第56話 皮骨
潔く、スプーンが1本刺さってるだけで、飾りも無いパフェを一口食べてみる。
パクっと。
「おっと、期待を裏切らない、ほろ苦く焦がしたキャラメルソースと黒糖のこっくりした甘味が合わさった濃厚な味だな。オレはこれ、嫌いじゃないぞ。」
「そうね、やっぱり大人のパフェって感じだね。」
「パフェは甘いっていう概念がぶち壊されたよ。甘いどころか、もう苦みすら感じるぞ、このパフェ。そうだな、カフェに説教されてる気分だ。」
「はっ、また始まった。これからそういうのをアサクラ節って呼ぶことにするわ。」
「キミ、最近、失礼度が増してきてないか?」
「我慢しなくなっただけよ。」
「・・ホントにああいえば、こう言うって感じだな。文句言うならこのパフェも自分で払えよな。」
「あ、このパフェ美味しい。たぶん、レジェンド探偵様と一緒に食べてるからだわ。こんな素敵な機会がもらえるなんて、アタシ、レジェンド探偵様の助手になれて、とても幸せだわ。」
「なんなんだよ、その棒読みセリフは・・。」
パフェを食べ終えて、王宮の周囲を一周した後、市場を通ってホテルへ戻った。
「ねぇ、今夜はもう張り込みはしなくて良いのよね?」
「何言ってるんだ? 犯人が捕まるまで張り込みは継続。そりゃ常識だろ?」
「ぐぇぇ。で、それ、またアタシの役目なの?」
「それが助手の仕事だろ。 さっきパフェ喰ったよな?」
「ちぇっ、高いパフェになっちゃたな。 しょうがない、じゃ、アタシ、今のうち少し仮眠しとくよ。」
そう言ってネコ娘はさっさと窓際のベッドへ潜り込んだ。
まったく、すぐ、いつでもどこでも寝るのもネコそのまんまだよな。
とは言え、オレも夜の情報収集活動に備えて少し横になっておくかな。
ベッドに横になると、すぐに眠気がMAXでやってきた。
こういう昼寝って、気持ち良いんだよな。 うん、寝ちゃおう。
目が覚めた時には窓の外はすっかり夕方の景色になっていた。
ネコ娘は・・まだ寝てやがる。
「おい、そろそろ魔道具屋が閉店する時間じゃないか? 張り込み始めないと。」
「・・うん? あ、ホントだ。」
意外と素直にすっとベッドから出て顔を洗いに行った。
さて、ネコ娘は張り込み行くなら、オレはどうするかな。
昨日の巻き串は気に入ったけど、同じものを食べるってのはちょっと芸が無い。
「じゃ、行ってくるね。」
身支度を整えたネコ娘が部屋を出て行った。
色々と文句を言ってた割りには素直に張り込みに行くところを見ると、今の生活はまんざらでもないのかもしれないな。まぁ、マグメトリア監獄にずっと閉じ込められてることを考えれば、比較のしようもない位良い生活だよな、今は。
さて、そんなことより、オレも出撃しよう。
まずは大通りへ出る。そして、オレの第六感に任せて裏道へ入ってみる。
飲み屋は多いけど、オレが求めてるのとはちょっと違うんだよな。
路地の奥を覗くと、屋台があった。
あれって、オレがこっちに来て2日目の夜に行った屋台じゃないか?
小さな飾りのような暖簾を持ち上げる。
「らっしゃいませー。あ、まいど。」
鉢巻き姿で細身の初老の店主はオレの顔を覚えていてくれたみたいだ。
まだ屋台が活気づく前の時間帯だからか、客は誰もいない。
「ビールを頼む。あと、たしか、おススメはスクーゼだったよな、一つ頼むよ。」
「はいよ、ビールとスクーゼね。」
すぐに瓶ビールとコップが出て、それを追いかけるかのようにスクーゼが出てきた。
「そうそう、これこれ、スクーゼ。魚のすり身と野菜の団子が癖になるんだよな。」
「お客さん、スクーゼで一杯なんてもうすっかり街に溶け込んでますね。」
「あぁ、最近昼飯は根魚煮食べたりしてるし、つまみはカラカラの実なんで、もうヴァルトベルク通だよ、ハハハ。」
「そりゃ、もう完璧だ。あははは。」
しばらく店主と与太話をしていると、暖簾をくぐってオッサンが一人入ってきた。
「ぬる燗な。」
「ウメちゃん、お疲れさん。」
常連客との店主の阿吽の呼吸、こういうのは見てても気持ちいいよな。
ウメちゃんって呼ばれてる客の前に、コップ酒と砕いた骨が乗った小皿が出された。
え? なんだこれ? まさか、この骨が食べられるのか? 見た目はほぼ残飯だけど、まぁ、不思議な料理がある世界だしな・・。
「この、骨みたいなのは何て言うんだ? 骨ごとバリバリ食べる感じかな?」
あまりの残飯風のビジュアルについ言葉が出てしまった。
「あ? 骨は食えねぇよ、オレは犬じゃねぇからよ。」
ウメちゃんがちょっと気分を害したように応えた。
「あ、ウメちゃん。こっちのお客さん、ヴァルトベルクの人じゃないんだ、だから皮骨を知らないんだよ。」
「あぁ、そういうことか。オレはまた、骨まで喰えって言われたのかと思っちまってよ、ガハハハ。 これは、見てくれは悪いけどうまいんだ。 ほら、こうやって喰うんだよ。」
ウメちゃんはそういって、骨を1個つまんで、前歯で骨の周りに残った肉や皮をそぎ落としながらしゃぶり始めた。




