第38話 ツイン
「この辺りにありそうだぞ。」
大通りから路地に入った。
「なんでこの辺にあるって分かるの?」
「それを感じるアンテナがあるからこそレジェンドって呼ばれてるんだよ。」
「感じるアンテナ? 妖怪アンテナみたいな感じ?」
「はぁ? キミの世界にも鬼太郎が居るのか? ミズキ先生はどこの世界線にも存在するのか? って言うか、鬼太郎だからネコ娘だったのか?」
「え? キンタロー? ハナミズキ? なに言ってるの? 妖怪アンテナって、森に居るミミズク族に付いてるやつでしょ?」
「あ、そうなの? 妖怪アンテナって本当にあるんだ。へぇ、ミミズクにね。あ、いや、そんなことはどうでもいいんだ、そういうのじゃなくて、感じるってのは、オレの豊富な経験から導き出された野生のカンのようなものだよ、レジェンドだからこそ備わってる第六感ってやつだな。」
路地から更に曲がって、大通りから2本奥の通りに入った。
お、ここはどうだ? 小さいけど綺麗に掃除されてる入口。小さいけれど手入れされてる植木鉢。
「こういうところが良い宿なんだよ。値段聞いてみるか。」
建物の中に入ると、小さいけれど清潔感のあるフロントがあった。
「いらっしゃいませ、お二人ですか?」
白いワイシャツを着た初老の男性がオレに声をかける。
「あぁ、1週間ほど世話になりたい。部屋は空いてるか?」
「ちょうどお二人用のお部屋は1部屋だけご用意できます。」
「え? 二人用の部屋? できれば、別々に2部屋欲しいな。」
「申し訳ございません。生憎、今空いているお部屋はその一部屋だけでございます。」
「そうなのか・・。 キミはどうする?」
「え? アタシ? アタシはちゃんとベッドがあるなら何でもいいよ?」
「そうか・・ オレ的にはあまりだが・・。まぁ、一応部屋を見せてもらえるか?」
「はい、かしこまりました。こちらです。」
初老のフロントスタッフはカウンターを出て、階段を上り始めた。
階段を3階まであがると、通路の一番奥まで進んだ。
「こちらのお部屋です。」
広くはないが決して狭くもない部屋にはベッドが2台と大きな窓があった。
「二人用の部屋って、ツインルームだったのか。」
「え?もしかしてダブルベッドが良かったの?」
「いや、逆だ。なんでオレがキミと同じベッドで寝なきゃならないんだ。ツインルームで助かったって意味だ。変な勘違いするなよな。」
「それではこちらのお部屋でよろしいですか?」
フロントスタッフがオレの顔を見る。
まぁ、この部屋しか空いてないんだから仕方ないよな。
「あぁ。他が空いてないならしょうがない。頼む。」
「かしこまりました。当宿は前金でお願いしておりますので、下のフロントで精算をお願いします。」
「オレは支払いしてくるから、キミは部屋に居て良いぞ。」
「はーい。 ねぇ、アタシこっちのベッド使っていい?」
「あぁ、好きにしろ。」
「やったー、じゃ、早速ゴロゴロしてるよ。」
そう言い終わる前にネコ娘が窓際のベッドに転がった。
まったく、このネコは子供だな。 あ、年齢は別にして・・。
「あとで夕食に出るんだが、この辺でおススメの店はないか?」
フロントで前金を支払いながら初老のフロントスタッフに聞いてみる。
ホテルのフロントってところも情報が集まりやすい場所だから、フロントに聞くのが一番効率が良いのさ。
「そうですね、夕食でしたら大通りに色んな店が出てますので、お好きな料理が食べられると思います。ただ、わたくしの個人的なお勧めでしたら、この先にある、ブラウンズキッチンっていう食堂が、味も値段も申し分ないかと思います。」
「へぇ、ブラウンズキッチンね。それは何料理なんだ?」
「そうですね、何料理というような気取ったものじゃなく、町の食堂ですね。」
「そうか、そういうのはオレも好きだ。よし、後でそこへ行ってみるよ。」
支払いを済ませて部屋へ戻ると、窓際のベッドの上でネコ娘が寝息を立てていた。
まったく、ネコってのは喰ってるか寝てるかのどっちかなんだな。
王宮からここまで歩いただけだから、たいして疲れてるわけじゃないけど、特にすることも無いし、ネコ娘も寝てるし、ってことでオレも少し横になるか。
ネコ娘が寝てる窓際のベッドの対面にあるベッドに腰かけた。
うん、昨日の王宮のベッドとは全然ちがうけど、このクラスの宿にしては十分すぎる位しっかりしたマットレスが敷いてあるぞ。 やっぱりこの宿は当たりなんじゃないかな?
そのまま体をベッドに横たえた。
「・・ねぇ。もう日が暮れてるよ? ねぇってば。」
誰かに呼びかけられながら体を揺さぶられて目が覚めた。
え? ここはどこだ? またしても見たことが無い部屋・・あ、ネコ娘がオレの顔を覗いてきた。
「うん? なんだ、キミか。どうしたんだ?」
「どうした、じゃないよ。 もう夜になるんだよ? このまま朝まで寝るつもり?」
「え? 夜? あれ? オレ、もしかして寝ちゃってたのか?」
「ほら、もう外暗くなってるんだよ?」
窓の外を見ると、確かに、すっかり夜の帳が降りていた。




