第47話 根魚煮
「野菜と魚の煮物っぽい、すごく良い匂いがしてて、それに惹かれてきちゃったんですよ。」
ネコ娘がおばあさんの方を向いた。
「あぁ、それなら根魚煮ですね。うちの根魚煮は隠し味に、麦発酵ペーストが入ってて、仕上げにハーブを少し加えてるんで、コクと香りが良いんですよ。」
「根魚煮? って何かな?」
ネコ娘が軽く首を傾げた。
「あら、あなたたち、街の人じゃないの? 根魚煮はヴァルトベルクで昼食の定番メニューで、白身魚と根菜をじっくり煮込んだ料理なのよ。 麦パン、ヤギのチーズが定番のセットメニューね。」
「ヴァルトベルクの定番昼食だって、食べてみようよ。」
ネコ娘がオレの袖を引っ張った。
「あぁ、食べてみよう、オレもまだ食べたことないしな。 じゃ、それを2つもらおうか。」
「根魚煮は麦パンとヤギのチーズのセットでいいんだよね?」
「あぁ、そうしてくれ。」
「はい、根魚煮セット2つ、すぐお持ちしますね。」
エプロン姿のおばあさんが厨房へ入っていった。
「ヴァルトベルクって、色んな名物料理があるんだね。宮廷では鶏の香草煮込食べて、昨日はブラウント・エッグとドライ・ピクルス、あとフロストチーズも食べたよね。」
「そうだったな。オレは以前、街の酒場で鶏の香草煮込を食べたけど、オレ的にはそっちのワイルドな感じの鶏の香草煮込の方が美味かったな。なんていうか、バーボンに合うパンチがあったんだ。」
「へぇ、アタシはブラウント・エッグとドライ・ピクルスが気に入ったわ。 フロストチーズは2度目は無い感じだけどね。」
「あぁ、フロストチーズはダメだな。あれはもう腑抜けた、腰砕けチーズだ。」
「はい、お待たせね。」
エプロン姿のおばあさんが大きなトレーから素焼きの深鉢を2つ、オレとネコ娘の前に置いた。
こげ茶色の深鉢は、縁に小さな欠けや釉のムラがあって、相当使い込まれていることがわかる。店の雰囲気といい、この使い込まれた食器といい、ここもまた当たりな店かもな。
素焼きの深鉢の横には小ぶりな茶色の塊、これが麦パンなんだろう、多少黒く焦げてる部分もあって、店で作ってますって感じがする。
同じ皿にちょこんと盛られてる親指2本分位の淡いクリーム色のちょっと不格好な三角形の塊がヤギのチーズなんだろうな。もしかして、チーズも自家製なのかな?
「なんだか素敵な入れ物ね。早速頂いちゃおうっと。」
ネコ娘が大きめの木のスプーンで根魚煮を一口食べた。
「あら、全然魚の臭みがしないんだ。根菜の甘みに発酵麦の香ばしさがアクセントになってて美味しいわ。うん、ハーブの青い香りも後からふわっと来る。」
「ほう、じゃ、オレも頂くとするか。」
うん、確かに根菜の甘味の優しいスープだ。でも、魚の出汁でコクもしっかりあって、なかなか美味いじゃないか。
「麦パンは、かなりズッシリ、ギッチリしてるね。割ってみよっか。あ、中身もギッシリ、モッチリだ。」
ネコ娘は半分に割った麦パンを更に小さくちぎって口に入れる。
「もっちもちだ。 でも、特に味があるわけじゃないんだ。」
「汁物と一緒に出てきてるから、このスープに浸して食べるんじゃないか?」
「あ、そっか、やってみようっと。 うっわ、麦パンすっごい膨らんだよ。 パクっと。 ・・・うん、噛むたびに魚の旨味と根菜の甘みがじんわり染み出してくるよ。」
「ほほう、それじゃオレも試してみるか。 なるほど、もともとの麦パンの噛み応えと、煮汁のジューシーさの両方が感じられて、これもかなりイケてるな。」
食事が終わるとエプロン姿のおばあさんが食器を片付けて、ブドウのような果物を出してくれた。
「これ、ウチの庭で採れたグロスベリーなの、サービスね。」
「うわ、ありがとう。」
「これも、ヴァルトベルクの特産品なんだよ。 ほら、お二人はこの街初めてみたいだからね。」
「そうなの、ヴァルトベルクって、色々な名物料理もあって良いところね。」
「そうかいそうかい、それは良かった、楽しんでってね、 ってそうか、観光できたのかい? それともお仕事かい?」
「あぁ、仕事だ。オレはハードボイルドでダンディな群れない孤高の探偵、ここだけの話、レジェンド探偵と呼ばれる探偵の一人だ。」
「え? 探偵さんたちだったの? それもレジェンド探偵? あらまぁ。 ねぇ、マルティンさん、この方たち探偵さんだってよ? それもレジェンド探偵さん。」
カウンターで飲み物を飲んでいた初老の男性がこっちを向いた。
「へぇ、レジェンド探偵さん? そりゃぁ、ちょうど渡りに船ってやつじゃ、最近、ウチの倉庫からいつも同じ魔法具が盗まれてて困ってるんじゃよ。 騎士団にも相談したんじゃけど、巡回に来る回数がちょろっと増えただけで、犯人捜しまではやってくれないんじゃよ。 探偵さんならしっかり犯人見つけてもらえるかな?」
「窃盗ってことだな、それもオレの専門分野だ。 未だかつて解決できなかった窃盗事件はひとつとしてないな。」
「そりゃ頼もしいな。ぜひ頼むよ、よし、今からウチに行って現場を見てもらえないか。」




