第19話 荷車
はぁぁぁ? この鉄格子のカギって手で開くの? なんだそりゃ?
「え? これ、鍵ついてるんじゃないのか?」
「うん?鍵はついてるよ? でも、アタシはこの爪で鍵のロックを引っ掻けて開けられるんだよね。」
「あのな、鍵開けられるんだったら、とっととここ出てれば良かっただろ。」
「だから、さっきも言ったじゃん。ここを出ても、どうせまた掴まってここに戻されるしさ、掴まる時痛い思いするのイヤだからさ。」
なるほど、まぁ、それも一理あるか。それにしても、このネコ娘、鍵は開けるは、ここからの出口は知ってるは、案外使えるじゃないの。
「ふん、臨時とは言え、オレの相棒を務める以上、これくらいは出来て当然ではあるけどな。」
「ねぇ、だからさ、いきなりそのキャラ作るの面倒じゃないの、ってば。」
「キャラじゃねぇよ! ほら、いいからとっととここ出ようぜ。」
「そうね、行きましょうか。じゃ、開けますよ。」
キィィィ。
おいおい、脱獄ってこんな感じなのか? これじゃ脱獄ってか脱力だぞ?
「なぁ、警備兵って巡回に来たりしないのか?」
「あの人達は用事が無い限りここへは来ないかな。」
「そんなもんなのか? ずいぶん雑な扱いなんだな。」
「でも、おかげでこうやって簡単に出られるんだから良いことじゃない。ほら、行こうよ。」
「ま、そうだな。行くか。」
ネコ娘と一緒に、ジメジメした階段を登る。
階段を登りきったところで、ネコ娘が手でオレを制した。
「ここで止まって。アタシが外の様子確認するから。」
ネコ娘が鼻をヒクヒクさせて、耳がクルクルと動いてる。
この辺はちゃんとネコなんだな。
「おっけー、誰も居ないみたいだよ。あの木陰まで行くよ。」
ネコ娘が中庭の端、の腰丈の木がこんもりと茂ってる場所を指さした。
ネコ娘と一緒に中庭の端を小走りに走って、茂みの中に入った。
「よし、おっけー。次はゴミ回収の荷車が通るのを待ってれば良いかな。」
「それ、そのゴミ回収の荷車って、いつ頃来るんだ?」
「そうね、普通は1日3回で、たまに有害ごみと粗大ごみの回収が来るかな。」
「え? 1日3回も回収が来るのか? そんなにゴミが出るのか?」
「ゴミが出るっていうか、最低でも、可燃ゴミ、不燃ゴミ、リサイクルは毎日来るでしょ、普通。」
「そうなのか? オレの元の世界でも可燃ゴミが週2、不燃ゴミとリサイクルが週1でしか来なかったぞ?」
「え? それじゃ、ゴミを家に置いたままになっちゃうってこと?」
「まぁ、そうなるな。でも、2、3日分位は溜めといたほうが効率よくないか?」
「そうかな? ゴミが溜まって増えちゃったら、荷車に乗り切らないんじゃない?」
「あ、そうか、回収する荷車の容量が小さいから毎日回収しないといけないってことか。オレの世界ではゴミ収集車って、こうゴミをプレスして詰め込んでるから1台で確か、3トン位運べるんだけどな。」
「え? ゴミをプレスするの? どうせ捨てちゃうのに? 貴方の世界って不思議なことするのね。」
「いや、ネコ族とか居る世界の方が不思議だろ。」
「はぁ? 貴方の中でネコ族とゴミ収集って同じレベルなの?」
「あ、いや、そういう意味じゃないよ。不思議度で言ったらキミ達ネコ族の方が何十倍も何百倍も不思議だよ。」
「いや、別に、不思議レベルが高いから嬉しいとかじゃないしね・・。ま、いっか。」
ネコ娘が耳をピクっと動かした。
「あ、ほら、噂をすればってヤツだよ。来るよ、荷車。」
さすが耳が良いんだな。
ネコ娘、次は鼻をヒクヒクさせて、直ぐに渋い顔になった。
「こりゃダメだ。」
「え?なんでダメなんだ? ゴミの荷車なんだろ? チャンスじゃないか。」
「これ、生ゴミの荷車だよ? これに紛れるの? アタシはリサイクルか、せめて不燃ゴミの荷車に乗り込みたいけどな。」
「あ、そういうことか。じゃ、この荷車は見送るか。」
ガラガラガラ・・
中庭をゴミの荷車がゆっくり進んできた。
うわ、確かにこれは臭い・・。
荷車は通用門から出ていったが、中庭には、まだ生ゴミ臭が漂ってる。
「これはかなり強烈だな。」
「うん。アタシ、鼻が効く方だから、これって、ほぼ拷問なんだよね。」
ネコ娘がまだ渋い顔をしてる。
やっと生ゴミ臭が消えたころ、またネコ娘の耳がピクピクし始めた。
「来るよ、荷車だ。 あ、これはリサイクルだね、瓶の音がカチャカチャしてるよ。」
「よし、じゃこれに乗るんだな?」
「そうだね、荷車の後ろの回って、乗り込めば通用門を抜けられるはずだよ。」
ガラガラガラ・・
荷車が中庭に入ってきた。
「今だ!行くよ!」
ネコ娘が荷車の後ろ側へ向かって走り出した。
オレも後ろを走る。
荷車の後ろまで走ると、ネコ娘はそのまま荷車に飛び乗った。
流石はネコ。ジャンプ力半端ないな。
「ほら、掴まって!」
ネコ娘が荷車の中から手を出した。
その手を握って、そのまま荷車へ向かってジャンプした。
うわ、ネコ娘のような飛距離がない・・。それでもネコ娘が手を強く引いてくれたおかげで、もう片手が荷車に届いた。
後は必死に荷車に這い上がる。
「ふぅ、助かったよ。」