第42話 情報収集の一つ
「ハイ、ドライ・ピクルスとフロストチーズ、お待たせしました。」
テーブルの上にブラント・エッグ、ドライ・ピクルス、フロストチーズと、ヴァルトベルクの名物料理とやらが3つ並んだ。
「あ、アタシ、これもう一杯お願いします。」
ネコ娘がバーボン・ロックのグラスを持ち上げた。
あ、ネコ娘、もう飲んじゃったのかよ。オレ、まだ半分以上残ってるんだぞ?
「ハイ、バーボン・ロックお替りですね。」
「アタシ、このブラント・エッグって、話では聞いたことあったけど、見るのも食べるのも初めてなんだよね。 食べてみていい?」
そう言い終わるや否や、ネコ娘がブラント・エッグをパクっと食べた。
「あら、ホントだ。香ばしい匂いと味がして面白いね、これ。」
「どれどれ、香ばしい玉子ってどんなもんだよ。」
オレも一つ口に入れる。
あ、確かに香ばしい匂いと味だ。 それに想像より、ゆで卵のプニプニ感が無くなってて、これはバーボン・ロックにベストマッチだな。
「オレ的には、ドライ・ピクルスってのが気になってるんだ。だって、ピクルスってわざわざ酢で漬けた野菜だろ? なんでそれを乾燥させちゃったんだよ。 まぁ、良い、食べてみりゃわかるだろ。」
パクっと。
うーん、酸っぱさと塩気がぎゅっと詰まった、サクサクの酸味おやつみたいな感じだな。今まで経験したことのない感じの食べ物であることは間違いない。ただ、美味しいかどうか、ってきかれたら、普通にピクルスと、ドライベジタブルを別々に食べた方が良いんじゃないか?って答えるだろうな、って感じだ。
「アタシも食べてみようっと。」
ネコ娘もドライ・ピクルスを食べた。
「うわー、これも美味しいね。」
「そうか? 珍しい食べ物だとは思うけど、美味いかって聞かれたら、オレは微妙だと思うぞ?」
「そう? この水分が飛んでいる分、酸っぱさがキュッと凝縮されて鋭くなってるところと、カリカリ食感が絶妙にマッチしてて、たまらないじゃない?」
「そうか? オレは、ピクルスと、ドライベジタブルを別々に食べた方が全然良いと思うぞ?」
「それじゃ普通でしょ。混ざってるから良いんじゃないの。 じゃ、次はフロストチーズってのも食べてみようっと。」
ネコ娘はドライ・ピクルスを食べて、バーボン・ロックをグビっと飲んでから、フロストチーズに手を出した。
「うん? あれ? これって・・チーズ、だよね?」
ネコ娘が神妙な、いや、珍妙な? 微妙な? 顔をしてる。あんまり美味しくないってことなんだな。
「チーズを凍らせたら“旨味が凝縮する”とか、そういうのを期待してたんだけど、なんかこう、“味の奥にドアがあるのに鍵が閉まってる”感じ? 旨味もコクも、全部どこかに避難したっていうか・・。」
「なんだそりゃ? えらく遠回しな言い方だけど、不味いなら不味いって言えば良いじゃないか。どれ、オレも食べてみようか。」
パクっと。
え? なんだこれ? チーズの抜け殻みたいな、気が抜けたチーズというか、なんかチーズ感が薄れてる、というか、ぼんやりしてるぞ。
「うん、まぁ、言いたいことは解った気がする。不味いとかじゃなくて、なんだか“味の魂だけ抜けて、殻だけ残されたチーズ”って感じだな。」
「そう、そんな感じよね。」
「なんていうか、もう、味の主役がいないんだよ。脇役だけ舞台に残されてるみたいな。 これじゃチーズじゃなくて、“チー”くらいだ。」
「……半分どころか八割消えてるわね、それ。」
「だろ? 珍しく同意してくれて嬉しいよ。うん、これはもう、次はオーダーしないかな。」
「アタシも同感だわ。 あ、すみません! これ、もうひとつ下さい。」
ネコ娘が、近くにいた女性スタッフにバーボン・ロックのグラスを持ち上げて見せた。
おいおい、次は3杯目だぞ?
当の本人のネコ娘は、酔った感じもなく、平然とドライ・ピクルスをポリポリと食べてる。
「ハイ、お待たせしました、バーボン・ロック。」
テーブルにロックグラスが置かれた。
「なぁ、このヴァルトベルク名物の3品だけど、オレ的にはブラウント・エッグは気に入ったが、ドライ・ピクルスとフロストチーズはちょっと難しかったな。」
「え? アタシはドライ・ピクルスも好きだよ?」
「まぁ、名物料理って結構クセがあるから、好き嫌い分かれるでしょうね。ちょっと尖ってるからこそ名物料理だしね。 他にも塩漬けトカゲ肉の炙り片とか、焦がし麦チップも定番のおつまみかな。」
「トカゲ? ちょっと怖いけど、定番だってことなら、折角だから食べてみようか、その2つもオーダーするよ。 あと、オレもお替わりで。」
オレもバーボングラスを軽く持ち上げて見せた。
「トカゲって食べられるんだね。知らなかったよ。」
「オレも知らなかったし、喰ったこともないよ。 まぁ、土地の味を知ることも情報収集の一つだからな。」
「そういう情報収集なら、アタシいつでも手伝うわ。」
「いや、こんな簡単で美味しい仕事なら助手なんかいらないだろ、オレ一人で十分だろ?」
「それはそうだよね。あはは。」




