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第6話 屋台でスクーゼ

 宿で仮眠を取り、日が暮れ始めた歓楽街へ出た。今回、俺は新しく、作戦行動中はビール2杯、バーボンなら1杯までと制限するってルールを決めたのだ。レジェンドとは過去の反省を忘れない謙虚で真摯な気持ちの持ち主でもあるのさ。


とにかく初期段階での情報収集は夜のバーにある、これは太陽が西から登ろうが月が3つになろうが、変わらない鉄則なんだ。後はそれが俺の魂と共鳴する店が見つかるかどうかってだけなのさ。


一人客がカウンターに居る店を狙おう、常連っぽい地元民なら色々と情報を持っているし、普通の人間ならちょっと街を誉めれば、街自慢をしたくなるものなのだからな。


おっと、おあつらえ向きな、カウンターに一人客が何人か座ってるバーがあるじゃないか。


よし、今夜はここから開始だ。俺もカウンターに座った。


「バーボン、ロックで。」


コンッ グラスが置かれた。グラスの半分くらいに琥珀色のバーボンが入っている。たぶん、ツーフィンガー位なのだろうな、これが普通だろう。今考えてみれば、昨夜の暴力バーで出てきたのは、バーボンじゃなく、麦茶とか、単なる色付き水だったのかもしれないな。どうせ飲む前に外に連れ出すんだし、あんなに適当に注ぐのもおかしい。普段の俺なら直ぐにおかしいと気づいたはずだが、やはり異世界ってこともあって、第六感が働かなかったんだな。まぁ、この世界にも徐々に慣れてくるだろう、なにせ俺はレジェンド探偵、俺の辞書に不可能って言葉は載って無いからな。


ぼちぼち始めようか。隣のビール片手に新聞読んでるおっさんに声をかけてみよう。


「こんばんは、地元の方とお見受けしました。実は俺、この街初めなんだけど、街の様子が気に入って、しばらく滞在しようと思ってて、色々と街の様子とか教えてもらえたら嬉しいんだけど。」


「やぁ、こんばんは。この街が気に入ったのかい、ここは住みやすい街だからね。気候も良いし、何十年も戦争も無いし、食べ物もの豊富で旨いしな。まぁ、気に入ってくれたならゆっくりしてきなよ。」


そう答えると、おっさんはまた新聞を読み始めた。


なんだ、なんとも中身の無い情報だな。まぁ、新聞読み始めたってことは、話に乗ってこないってことだよな。まぁ、中には一般論の通じない変人もいるからな、仕方ない。次だ次、次行ってみよう。


「こんばんは、地元の方とお見受けしました。ここ、良い街ですよね、ここに住もうかと思ってるんだけど、住むならどの辺がお勧めですか?」


「え?ここが良い街だって? お勧めなら断然山の向こうのグラブリンド王国の方が良いに決まってる、オレの故郷さ。こんなかび臭い王国とは段違いだぜ。」


あちゃぁ。。だめだこりゃ。


同じカウンターで2人声かけちまったから、もうここで次は厳しいな。河岸を変えるとするか。


俺は残りのバーボンを一気にあおった。


 向かいのバーを覗いてみる。カウンターにも客が居るが、客層が若いな、ここはちょっと違うかな。


隣の店、ライブバンドが入っていて飲むにはいい雰囲気だが、会話はできないな。


次の店、カウンターに一人客が多いが、常連のようで、皆で話が盛り上がってるようだ、ここには割って入れないな。


俺の第六感が震えるような店がなかなか無いぞ。


更に進んでみたが、酒場や食事処は多いが、カウンターのあるバーはあまりないようだ。


これではコミュニケーションモンスターとしての俺の実力が発揮できんじゃないか。


ん?ふと路地の奥を見ると、屋台が出ている。何か湯気が出ているぞ、おでんのようなものだろうか? 客が一人、これだ、これだよ。庶民手的な情報収集と言えば屋台のおでんだよ、なんで俺はこんな基本的なことを思い出さなかったのだろう。


小さな飾りのような暖簾を持ち上げた。


「どうも、俺一人だけど、大丈夫?」


「らっしゃいせー。じゃ、こっちどうぞ。」


鉢巻き姿で細身の初老の店主が右端の先客とは反対の左端の席をすすめてくれた。


「とりあえず、ビールを。 俺、この街初めてなんだけど、お勧めのつまみってなんだろう?」


「ちょうどスクーゼが煮えた所だよ。あ、この街の名物料理の一つ、魚のすり身と野菜の団子を煮つけたものだよ。」


「いいねぇ、じゃ、それ一つ。」


「はいよ。」


「お、煮えたとこなの? 良いじゃねぇか、オレにも一つくれよ。」


右端の先客も同じものを注文した。


これは完全にフラグが立ったな。


「あ、やっぱりスクーゼって皆さんに人気なんですね。」


俺は先客に話を振ってみた。


「あぁ、ここの郷土料理さ。家庭毎に味が違うんだ。つってもオレは一人もんだから、オレのおふくろの味は、このマッチ棒オヤジの店のスクーゼってことになっちまったがな。ガハハ。」


「なにがおふくろの味だよ、この味付けはヤマちゃんのレシピじゃないか。」


店主が突っ込んだ。完璧だ、もともと屋台は一体感を作り易い環境だが、俺の絶妙な一言だけでもう既に完成してしまったぞ、俺は俺の才能を誉めてやりたいぜ。


「へぇ。これはお客さん、いや、旦那、さん、かな、の味付けなんですか。」


「あぁ、オレんちは貧乏だったからよ、魚が少なめ、野菜多めなんだよ。貧乏スクーゼってこったな。ガハハハ。」


「それはヘルシーってことですね。」


「おー、ヘルシーか。物は言いようだな。ガハハハ。 そういやぁ兄さん、ここ初めてって言ってたよな、こんな貧乏、あ違った、ヘルシーなスクーゼが本当のスクーゼだなんて思わないでくれよな。普通はもっと魚のすり身でもっちもちなんだからよ。」



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