第43話 助手
店内が少し落ち着いてきたころを見計らって、店の女性スタッフに話かけてみた。
「ヴァルトベルクの名物料理を色々紹介してもらったけど、そもそもヴァルトベルクってどんなところなんだい? ほら、オレたち、ヴァルトベルク初めてなんで。」
「そうね、ヴァルトベルクは昔からの王国で、戦争もなくて食料も豊富で、景気も悪くない良い国だったんだけど、最近はちょくちょく、商人の隊列が襲われたとか、北の林に不審な焚火の跡があったとか、少し物騒な話を聞くようになったんで、街のみんなも心配しているのよね。まぁ、街の中に居る分には地域最強と言われてる騎士団も居るし、全然心配ないから、ヴァルトベルクを楽しんでってよ。」
「へぇ、そんなことがあったんだ。それじゃ、城の外に出るのは止めておいた方がよさそうだな。こうして名物料理食べて飲んでる方が楽しいしな。」
「そうそう、そういうことですよ。ウチは24時間営業してるから、朝も昼も夜も、何回食べに来てもらっても大丈夫ですからね。 ふふふ。」
女性スタッフが軽く笑い声を立てながら、厨房の方へ戻っていった。
「商人の隊列が襲われたって、それって、あの子、カール様だっけ?、を見つけた時の馬車と関係あるのかな?」
「あぁ、まだわからないが、関係ありそうな雰囲気だな。ほら、どうだ? こうやって情報収集を進めていくんだ。」
「へぇ、ちょっと見直しちゃった。貴方、案外まともな探偵さんでもあるのね。」
「案外ってなんだ、心外だな。オレは最初から何度も言ってるとおり、ハードボイルドで群れな・・」
「じゃ、情報収集開始を祝って、もう一度カンパーイ!」
ネコ娘がバーボン・ロックのグラスを高く持ち上げた。
「だから、人が話してる時に上から被せてくるなって言ってるだろ!」
「うん、やっぱり、ドライ・ピクルスってバーボン・ロックにあうよね。」
「ちっ、全然人の話も聞かないのかよ。まぁ、そんなことより、オレは、そのドライ・ピクルスは好きじゃない。絶対にブラント・エッグの方がうまいぞ。」
その後も飲み続けて、結局、ネコ娘はバーボン・ロックを6杯、オレは3杯飲んで、気持ち良くなって宿に戻った。
もちろん、一人でロックグラスをかたむけるのが最高だけど、たまには、人とこうやって話しながら一緒に飲むのも楽しいもんだな。
宿の部屋に入ると、ネコ娘はすぐに窓際のベッドの上に転がった。
「ねぇ、アタシ、爪鋭いからね。」
ネコ娘が目を細めてオレを見てる。
「はぁ? どういう意味だよ。オレがネコ娘なんかを襲う、とか思ってるのか?」
「念のため言ってみたのよ、ね・ん・の・た・め。それ以上でもそれ以下でもないわ。」
「なんなんだよ、それ。いいから早く寝ろよ。 明日は朝から街へ出かけるんだぞ。」
まったく、ネコ娘の癖に一丁前なことを言いやがって。
だいたいオレは・・
チュン、チュン、チュン
鳥の鳴き声で目が覚めた。ん? あれ、ここは何処だっけか? 鉄格子が無いってことは監獄ではない、かといって、綺麗な装飾の天井でもないってことは宮殿の客室でもない。 あ、そうか、街の宿屋を1週間借りたんだったな。 そうか、夕食の後に、もう一軒飲みに行って、ザルみたいなネコ娘のせいで飲みすぎて、ベッドに潜り込んだ瞬間にバタンキューだったってことか。 見事な位の寝落ちを決めたんだな。
うん? ってことは、隣にアイツが居るんだな。
隣のベッドを見ると、ヤツが・・あれ? 居ないぞ?
ベッドから出て、トイレとシャワーを見る。
あれ? シャワーでも無い?
何かあったのか?
別にオレはネコ娘の保護者って訳じゃないけど、一応オレの助手ではあるからな。
急いで着替えて、フロントに聞いてみようか。
部屋を出たところで、階段の方から歩いてくるネコ娘を見つけた。
「あら、おはよう。」
「あら、おはようじゃないよ。急に居なくなったから心配したんだぞ。何してたんだ?」
「えへへ。これ、果物買いに行ってたんだよ。 一緒に食べようよ。」
ネコ娘と部屋に戻る。
「なんで朝っぱらから買い物に出かけたんだよ。」
「ほら、昨日給料もらったでしょ? アタシ、自分のお金で買い物なんてしたことなかったから、一人で買い物とか夢だったんだよね。で、朝、目が覚めたらもう我慢できなくなっちゃって、買い物に行ったんだよ。」
「ふぅん、買い物初めてか。で、どうだった?」
「楽しいね、色々選んで良いんだもんね。ほら、こんな美味しそうな果物が買えたんだよ?」
ネコ娘が紙袋から、リンゴみたいな赤い果物と、バナナみたいな黄色い果物を取り出した。
「今切るから、ちょっと待ってて。」
ネコ娘が窓際のテーブルで果物を切り始めた。
「はい、じゃ、半分づつね。」
小さな木の皿にリンゴみたいな果物とバナナみたいな果物が一口大に切られて盛られている。
「この赤い、リンゴみたいなのは何て果物なんだ?」
「こっちの赤いのはルビナ、こっちの黄色いのはサンバルだよ。」
「ふうん、じゃぁ、まぁ、頂くとしようか。」




