第57話 今夜の星は綺麗か?
「ひとつ喰ってみなよ。」
ウメちゃんが皮骨を一つ摘まんで、ポイっとオレに渡してきた。
「サンクス。」
ウメちゃんを真似て前歯で骨の周りに残った肉や皮をそぎ落としながらしゃぶってみる。
なるほど、骨の周りの肉は美味しいとか、Tボーンステーキとか、骨付きカルビは旨いっていうけど、これは、それの究極版ってことかな?
ただ、究極過ぎて、ほとんど、食べるところが無いけどな。
「どうだい? まぁ、皮骨は食べ物ってか、しゃぶって楽しむ、酒のつまみだから、腹は全然満たされないけどな。まぁ、懐にやさしい、路地裏のつまみなのさ。」
ウメちゃんがにこやかな表情だ。
「ところでお客さん、しばらくヴァルトベルクに居るみたいだけど、旅の人なのかい?」
鉢巻姿の店主がカウンターにスクーゼを置きながら言った。
「まぁ、旅の途中みたいなもんではあるけど、オレの稼業は探偵なんだ。大きな探偵事務所には属さない、孤高のレジェンド探偵なんて呼ばれてるさ。だから、街から街へ、旅をしながら好きに暮らしてるさ。 大きな意味では旅人ってことだな。」
「へぇ、あんた探偵さんか。それもレジェンド探偵さんね。 ここでも何か依頼を受けてるのかい?」
ウメちゃんがこっちを向いて聞いてくる。
「あぁ、今は魔道具屋の依頼を受けて動いてるところだ。なぁに、もうじきに解決する案件だけどな。」
「そうなのか、そりゃ凄いな。 そのレジェンド探偵さんってのは、その辺の探偵より報酬が高いんだろ?」
「いや、探偵ってのは金儲けのためにやるもんじゃないんだ。オレが仕事の依頼を受けるのは、魂が揺さぶられるような案件だからなのさ。だから、報酬額なんてのは二の次さ。」
「そんなものなのか。なんだかすげぇな、レジェンド探偵さんってのは。 それならちょっと聞いてくれよ、最近、知らねぇ奴らから、声をかけられることが多くて、なんだか気持ちが悪いんだ。 それってなんだろうな?」
「なんだそりゃ? 逆ナンされるって自慢話の一種か? うらやましい話だな。」
「がははは、違うよ、お姉ちゃん達に声かけられるんだったら、毎日でも全然ウェルカムだろ。ちがうんだよ、変な、パッとみヤバそうな連中からばっかり声かけらえるんで、ちょっと気になってんだよ。」
「ヤバそうな連中? そりゃ類は友を呼ぶってことなんじゃないのか?」
「類は友を呼ぶって、オレのことか? 何言ってやがる、この善良な市民の代表みたいなウメを捕まえて何てことを言いやがるんだ。 まぁ、見た目は確かに、否定はできねぇけどよ。 ガハハハ。」
「だろ? まぁ、ちゃんと自覚してるならそれで良い。で、声かけられるって、何て言ってくるんだ?」
「それがよ、みんなが決まって『今夜の星は綺麗か?』って聞いてくるんだ。気持ち悪いだろ?」
「セリフだけ聞いてるとロマンチックだけど、それを、見ず知らずのヤバいおっさんに言われたら、確かに、オレでもそれは気持ち悪くなるな。」
「だろ? で、これはなんなんだ? レジェンド探偵さんなら解決できるんじゃねぇか?」
「いやいや、確かに気持ちは悪いけど、事件でもないし、オレ達は超能力者でもないから、それが何で起きてるかは解らんよ。」
「そういうものなのか? なんだよ、期待したのに・・。」
「まぁ、ヤバい連中に不思議な事言われて、気持ちは良くないかもしれないけど、被害があるわけじゃないし、まぁ、良いじゃないか。」
「そりゃ、命の危険はないみたいだけどよ。 いや、まぁ、考えようによっちゃ、危険が無いってだけでもラッキーなんだと思えば良いか。 よし、じゃ、このラッキーに乾杯だ。そうだ、マスターも一杯付き合ってくれよ。」
ウメちゃんがぬる燗が入ったグラスを高く持ち上げた。
「乾杯」
「カンパイ」
オレと鉢巻姿の店主はビールのグラスを持ち上げる。
ウメちゃんが3杯目のぬる燗のグラスを空にした所で、ゆっくりと立ち上がった。
「よし、それじゃ、オレはちょろっと歌ってくるわ。」
「あいよ、毎度。」
鉢巻店主が右手を軽く挙げた。
「歌ってくる?」
「うん? あ、そうかレジェンド探偵さんは、この街詳しくなかったな。この先の店で、バンド演奏で歌える店があるんだ。 レジェンドさんも一緒に行くかい?」
バンドの伴奏で歌うって、カラオケのリアル版みたいなもんか?
「ほぉ、面白そうだな。一緒に行ってもいいのか?」
「もちろんだ、よし、行こう。」
2人で屋台を出て最初の角を左に曲がった。
「ほら、あの灯りが漏れてる店があるだろ。あれが歌の店なんだ。」
「へぇ、あんなところにも店があったんだな。知らなかったよ。」
歌の店へ向かってゆっくりと歩いていると、ふと、暗がりから男が現れた。
そのままスッとウメちゃんに近づくと、小さな声で呟くように囁いた。
「よぉ、今夜の星は綺麗か?」
「はぁぁ? なんのことだよ?」
ウメちゃんは男から離れながらそういうと、男はそのまま、また暗がりの中に消えていった。
「レジェンド探偵さんよ、ほら、見ただろ。これだよ、これ。」




