ出る?」
「夕食は7時頃が良いから、6時半くらいに出る?」
「あぁ、わかった。それで良い。」
「じゃ、それまでは昼寝しよーっと。」
ネコ娘が、さっと窓際のベッドに潜り込んだ。
まったくネコってのはいつでもどこでもすぐに寝るんだよな。
ま、コイツが寝ちゃってるんじゃ仕方ない、オレも少し休憩するとするか。
ベッドに横になって、軽く目を閉じた。
「おーい、時間だよ、起きてよ。」
身体を大きく揺さぶられて目が覚めた。
「おぉ、どうした?」
「どうした、じゃないよ、もう6時半だよ? 夕食行くって約束したじゃない。」
「もうそんな時間か?」
窓の外を見ると、確かに、既に夕方から夜の色に変わりつつあった。
「まったく、貴方はいつでもどこでもすぐ寝るんだから。」
・・いや、そのセリフ、ネコには言われたくないな・・。
「わかったわかった、ほら、行くぞ。」
既に街灯に灯がともり始めた大通りをネコ娘と歩く。
「ところで、行きたい店ってどんな店なんだ?」
「席に鉄板があって、そこで自分で焼きながら食べるんだって。面白そうでしょ? 市場の人に教えてもらったんだ。」
「自分で焼くのか。お好み焼き屋みたいな感じか?」
「オトコミヤキ?」
「うん? あぁ、そうか。お好み焼きって、小麦粉の生地に自分の好きなものを入れて、自分で焼くっていう料理があるんだよ。」
「へぇ、それも面白そうだね。でも、今から行くところは生地とかは無いみたいだよ? アタシも初めて行くから詳しくは知らないけどね。 あ、ほら、あそこ。」
ネコ娘が指さした先には大きなオレンジ色の看板が出てる店があった。
店内に入ると、既に8割くらいの席が埋まってる。
確かに席には鉄板がついてるけど、焼いてるのは肉とか野菜とか、だけど、焼肉とも違う、普通の料理を作ってるような感じにみえる。
「いらっしゃいませ。 お二人様?」
「あぁ、2人だ。」
「それでは、こちらのお席へどうぞ。」
小さな衝立で仕切られた、半個室風の席だった。
「なんかおしゃれな感じだよね。」
「あぁ、他の客の目線を気にしなくていいってのは良いよな。」
「はい、こちらメニューです。 あと、こっちは本日のおススメです。 ご注文がお決まりになりましたら、お声をかけて下さい。」
冊子のようなメニューと、手書きの紙がバインダーに留められただけの本日のおススメニューが手渡された。
「なににするんだ?」
メニューをネコ娘に渡す。
「市場の人は、色々ちょっとづつ入ったセットみたいなのがあるって言ってたんだよね。どれだろう?」
「まぁ、初めてだし、その色々試せるってのは良いんじゃないか?」
「あ、これかな。シェフ一押しグルメセット。」
「あぁ、これか。何がセットになってるんだ?」
「えっとね、薄切り山鳥と柑橘塩、香草野菜の重ね焼き、川魚の皮目焼きだって。」
「鉄板料理っていうか、普通の料理だよな、それ。」
「そうだよ? それを自分達の席の鉄板で作るんだよ?」
「は? そういうコンセプトの店だったのか? 普通の料理なら別に自分で作らなくても良いんじゃないか? ってか、作ってもらった方が良いんじゃないか? 自分で作るなら家呑みの方が落ち着くんじゃないか? いや、まぁ良い、キミに任せるよ。とにかくオレはバーボンロックがあればそれで良い。」
「そ。じゃ注文するね。 すみませーん。」
ネコ娘が店員を呼び止める。




