第18話 取引成立?
やっとネコ娘と手が離れたら、ネコ娘の目が大きく見開いていた。
「貴方、本当に面白いわ。そして結構やるじゃないの。」
「お、おう。なんだよ藪から棒に。」
「そのヴォイドベルの設定は最高だわ。確かにヴォイドベルの幹部じゃないと、鐘に十字架と鎖が絡まった図柄の紋章、それも金箔になってることは知らないからね。」
「当たり前だろ、オレはこんなストーリーを作るのは朝飯前だからな。」
「あと、何年ぶりかでここの中庭を見たわ。あの建物には審問官の部屋があったんだね。今始めて知ったな。あの建物には入ったことも無かったから。」
「そうか。キミは本当にずっとここに閉じ込められてるんだな。」
「そうだよ。これからもずっとね。」
これからもずっと、って、軽く言うけど、それって結構重いよな。
ちょっとムカつくけど、決して悪い子ではないし、オレにも優しいし、なんでこんな子が一生ここに居なきゃいけないんだろうな。
「なぁ、キミはずっとここに居るって、それで良いのか?」
「良い訳ないけど、どうしようも無いでしょ。それがこの国の決まりなんだから。」
「・・うん? この国の決まり? ってことは他の国では違うのか?」
「そうね、詳しくは知らないけど、少なくとも貴方が居たシュバリアではネコ族が捕まったりはしないって聞いたことがあるけど。」
「そうなのか? だったらシュバリアへ行けよ。」
「はぁ? 何いってんの、行けるなら行ってるわよ、もちろん。」
まぁ、そりゃそうだよな、まさか自分でここに来たわけじゃないだろうしな。
「なぁキミ、それじゃ、オレと一緒にここから逃げないか?」
「え? 逃げる? 貴方と一緒に?」
「そうだ、だってオレ、このままじゃ、あと2、3日後に処刑されるんだろ?」
ちょっと現実感に引き戻されて、ドキドキしてきたぞ。ダメだ、レジェンド探偵はこんなことでいちいち同様しちゃダメだ。
「オレたち、レジェンド探偵はな、一度引き受けた依頼は必ず遂行する、それが鉄の掟なのさ。だから、まずはここから出て、ヴァルトベルクに戻らなきゃならねぇからな。」
「貴方急にキャラ戻ったわね?」
「オイ、キャラとか言うな、キャラとか。 まったく近頃の小娘は・・。」
「そりゃアタシだって外には出たいよ? でもここを出ることが出来ても、どうせまた掴まってここに戻されるだけだしさ。」
「ここを出たらオレと一緒にヴァルトベルクへ行けばいいだろ。」
「え? 連れてってくれるの?」
「オレは困ってる、か弱い娘を見捨てるような外道じゃないんだぜ。」
ふ、決まったな。
「そっか、アタシなら、少なくとも、このマグメトリア監獄を出ることまでは出来る訳だもんね。貴方もアタシが必要ってことだよね?」
「はぁ? 一緒に連れてってやろうかって言ってるのに、なんで上からなんだよ、まったく近頃の若いネコは・・ あれ? え? 今なんて言った? 監獄を出ることが出来るって言ったか?」
「言ったよ。だって、ここの地図わかってるもん。中庭があったでしょ? 審問官の部屋があった建物の脇に通用門があるんだよ? 貴方の記憶映像を見せて貰った時に、まだそこに門があるの見えたし。」
「そうなのか。その通用門って警備兵はいるのか?」
「そりゃ居るでしょう。でも、正面入り口ほどの警備じゃないよ、関係者が出入りする通用門だからね。」
「どうやったら出られる?」
「そうね、アタシならここから出る荷車に乗るかな。あ、ゴミ回収の荷車に乗っても良いかもね、あれなら毎日来るし。」
なんだこのネコ娘、使えるじゃないか。
オレにもツキが回って来た、いや、ちがう、運を引き寄せるのもレジェンドの力だ。
「ふん、なるほどな。要するにキミはオレと取引がしたいって訳だな。キミはオレをここから出す、そして、オレがキミをヴァルトベルクに連れて行く。面白いじゃないか、それ、乗ってやっても良いぜ。」
「ねぇ、いちいちキャラ戻さなくても良いんだよ? 面倒じゃないの?」
「だから、キャラとか言うなって、ネコ娘!」
「はいはい、まぁいいわ。そうね、ここに居ても何も面白いこと無いし、やってみましょうか。アタシ、貴方のこと結構好きかも。全然退屈しないしね。」
え、『好き』? ネコ娘とはいえ、女子だぞ? 『好き』って言われた?
「お、おう、オレもキミ見たいな子に力を貸すのはやぶさかじゃ無いな。」
「はい、じゃ、交渉成立ってことだよね? で、いつ決行するの? アタシは今直ぐが良いと思うよ? まさかいきなり脱獄するなんて思ってないだろうしね。」
「そうだな、オレも全く同じ意見だ。今夜、寝静まってから、なんて最悪だ。絶対に警戒されてるはずだからな。」
「じゃ、行く?」
「え? 今とは言ったけど、ホントに今なのか?」
「何言ってるの? 『今』だか今なんでしょ? 『後で』だったら、今じゃないんだよ?」
「お、おう・・。 いや、そういう意味じゃなくて、今って言っても、どうやって扉開ける、とか、そういう準備を始めるのが今って意味で・・。」
ネコ娘がスッと立ちたがって、扉に近づき、右手を鉄格子から外へ出して外から扉を触った。
カチャっ、キィィー。