第31話 ネコ娘は積極的?
「兎にも角にもまずは、ちょっと横になりたいんだ。なにせ、ヴァンダニアの闇バー以降、ちゃんと横になって寝てないからな。」
そう言うと、寝室へ向かって歩き出した。
「そうだね、アタシもちょっと休もうかな。」
ネコ娘、いや、ネコ婆? 面倒なので、以降もネコ娘とすることにする、も寝室へ向かった。
まずはベッドに横になった。
ふぅ、腰が延びて気持ちが良いな。
体中がベタベタするので先にシャワーをしたい気持ちもあるけど、今はこのまま少し仮眠を取っちゃおう。
コンコンコン
ノックの音で目が覚めた。
なんだよ、せっかく気持ちよく寝てたのに・・。
「はい?」
「ねぇ、アタシだけど・・。入っていい?」
え? ネコ娘がオレの部屋に?
どうしたんだ?えらく積極的じゃないか。 やっとオレのハードボイルドとダンディさに気が付いたのか?
とは言え、相手はネコだからな・・。 しかもオレより年上だし。
まぁでも、据え膳食わぬは男の恥っていうからな。
「あぁ、カギは掛かってないぞ。」
声のトーンを落としてハードボイルド度を20%増しにしてみた。
カチャッ。
バスタオルを巻いただけのネコ娘が入ってきた。
……来たか。 またひとり――俺という伝説を求める迷える子猫が迷い込んだわけだな……まったく、俺の魅力ってのは、やはり罪だよな。
「ねぇ・・」
ネコ娘が小さな声を出した。
「……フッ。禁断の扉を叩くとは、いい度胸だな。 ネコ娘よ、オレというレジェンド探偵の部屋を訪ねるという行為が、いかに危険な賭けかをわかっているのか?
ふ、まぁ、いいだろう、その覚悟、受け取った。それがキミの願いだって言うなら、もちろん、叶えてやるさ。」
ベッドの上で上半身を起こして両手を軽く広げた。
「え? 本当? 良かったー、面倒がられるかと思って、ちょっと心配してたんだよー。」
ネコ娘の声が急に明るくなった。
そんなに嬉しいことなのか?
「だって、アタシ、こんなちゃんとしたシャワーなんか使ったことないからさ、どうしたらいいか全然わっかんないんだもん。蛇口ひねったら、お湯が出たんだけど、熱すぎて火傷しちゃいそうなんだよね。どうやって使えば良いの? 来て、教えて!」
は? シャワーの蛇口? 教えて??
「えぇっ? なに? なにがどうしたって?」
「だからー、シャワーしたいんだけど、シャワーの使い方がわかんないから、アタシの部屋に来て教えてよ。 助けてくれるんでしょ? お湯のシャワーは危険なんでしょ?」
ネコ娘が部屋を出て行った。
あ、オレが言ったのは、危険な賭けであって、シャワーのお湯が危険とかじゃないんだが・・。
「ねー、早く来て!」
遠くでネコ娘の声がする。
まぁ、人生にはいろいろあるさ。
ネコ娘の部屋のシャワー室に入ると、確かにシャワーヘッドから湯気を立ててるお湯が出続けていた。
「ほら見て! これじゃ熱くてシャワー出来ないのよー。」
「これ、お湯の蛇口だけ捻ったからじゃないのか? それとも水の蛇口が壊れてるってのか?」
水の蛇口も捻ると、シャワーのお湯の温度がどんどん下がっていく。
なんだよ、別に壊れてないじゃないか。
「これくらいでどうだ?」
シャワーヘッドをネコ娘の手の前に差し出す。
「うーん、まだちょっと熱いかなー。ほら、アタシたちってネコ舌だから。」
え? ネコ舌って、手も熱いのだめなのか?
いやでも、手だから舌じゃないよな? ネコ手っていうのか?
それじゃ、もうすこし水の蛇口を回すか。
「それなら、これでどうだ?」
「うん。ちょうど良いかな。そうか、そっちの蛇口も回して、温度を調整するのか。初めて使ったからわからなかったよ。サンキュね。さすがレジェンド探偵、なんでも知ってるんだね。」
「いや、シャワーの温度はレジェンドじゃなくても誰でも調整できるだろ。」
ってか、オレ、実は馬鹿にされてないか?
「ねー、いつまで居るの? アタシ、シャワーしたいんだけど。」
ネコ娘に睨まれた・・
ふん、ネコの入浴シーンなんかにゃ興味は無いぜ。
なんだよ、結局オレは雑用係として、せっかくの睡眠から起こされただけかよ。
部屋に戻ったが、今さら、また寝るものちょっと違う気がするんで、オレもシャワーを浴びることにしよう。
シャアアアア……熱湯が肩を叩きつける。まるで運命の雨みたいに、容赦がない。
うん、やはりシャワーは少し熱めが気持ちいい。
この気持ち良さを感じるのは久しぶりな気がする。そりゃそうだ、ヴァンダニアの闇バー以降、シャワーなんて・・、いや、それよりももっと久しぶりな気がするぞ。
あ、そうか、アパートの家賃滞納して、追い出されて、事務所で寝泊まりし始めてからは、タオルで体拭くだけだったっけか。
そう考えると、案外とこっちの世界の方が面白いな。
コンコンコン
シャワーを終えて、部屋のベッドで再びゴロゴロしているところで、 またドアがノックされた。
またネコ娘か?
「なんだ? カギは掛かってないぞ。」
どうせまたくだらない頼み事なんだろう、2度は同じ手に引っかからないぞ。




