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第17話 【ニーニャ】 面白そうな話

 宮廷広報のID? それもシュバリア国王から直々に? 面白そうな話だわ。


でも、このオッチャン、記憶を見られるのを警戒してるみたいだから、簡単に手を握らせてくれるかな?


まぁ、あまり思慮深く無さそうだし、脳で考える前に脊髄反射で動いちゃいそうな人だから、試してみる価値はあるかもね。


「なるほどね。貴方って凄いわ!」


そういってちょっと持ち上げて、ニコやかにオッチャンの前に両手を出したら見事に手を握りってきた。想像以上に単純明快なオッチャンだな。


それでもオッチャンは何かを思い出したのか、手を振りほどこうとしてきたけど、もう手遅れだよ。ガッチリを手を握ったまま離さないからね。


そして頭の中に映画が映写されるように、何かの光景が映し出される。それもオッチャンのナレーション付きで。



階段を何階分か登ると中庭のような所へ出た。日差しが眩しい。

中庭を抜けて、別の建物の階段を登ったところの黒い木の扉の部屋に入り、机の前に置かれた丸太に座らせられた。


部屋の奥の扉が開いて、警備兵とは対象的な貧弱な男が入ってくる。

男は机の上にオレの宮廷IDが置かれた。


「シュバリアの番犬さん。ちょっと話をしようじゃないか。キミが興味津々だった、ここヴァンダニアでね。あ、まずは挨拶しておかないといけないね、私はエルネスト、ヴァンダニア国軍で審問官をやっている。キミは、シュバリアの宮廷広報官のアサクラさんだね? ようこそヴァンダニアへ。」


いかにも審問官って感じの、冷酷そうな目だ。

さて、どうするか。まさか異世界から召喚されてきました、なんて言って話しが通じるわけもなく、だいたい、誘拐された王族の捜索なんてことバラしたら今度はシュバリアから確実に命を狙われちまうじゃないか。


ハードボイルドでダンディな群れない孤高のレジェンド探偵、情報戦と心理戦でオレが一歩でも引けを取るわけがない。


「やぁ、はじめましてエルネスト審問官さま。素敵な宮殿へご招待頂き、感謝で心が震えて止まりませんよ。こちらこそ、楽しい話が出来ることを期待してますよ。」


「ほほう、余裕しゃくしゃく、流石は宮廷広報官ですな。まぁ、私にとっては楽しい話になると思うが、キミに取っても楽しい話になることを願ってるよ。もちろん、キミの態度と気持ち次第だがね。」


「いきなり単刀直入で悪いんだが、ヴァンダニアを調査している目的はなにかね?」


「おっと、それはせっかちが過ぎるじゃないか。せっかちってのは人生の余白を読み飛ばしてるようなもんだぜ。オレはその余白に意味を見いだせる漢になりたいと思ってるんだがな。」


「私にもその余白とやらを読み飛ばさずに話してくれないか?」


「まず最初にオレは自己紹介をしないといけないんだが・・」


「流石に自己紹介は余白過ぎないか。」


「まぁ、聞いておいて損はない。というより、これを聞かないと話が前にすすまない。本当はこんな話はしたくないが、この状況では本当のことを話すしか選択肢が無いからな。」


「本当のこと? なんだそれは。」


「オレはヴォイドベルのアサクラ、6年前からシュバリアに宮廷広報官として潜入中だ。当然、貴国ヴァンダニアに敵意も興味もない。」


「なぁにぃ?ヴォイドベルだとぉ? 何を言い出すんだ。」


「まぁ信じられないよな。普通、ヴォイドベルは自身を明かさないものだからな。オレの右ポケットにナイフが入ってたろう。そのナイフの柄にヴォイドベルの紋章、鐘に十字架と鎖が絡まった図柄が彫ってあったろう? あの鐘の部分が金箔になってるのはヴォイドベルでも支部長以上しか持てない幹部の証さ。」


審問官が警備兵を手招きし、耳元で何かを指示する。


「キミがここへ運び込まれた時には何も持ってなかったそうだぞ。」

エルネスト審問官が訝しげな目を向ける。


「なにぃ、オレのナイフが無くなってる? それはマズイぞ。あのナイフがあれば、どこの国でも街でも、ヴォイドベルのアジトに入れるんだぞ。探してくれ!」


「あ、あぁ、わかった。後で荷車も確認させよう。」

オレの迫真の演技に押されて疑念は吹き飛んだようだな。


「ヴォイドベルがなぜヴァンダニアを偵察するんだ?」


「ヴァンダニアに敵意も興味もない。いや、正確に言うと、興味はある。正直に言うと、酒場で店の噂を聞いたんだよ、珍しい外国の酒があるってさ。」


「それで?」

審問官の鋭かった眼光があきらかに興味を失った、という感じの目に変わってる。


「オレは、バーボンをロックで飲むことくらいしか人生に彩りがないのさ。だから、バーボンには拘る。あのバーで飲んだ、ブレイブロジャー、だったか?は、バニラのような甘く香ばしい強い香りとパンチのあるスパイシーな味で最高だったぜ。オレが今まで飲んだバーボンの中でも間違いなくトップ争いをするだろうな。それに一緒に食べた、塩味の効いた丸いクラッカーに発酵させた小魚の黒いペーストを乗せたツマミもブレイブロジャーにベストマッチだった。」


「で、何が目的だったんだ?」


「いや、美味いバーボンが飲めたんで目的達成だ。オレがヴァンダニアのタバコは無いのか、と聞いた所で連れ出されて、今ここにいるってわけさ。」


「もういい、監獄へ戻しておけ。」

審問官が警備兵へ指示を出した。

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