第52話 冷たいヂケヌ
「遅かったじゃないの。」
部屋のドアを開けると、ネコ娘が窓際のベッドに腰かけていた。
「あぁ、ただいま。いろいろと情報収集できたよ。そっちは収穫あったのか?」
「情報収集? 飲み歩いてただけでしょ、酒臭いし。」
「昨日も言ったろ、情報は足で稼ぐ、これこそがレジェンド探偵と言われる理由だって。キミはヴァルトベルクにいくつの侯爵家があるか知ってるか?」
「侯爵家は12でしょ? それ、宮殿のヴァルトベルクの説明に書いてあったよ?」
「・・じゃぁ、その12の侯爵家の中でも、大侯爵家、中侯爵系、小侯爵家があるのは知ってるか?」
「へぇ、それは書いて無かったな。」
「ほらみろ、オレは、ちゃんと足でその情報を調べたんだぞ。」
「はいはい、凄いですねー、流石はハートブレイクでパンティな、友達のいない孤独なレジェンド探偵様ですね。」
「ハードボイルドでダンディ、だ。 まぁいい、で、結局キミの方はどうだったんだ?」
「怪しい人の出入りは無かったわ。」
「そうか、まぁ、そう簡単に尻尾を掴ませてくれることもないだろうから、じっくりやるしかないな。 今夜は遅い、もう寝よう。お疲れさん。」
「そうね、お休みなさい。」
翌朝、鳥の鳴き声で目が覚めた。こうやって自然の音で目覚めるなんて、贅沢の極みだな。
窓際のベッドを見ると、ネコ娘が、・・また居ない。
ちょっと目を離すとすぐ居なくなるな、まったくネコみたいな奴だって、ネコ族だからそれで良いのか。
「あ、起きたの? おはよう。」
ネコ娘がバスルームから出てきた。
「あぁ、おはよう。シャワーしてたのか?」
「ううん。これ切ってたんだよ、朝食べようと思って。」
ネコ娘が手にした皿には三角形のスイカみたいな形の黄色い果物がのっていた。
あ、あれ、昨日のヂケヌか。
「昨日から冷やしてたヂケヌだよな。よし、食べてみよう。 あ、そういえば、昨日の夜、ヂケヌを串焼きにしたのを食べたぞ、ヂケヌは焼くとホクホクでジャガイモみたいな感じになるんだな。」
「え? ガジャイモ? なにそれ。 良くわからないけど、焼きヂケヌ食べたんだ、そうそう、焼いてバター乗せても美味しいよ。」
「そうか、ジャガイモ知らないのか。 でも、まぁそれは、結局はジャガバターってことだから、そりゃうまいだろうな。」
「でもね、そうは言っても、ヂケヌは冷やして食べるのが一番なのよ。」
ネコ娘がヂケヌを一切れ渡してきた。
それじゃぁまぁ、頂いてみますか。 パクっとな。
うを、めちゃめちゃジューシーで、昨日の焼きヂケヌと食感が全然違うぞ。冷やすと焼くとでこんなに違うのか、面白い果物だな。
「ふーん、冷やして食べるとこんな感じなのか。結構イケるんだな。」
「あら? 貴方にしては珍しく肯定的なことを言うのね。」
「何言ってるんだ、オレは常に何も忖度せずにオレの物差しで話してるだけだぞ。」
「はいはい、そうですねー。はい、そうですね。 で、今日はどうするの?」
「なんだよ、朝っぱらからカチンと来るな。まぁいいや、今日も街を歩いて、情報収集だ。途中で魔道具屋にも寄って、状況聞いてみたいしな。」
「じゃぁ、またランチに昨日の根魚煮食べない? アタシ、気に入っちゃった。」
「あぁ、オレもそれでいいぞ。あの優しいスープは胃にも良さそうだしな。」
「胃にもよさそう? あれ? もしかして二日酔い?」
「いや、そんなことないぞ。昨日の情報収集は、串焼き屋とバーだけだから、二日酔いする程は飲んでない。 あ、そうだ、そのバーで仕入れた情報だけど、侯爵家には、大侯爵家、中侯爵家、小侯爵家があって、領地、街の中は王家直属の騎士団が守ってるんだけど、街の外の警戒は侯爵家が対応してるんだそうだ。で、昨日もまた商人の隊列が襲われたんだって話だった。」
「へぇ、そうなんだ。やっぱりカール様の荷馬車と関係ありそうだね。」
「まぁ、今の段階では何も証拠はないけど、相当グレーではあるよな。 念のためにガラハット団長に報告しておいても良いかもしれないな。こっちも依頼を受けてる以上、多少でも進捗っぽい報告はしといた方が良いだろうしな。」
「へぇ、ハートブレイクでパンティな、友達のいない孤独なレジェンド探偵様でも、そういう処世術みたいなことは知ってるんだね。」
「何度も言ってるが、ハードボイルドでダンディ、だ。それと友達は居る、それもめちゃめちゃ大勢居る、居すぎて困っちゃってるくらいだ。 あと、これは処世術とかいう小手先の話じゃない、クライアントの信頼を得るってのはクライアントの懐刀になるための必須条件さ。まぁ、オレ位のレジェンドになら・・」
「さ、もう街へ行きましょ。ちょっと歩いてからの方が、根魚煮が美味しく食べられるしね。」
「あのな、これも何度も何度も言ってるけど、人が話をしてる時は、上から話を被せてくるなよな。」
カチャ。
人の話をこれっぽっちも聞いてない感じでネコ娘が部屋のドアを開けた。
「さ、行こう!」
「ちぃっ、ほんとに聞いてないな。 まぁ、いいか、じゃ、行こうか。」
2人でホテルを出て、市場へ向かった。




