第54話 見えた?
「こんにちは。マルティンさんはいらっしゃいますか?」
ネコ娘が店の奥に声をかける。
「はいはい、あ、レジェンド探偵さん達か。ちょうど良いところへ来てくれた、昨夜もやられたんじゃよ。」
「はい、今、その話を根魚煮の食堂で聞いて、飛んできたんですよ。」
「そうか、それはわざわざ有難い。」
「早速だが、昨日の詳細を教えてもらえるか?」
「それじゃ、こっちで話そうか。」
マルティンさんが店の隅にある、商談用の小さな丸テーブルへ案内してくれた。
3人が椅子に座るとすぐにマルティンさんが話し始めた。
「今朝、倉庫へ入ったら、またしても夜眼水晶が2個減っとるんじゃよ。もちろん、ドアのカギも、窓も壊されてはおらんかった。」
「昨夜・・か。 実は昨夜はコイツが店の正面で張り込みをしていたんだが、ある程度の時間までは何もなかったはずなんだ。 昨夜の件、どんな感じだったか説明してくれ。」
ネコ娘の方を見る。
「うん、昨日は夜中の12時まで正面を見てたんだけど、特に怪しい人は出てこなかったな。」
「そうか、そうなると裏口を使ったってことなんだろうな。」
「普通、泥棒と言えば裏口を使うもんじゃないんかね?」
マルティンさんが少し不思議そうな表情を浮かべた。
「まぁ、普通の窃盗ならそうだな。ただ、今回はほぼ内部犯行だから、あえて正面玄関を使うことで、普段通りであるってことを装う可能性があると踏んだんだ。」
「なるほど、そういう意図か、さすがはレジェンドさまじゃ。」
「ただ、結局正面はなにもなかったんだがな。 まぁ、こうして地道に犯人を追い詰めてくのがオレ達の仕事なのさ。」
「それは骨の折れる仕事じゃの。 そうだ、うまいお茶を貰ったんじゃ。 今持ってくるから一緒に飲まんか。」
マルティンさんが奥の部屋へ行ってしまった。
「それじゃ、今夜からは裏口を張り込んでくれ。」
「えぇ? またアタシが張り込みするの?」
「それが助手の仕事だろ。」
「うーん、まぁ。 裏口ってどのあたりになるんだろう?」
「あれ? 裏口見てなかったか? 裏口は大通りから1本、いや、2本だったかな、裏道にあって、その周辺だけ店が無いんで、客引きが良く立ってる場所だよ。」
「客引きが立ってる? 良く知ってるわね、そんなこと。」
「あぁ、じつは昨日ちょっと世の中を知らない客引きが居たんで、少し指導してやったんだ。」
「なにそれ? ちょっと気になる話ね。 なにがあったのよ。 どうせ客引きの口車に乗せられて、またぼったくられたんでしょ?」
「甘いな、オレがぼったくりなんかに引っかかるわけがないだろ。」
「で? 何があったの?」
「昨日は巻き串っていう、薄切り肉を巻いて串に刺して焼く料理があって、それを喰ったんだ。まぁ、そこでは食べ物に関する情報収集しか出来たかったんで、次の店に行こうとしたときに、裏口の辺りで客引きに会ったんだよ。 まぁ、金額自体はぼったくりじゃない、というか、客引きの言う通りだったんだが、いかんせん内容があまりにもショボすぎたんで、客引きにまっとうな商売することの意義を教えてやったってことさ。」
ネコ娘の目がキラっと輝いた気がした。
「凄いじゃない、そんな大人の対応するなんて、流石はレジェンド探偵様だわ。」
そう言ってすっと両手をオレの両手に被せてきた。
ふん、ネコ娘の癖に一丁前に感動なんかもする・・・あ、違う!
「こら! 勝手に人の記憶を見るなって!」
サッと手を離した。
「へぇ、確かに金額は嘘じゃなかったってことね、でも、貴方ってダンディなレジェンド探偵さんだったわよね? それが鼻の下伸ばしてプチキャバクラ入って、デイケアセンターのヘルパー体験して、なにも飲まずに店を飛び出しちゃったのね。ダンディが聞いて笑っちゃうわね。」
「何度も言ってるが、情報収集だ。店の内容なんか関係ない、情報が集まってそうな店に行く、それだけだ。」
「あらそう。それじゃなんで1杯も飲まないで、素敵なお姉さま達とも話もしないで店を出ちゃったのかしらねぇ? 素敵なお姉さま達だって立派な情報源じゃないのかなぁ? なんででしょうねぇ? レジェンドさん?」
「く・・。それは、ほら、あの例の・・。」
「あ! ちょっと、もう一度今のシーン思い出して!」
突然ネコ娘が大きな声を出した。
「はぁ? 何言ってんだ。オレの記憶を人に見せるなんて嫌なこった、って言ったろ。」
「違うのよ! 見えたのよ! 良いから、ほら、早く!」
ネコ娘の剣幕に押されてもう一度同じ話をする。
「昨日は巻き串喰って、裏口の辺りで客引きに会って、その店行ったけど、ぼったくりじゃないけど、内容がショボかったんで、客引きに文句言ったんだ。これでいいか?」
「ちょっと、ゆっくり見させてね。」
ネコ娘が右手でオレの左手をギュッと握ってくる。
勢いに押されちゃったけど、記憶を見られるのは嫌なんだよな・・。
「やっぱりだ!」
ネコ娘の声が更に大きな声を出して、パッと手を離した。
「なんなんだ、さっきから。ちゃんと説明しろよ。」




